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第42話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修第3週 能力者補トレーニング5】


 亜香里、優衣、英人の3人は交代で焚き火番をしながら朝を迎えた。
「おぉー! 日の出を見るのは久しぶり。おまけに水平線から!」
 亜香里が焚き火番をしているときに日が昇り、ひとりで感動して大声を上げると、その声で優衣と英人は目を覚まし、待避壕から出てきた。
「おはようございます。結局、恐竜や獣は出てきませんでしたね」
「昨日の夜、焚き火番をしていたときに詩織からインターカムが入ったけど萩原さんと詩織は大変だったみたい。恐竜の大群に遭遇して逃げ回ったと言っていました。大丈夫だったみたいだけど」
「その会話、夢うつつに聞きました。あのあと2人は安全なところを見つけられたのでしょうか?」
「私も心配だったけど連絡がないの。夜が明けたから呼び出してみます」

『ハロハロ、小林亜香里です、萩原さんか詩織、応答して下さい』
『私(詩織)です。こちらはホテルのバルコニーで、朝食を取っています』
『なんですって! この島にホテルがあるの? ホテルで朝食なんか取っていたらトレーニングにならないでしょう!』
 亜香里には、詩織と悠人がバルコニーで優雅にサーブされたホテルの朝食を取っている様子が目に浮かぶ。
『冗談、冗談ですよ。昨日はあれから海岸線を走っていたら廃墟みたいなホテルを見つけたのでビバークしました。缶詰のストックとか食べるものがないか探してみたけど、どれもとっくの昔に賞味期限切れ。この島から人が居なくなって随分時間が経っているみたい。いま日が昇るのを見ながら携行食をつまんでいるところ』
『優衣です、おはようございます。昨晩はいかがでしたか? 萩原さんは優しくしてくれましたか?(はーと)』
『優衣さぁ、首洗って待っといで! 優衣の家に切れ味の良い日本刀があったよね?』
『冗談です、冗談ですよぉ。詩織さんもホテルのバルコニーで朝食とか、ふざけていたじゃないですかぁ。私はてっきり萩原さんと向かい合って朝食を楽しんでいるのかと思いましたよ』
『詩織、大丈夫。合流する前に私が優衣の肩をガッツリ揉んでおくから』
(それは痛いから止めて下さいよー、という叫び声が一瞬聞こえるが、インターカムから声が聞こえなくなる)

『俺(英人)だけど、悠人たちが居るところは、ほぼゴール地点じゃない? そこまでどうやって行けば早く安全に着けるかな?』
『英人たちも水平線から日の出が見えているってことは、お互いに島の同じ側に居ると思うんだ。昨晩、星で方位とか確認した?』
『焚き火番をしているときに空を見上げて、南十字星があるのは確認した。ここって南半球でしょう? 南半球の星で方位の見方を知らないから諦めた。北半球だと北極星と北斗七星さえ確認できれば、すぐに分かるけど』
『だよね。南半球で星がどう見えるのかぐらい知っておけば良かったよ。同じ海岸線を見ているようだから、バイクのGPSで海岸線を目指せば着くと思う。英人たちが居るところは、最初にカプセルがあった場所から山側に登ったところでしょう? そこをそのまま下ればたぶん着くよ。僕と藤沢さんはここに来るまで、途中で川を渡って恐竜の生息地に入ってしまって大変だったけれど橋も壊れたし、川沿いに海岸まで下りてくれば、ひどい目には会わずにたどり着けるはずだよ』
『アドバイスありがとう、直ぐにここを撤収して海岸線を目指してみるよ。海岸線に着いたら連絡します』

 戻ってきた亜香里と優衣がハァハァ言いなら頷く。追いかけっこをしていてもインターカムは聞いていたようだ。
「携行食を食べて、火の後始末をして出発しますか」インターカムで話したとおり英人が提案する。
「そうしましょう。飲み水が残りわずかなので飲めそうな水を探しながら」
「亜香里さん、リュックの中に簡易型の[濾過機能有]の表示がある折り畳み式のウォーターバッグが入っています」
「どれどれ? そんなものが入っていますね。こんなにペラペラなもので濾過出来るのかな?」
「小林さん、そこは『組織』ですから。何か特殊な機能があるのではないですか? 藤沢さんが猿に銃で撃たれた時も、このジャンプスーツを着ていたから打ち身程度で済んだわけだし」亜香里は英人の説明になんとなく納得し、3人は携行食を食べながら出発の準備をする。水が少ないので顔を洗ったり歯を磨いたり出来ないが仕方がない。
「出発しましょう、昨日と同じように僕が先頭で、次に小林さん、最後に篠原さんで」
「「 了解です!! 」」
 3人は電動オフロードバイクで出発した。

