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夏の合宿所 【叔父さんの目論見】
叔父さんの言う『意外に頑張った』の意味が分からない。
いや、チョット待てよ?
叔父さんと彼女は、そもそも何処から出て来たんだ?
一晩中、探し回ったのに。
「意味が良く分からないのですが…」
叔父さんが、うんうんと頷きながら口を開く。
「一芝居打ったつもりが、最後に神様のちょっかいが入った感じかな」
叔父さんの言っている意味が、ますます分からない。
「叔父さん、エムくんとユリちゃんは何も知らないのだから、最初から話さないと分からないでしょう?」
「そうか… じゃあ、簡潔に説明してくれよ。トリックの分かりやすい解説も小説家に必要な能力だからな」
トリック? 叔父さんは今、トリックと言ったよね。僕たちを騙したの?
「では、私から説明します。その前に今まで隠れていてゴメンナサイ。真夜中に一生懸命探してくれて恐縮しています。私は乗る気ではなかったのだけど… 本当にゴメンナサイ」
ということは深夜からの大騒動は、叔父さんと彼女の悪巧み?
「事の始まりは、あのビルの暑さよ。あんな所にいたら小説を書き終える前に脳ミソが沸騰してしまうわ。それでね… 」彼女は深夜の出来事を申し訳なさそうに説明してくれた。
先月、彼女が叔父さんに合宿所の暑さ対策をお願いし、今月の避暑地行きが決まり、叔父さんが伝を使い、この元ホテルをタダで借りられた迄は良かったけど、その話が叔父さんの友人、オカルト同好会の耳に入り話が変な方向に。
同好会の面々は夏のイベントを(勝手に)考え、ユリさんと僕を吊り上げる準備やホテル内にビックリイベントを企画して、怪しい仮面まで用意してスタンバイしたらしい。バーベキューセットや業務用冷蔵庫の中身も揃えてくれたことだけは感謝すべきかも知れない。
深夜にいなくなった彼女と叔父さんは、ホテルのそばにある管理棟からホテルの監視カメラを使い、中の様子をトランシーバーで同好会メンバーに伝えていたそうだ。ユリさんと僕の捜索を想定して仕掛けたビックリイベントは不調に終わったらしい。仕掛けたところまで僕たちが辿り着かなかったそうだ。何処に仕掛けたのだろう?
最後に玄関の吹き抜けフロアで僕たちが眠ってしまったのは、同好会の思惑通り。でもあの流れでは、フロアのソファで眠ってしまう以外の選択肢はなかったように思う。
彼らの計画では、僕たちがもっと早く音を上げて玄関のソファまで来ることを想定していたから、ようやく明け方に玄関まで来て眠ったときには「いよいよ」と期待して、ユリさんと僕を吊り上げてからが、クライマックスだったらしい。
眠たそうな叔父さんが口を挟む。
「そこであの稲妻とお狐さまだからな。6月に赤坂であったことは彼女から聞いたけど、エムくんはまだお狐さまを背負っているのかい?」
どういうこと? 叔父さんの言っている意味がやっぱり分からない。
「ユリちゃんとエムくんを網で捕まえてお芝居を打とうとしたとき、凄い雷が近くに落ちたの。それにも驚いたけど、モニターを見ていたらフロアにいた同好会の人たちが慌ててここから逃げ出したのよ。トランシーバーから『お狐さまの祟りが…』と、大声が聞こえてきたわ」
「ここにお狐さまが出て来たの?」
「エムくんたちは上に吊されていたから見えなかったのかも知れないけど、同好会の人たちの前に、怖いお狐さまが現れたそうよ。モニターには狐火しか映らなかったけど」
狐火が映っただけでも十分だと思う。
話を聞いていたユリさんが首をかしげる。
「『お狐さまは神様の使いなので祟らない』と、レイさんから聞きましたけど」
ウンウン、赤坂でお狐さまに憑依された本人が一番それを覚えている。
ユリさんの先輩、神道学部のレイさんに確認したからね。
「あいつら(同好会メンバー)、オカルト好きだけど、神様のことは勉強していないからなぁ」
「叔父さんだって、私から赤坂であったことを聞くまで、知らなかったじゃない」
彼女の指摘に、叔父さんは苦笑い。
結論は分からずじまいだけど、オカルト同好会の人たちがユリさんと僕を大きな捕虫網で捉えたのをお狐さまが知り、みんなを追っ払ったらしい。
未だお狐さまを背負っているのかが、気になって来た。今度、レイさんに会って確かめてみよう。
そのあと彼女は、ユリさんと僕に改めて深々と頭を下げながら、隠れていたことを謝り、叔父さんからは「まあ、暑い夏の余興だよ」と、誤魔化された。
お日様はとっくに顔を出し、8月の眩しい光が窓越しに差し込んで来る。
彼女から「一晩中起きていたから眠たいけど、お腹が空いた」の一言で、とりあえず朝食を取ることになり、キッチンの食材を持って裏庭へ。
昨晩と同じようにガスバーベキューグリルの鉄板で、卵・ソーセージ、パンを焼き、冷蔵庫から飲み物や野菜を持ってきて、朝食をみんなで食べることにした。食べ慣れている食事でも、朝早く外で食べると美味しい。
雑草が生え放題の広大な裏庭も、軽井沢の朝露で清々しい。
叔父さんは朝から缶ビールを開けていたけど、いつもは口を出す彼女も眠気が優っているのか欠伸をしながら焦げたトーストをかじっていた。
彼女が叔父さんに「これからどうするの?」と聞くと「まず睡眠、あとは執筆」とだけ言い、缶ビール片手に自分の部屋へ戻って行った。
あの調子だと起きたら夕方。叔父さん的にはイベントが終わったからやることがないのかも知れない。
僕たち3人もとりあえず、午前中は仮眠を取ることにした。
(つづく)