見出し画像

第53話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修最後のトレーニング4】

 下から見える詩織の両足は、撃たれて倒れたままなのか、ピクリとも動かない。
「なんてことするのー! 研修中なのにぃ!」
「許さないから!!」
 亜香里は目を閉じ、ep9 のレイがやったようにサンドクローラーを指し示し、気を高めた。
 周囲の空が急に暗くなり、雷雲が立ちこめてくる。
 能力者補になる前のトレーニングテストでは発することが出来たチカラが、再び全身に漲ってくるのが感じられる。

「みんな、サンドクローラーから離れて!」亜香里が叫び、悠人と英人が急いで岩陰に避難すると、巨大な雷鳴とともに稲妻がサンドクローラーを直撃し、大きな鋼鉄の車体は粉々に飛び散った。
 タシケン・レーダーたちの姿は見当たらないが、稲妻が落ちる直前に逃げ去ったようだ。

「詩織ぃ! 今行くから!」
 崖の上から倒れた両足が見えたまま返事のない詩織のところに、亜香里は目に涙を浮かべながら必死に渓谷の崖をよじ登っていく。悠人と英人も後を追った。
 亜香里は何度も足を滑らせながら、ようやく詩織が倒れている渓谷の上の道まで這い上がり、倒れたままの詩織に駆け寄る。
 崖の狭い道に、詩織は突っ伏すようにうつ伏せになったまま動きが無い。
「詩織ぃー! 死ぬなぁー! まだジェダイになってないよー」亜香里は泣きながら、詩織の身体をゆっくりと抱きかかえ、仰向けにする。
「ん...んんっ」詩織から、うめき声が聞こえる。
「詩織、生きてる? 生きてるの? 死んでない?」
 あわてて、詩織の脈を取る。
「あれ? 生きてる? ブラスター・ライフルで撃たれたのに? あっ、分かった! スタン・モードで撃たれたんだ!」
 新入社員研修中のトレーニングで『組織』が、新入社員(能力者補)を殺すはずはないのだが。
「ん? 亜香里? どうした? あっ! 身体がシビれて動かない。どうしたんだろう? そっかー、撃たれたんだ」
「詩織ぃ、もうー、ビックリしたよ! 下から見えるのは、死体の足だけだったから」
 亜香里は、涙でグシャグシャになった顔を手で拭いながらホッとした表情をして、シビれで動けない詩織を抱きかかえる。
「私は死体ではないけど? でも身体がシビれて、全然動かせない」

 悠人と英人も崖の道まで上がってきて、詩織を抱きかかえる亜香里を見て2人ともホッとした顔をする。
「シビれが抜けるまで、しばらく時間がかかると思います。亜香里さん、ブラスターのスタン・モードのシビれって、どれくらいで回復するのですか?」
 英人が聞いてきて、亜香里は頭を捻る。
「それを私に聞く?(英人「だってスター・ウォーズのことは何でも知っていると思って」)映画でシビれから直るシーンは、今まで一度も見たことないし、どうなんだろう? しばらくしたら直るのかな?」
「相変わらず亜香里は、いい加減だなぁ。とりあえず話は出来るし、呼吸もしているから、中枢神経のやばいところにシビれはなさそうだし、マヒしているのは首から下の末梢神経部分の少し上からとかでしょう? いずれ治るよ。ところで私が撃たれてから、どうなったの? 3人がここに上がってきたと言うことは戦いは終わったの? 優衣は?」
「小林さんがサンドクローラーに稲妻を落として戦いは終わりました。篠原さんは反対側の崖にいて無事です」英人が説明しながら反対側に手を振ると、優衣が大きく両手を振って返してきた。
「そっかー、下から撃たれたのは不覚だった。亜香里、助けてくれてありがとう。でもいきなり凄いチカラを出して大丈夫? 稲妻ってシス卿の電撃でしょう? 亜香里はダークサイドに落ちるの?」
「詩織は身体がシビれていても、言ってくれるねぇ。私は宇宙を支配しようとは思っていません。詩織のシビれが治るまでここに放置しても仕方ないから、悠人さんと英人さんは、2人で担いで下まで下ろしてもらえますか? 私は詩織のバイクに乗って下りようと思います」
「了解、2人で交互に背負って降ります」
 素直に亜香里の指示に従う悠人と英人、亜香里が落とした稲妻の衝撃からまだ冷めていないようだ。
「亜香里は初心者だから、バイクごと渓谷に落っこちないように注意してね」
「了解です」亜香里はそう言って危なげなく、元いた谷底まで下りて行く。

 優衣は一足先に谷底に下りて、みんなを待っていた。
「さっきの稲妻は、何ですか? 亜香里さんはパルパティーン皇帝になったのですか?」
「いやいや、そういうつもりはなかったんだけど、詩織が銃で撃たれて、下からは死んだ足しか見えなかったから、状況を打開するために相手を倒そうと思い、気を入れてみました」
「気を入れただけで、ああなるのですか? 強すぎです。これから私の肩を掴むときには、少し気を抜いて下さい」
「あれは別、優衣への愛情がこもっていますから」
『ハァー』と、ため息をつく優衣であった。