 舗装された道はないが緩やかな下り坂なので、スピードの出し過ぎに注意すれば運転自体は楽だった。
 出発する前に山裾から海岸線までを見渡すと、悠人たちが渡った川が左手に見え、真ん中が昨日通ってきたジャングル地帯、少し右手(悠人たちが渡った川と反対側)は草原地帯が続いているので、右手は恐竜が少ないと信じて、右寄りの斜面を下って行く。もしもに備えインターカムは常時装着。
『昨日も、こんな道だったら転ばなかったのに』
『亜香里さん仕方ありませんよ。無免許だし、昨日の本格的なオフロードも初めてだったのでしょう?』
『トレーニングでバイクの運転に慣れてきたから、この研修が終わったらバイクの免許を取ろうと思っています。配属後は『組織』のミッションが待っているでしょう? ミッション:インポッシブルシリーズでは必ずイーサン・ハントがBMWのバイクで見せ場を作るから、ミッションをこなすにはバイクの免許が必須かな?と思ったわけですよ』
『亜香里さん、私たちは能力者補なのですよ。あの映画は秘密諜報組織じゃないですか? まあ、私たちが所属する『組織』も秘密と言えば秘密なのですが。バイクであんなアクションを毎回やっていたら、命がいくつあっても足りません』
『いきなり、あんな運転はしませんよ(バイクに慣れたら亜香里はやる気らしい)。映画に出てくるバイクがカッコいいなと思っていたから、免許があれば『組織』がミッション用にバイクを支給してくれるんじゃないかな?って』
『亜香里さん、あの映画でイーサン・ハントが乗っているBMWのバイクは全部、日本では大型自動二輪免許が必要です。今は自動車教習所で大型自動二輪免許が取れますが、そのためには普通二輪免許取得済みが前提のところがほとんどです。まず普通二輪免許を取って下さい』
『詩織は大きいバイクに乗っていたけど、優衣も大型免許を持ってるの?』
『いちおう…』
『あれ? 前は、普通二輪免許って言っていなかったっけ?』
『普通二輪を持っているとは言いましたが、大型を持っていないとは言いませんでした』
『なんか、理屈っぽい幼女だなぁ。まあいいや、先を目指しましょう』
 亜香里と優衣がどうでも良い話が出来るくらい順調に海岸線を目指していた。草原のルートを選んだためか恐竜に遭遇することもなく、海岸線まであと少しのところまでやって来た。
『小林さん、篠原さん、GPSに海岸線が表示され始めたので少し休みませんか』
『『了解です』』

 バイクを停め、3人は草っ原の地面にそのまま寝転がる。
「なんだか、普通にツーリングをしているみたいですね」
「篠原さんもそう思いますか? 舗装路ではないけど、そんなに悪路でもなくスピードも出せるから、気分的には鼻歌を歌いながらツーリングをしている感じです。天気も良いし。あいにく川や湧き水がなくて水の補給は出来なかったけど、この分だと午前中に海岸線までたどり着くから、悠人たちと合流すれば何とかなりそうですね」
「バイクツーリングってこんな感じなの? 風も気持ちいいし、やっぱり研修が終わったらバイクの免許取りに行こう、とりあえず普通二輪ね」
「都内だと、こんな感じでは走れませんよ。道路はトラックの排ガスが臭うし、信号は多いし、渋滞もあるし、地方に行けば少しは良くなりますけど」
「そっかー、じゃあミッション専用のライディングと言うことで」
 そもそもミッションで必ず、バイクを使うわけではないのだが。
「そろそろ出発しましょう。海岸線に出たら悠人たちに連絡を取って方向を確認しましょう」
「「了解です」」
 その後も走行中は何のトラブルも起こらず、太陽が頭上近くにくる前に海岸線へ到着した。
「着いたぁ。あとは合流して、お迎えを呼び出すイベントを終わらせれば、今回のトレーニングは終了です。結局、恐竜には出会わなかったね」
「亜香里さん、そうだと良いのですが向こうの海に、変なものが見えませんか?」
 優衣が指を指さす方を見ると海岸線の右手、岸近くの海で不自然な盛り上がり方を繰り返している物体が見えてきた。