 しばらくして、詩織を担いだ悠人と英人が谷底まで下りてくる。
 2人に肩を借りている詩織はまだ足下が覚束ないが、だいぶシビれも収まってきたようだ。
「お待たせしました。シビれも治ってきたので、バイクくらいなら乗れそうです」詩織は、粉々になったサンドクローラーの残骸を見て驚く。
「さっき言っていた稲妻の結果がこれ? うーん、ヤバくない?」
「能力者補だから仕方がないじゃない? どうヤバいの?」
「人として?」
「詩織は、頭もシビれちゃったのかな? やってしまったことは仕方がないよ」
「稲妻が落ちたとき近くで見ていたのですが、ここまでの能力は『組織』に相談すべき事項だと思うんです。ここを抜けると高橋さんに会えるはずですから、相談した方が良いと思います」悠人が言い、英人もウンウンと頷く。
「『組織』のことだから、ここであったことも何処かで記録してます。高橋さんに会ったら話が出るでしょう? 詩織はそろそろバイクに乗れそう?」
「たぶん乗ってしまえば大丈夫。出発しましょう」悠人が詩織のバイクを支え、英人が肩を貸して詩織をバイクに乗せる。
「走り出せばバランスがとれるから、そうしたらバイクから手を離しても大丈夫」そう言いながらゆっくりとアクセルを開け、詩織は走り始めた。

 他の4人も遅れないようにバイクを発進させる。
 渓谷を抜けたあとは、最初のような砂漠地帯が続いた。
 亜香里の腹時計がお昼を告げる頃、前方に建物が見えてきた。
(イベントが終わったから、ゴールは宇宙港? ハン・ソロとチューイに会って、ミレニアムファルコンに乗って、ハイパードライブでビューンと行って終了かな?)亜香里はハイパードライブで、どこに行こうとしているのか?

 街の手前で、先頭を走る悠人がバイクを停止させ、他の4人も停まった。
「街に近づきましたが、これからどうしますか? そのまま街に入って高橋さんを探すのか、それとも注意しながら少しずつ街に近づくのか?」
「今回は、負傷者を出しながらイベントをこなしたから、この街には素直に入ってもいいんじゃないのかなぁ? ここでまた戦闘にはならないと思うよ」
「亜香里の言うことには一理あるね。戦闘になって亜香里がまた稲妻を落としたら、今度は場所が街だから被害が大きそうだし」
 詩織の説明に、亜香里以外の3人は大きくうなずき、バイクでそのまま街に入ることにした。
(みんな、私のことを勘違いしていないかなぁ?)腑に落ちない亜香里である。
 街に入ると、街中の様子はタトゥーインにある街そのもの、ただ宇宙人影は無く、クリーチャーも見当たらない。
 街中を低速で進み、左右の建物のガラス窓に注意しながら進む5人。
「もぬけの殻ですね。亜香里さんの稲妻に恐れをなして、みんな逃げてしまったのでしょうか?」
「そうでもないみたいよ、向こうの方から何か飛んで来てる。また戦闘モードかな? ようやくシビレが治ってきたのに」
 詩織が見る方向にみんなが目を向けると、タイファイター2機と輸送船が街の奥の方で着陸を始めている。
「さっき戦いが終わったばかりなのに、またですか? 今度はストームトルーパーが出てくるだろうから、戦闘は必須じゃないですか? 宇宙船から出てくる前に、宇宙船ごと吹き飛ばしてしまいますか?」
「亜香里、それはダメ! さっきは助けてもらったけど、作戦の実行方法としてはグレーだったし、ここでいきなり稲妻を使うのはアウトだと思うの。高橋さんが言っていたチーム内のコンセンサスが必要だと思うよ。亜香里のチカラを使えば一発で決着がつくと思うけど、そんなことを続けていたら、亜香里が能力者でいられなくなると思うの」
 詩織の言葉に、亜香里も他の3人も考え込んでしまう。
 優衣がその場の雰囲気を変えようと話題を振る。

「さっき高橋さんが『街に居る』と言っていましたよね? この街のどこかに居るはずですから探しませんか? 輸送船は今ちょうど着いたばかりだから、ストームトルーパーが街中に入ってくるまで少し時間があります。詩織さんはまだシビレが微妙だから、萩原さんと加藤さんと私で探しに行きませんか?」
「私は?」
「亜香里さんは、私たちの様に低速でのバイクの取り回しに慣れていないので、もしもに備えて未だ体調が戻っていない詩織さんを守っていて下さい。亜香里さんがいればストームトルーパーが束になって攻撃して来ても平気でしょう?」
「分かりました。そこの酒場にいます」
「「「 それでは、行ってきます 」」」3人とも左手はブラスターを掴みながら、ハンドルに手を添えて、静かに進み始めた。
 亜香里と詩織は用心のため、バイクごと酒場の中に乗り入れる。
「おぉーっ! モス・アイズリーの酒場そのもの! 宇宙人バンドの演奏がないけど」
「誰だい? 酒場にバイクで乗り入れる、マナーがなっていない客は?」
 酒場の奥の方から声が掛かる。

 奥のボックス席、ハン・ソロがテーブルの下からブラスターで賞金稼ぎを返り討ちにした席に、今まで3Dホログラムでしか見たことがなかった実物が座っている。

「「 高橋さん!!」」