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『ついでにジェントルマン』柚木(ユズキ)麻子(著)/銅像の菊池寛が話したり、生前良い人だったり
オフィスで他の社員の机に単行本を見つけ、パラパラとページを捲ると興味が湧いたのでAudibleで読んでみた。この作家は初見だが『BUTTER 』が有名らしい(その社員は読んでいた)。
こんな短編集。
本の概要
分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。
編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。
備忘的感想(粗筋・ネタバレあり)
Come Come Kan‼
おそらく著者の経験に基づく物語。新人賞獲得以降、編集者にダメ出しされ続ける作家に、文藝春秋社「サロン」の菊池寛銅像が話し掛けてくる設定。主人公が純文学作家をサポートするエピソードが挟み込まれるが、菊池寛(の銅像)イジリが主題。
渚ホテルで会いましょう
この物語も大衆小説家が主人公。こちらは過去のヒット作に縋り付く老齢作家の一人相撲。著者はこんな作家を文藝春秋社で見掛けたのかもしれない。
勇者タケルと魔法の国のプリンセス
女性専用車両からファミコン時代の異世界転生。
異世界表現が大衆小説風なのが気になる。
著者は『小説家になろう』の小説を読んでいないのかもしれない。
エルゴと不倫鮨
部下を不倫に誘うセクハラ上司が連れ込む住宅街にあるレストラン(会員制寿司屋)が舞台。『渚ホテル…』と同様、オッサンの蘊蓄がウザく家庭を顧みないところも同じ。そんな顧客が来るお店なので、寿司屋なのに海苔は無く飲み物はワイン。
そこに乳飲子を抱えた女性が入店してからの展開が痛快。強い女子が主人公。
立っている者は舅でも使え
デキ婚で夫の実家に同居していたら夫の浮気が発覚し、実家へ帰った主人公。
実家近くの古家に子供と住み始めると義父が同居を乞うてくる(妻は死去)。
主人公は家事一切を義父に押し付け、勝手知ったる故郷で働き始めて…
この短編も強い女子が主役。
あしみじおじさん
この物語のプロットはスキ。
先の事を考える余裕もない母子家庭に育った高卒女子が『ハイジ』を読んで自分の環境を変えて行く物語。
美容整形来院から話が始まり不思議に思ったが、最後にちゃんと回収される。
支援するおじさんの脚が短い訳ではなく、相対する美容外科医がズルして脚を長くしただけ。
アパート一階はカフェー
1931年の物語。舞台になる大塚女子アパート一階のカフェを菊池寛が出資している設定。文藝春秋女子社員が登場し、その一人が谷崎潤一郎「二番目の妻」になるかならないか…
趣向の異なる短編集
連作短篇ではなく登場人物やシーンは異なるが「駄目な男と立ち上がる女」をテーマにしている。
菊池寛が出てくる最初と最後の短編は、文藝春秋社への忖度が働いているのかも。
読後に文春の記事を読むと、現実(の女性の扱い)に不満を抱いている著者の思いを吐き出した文章と取れなくもない。
著者は語る 『ついでにジェントルメン』(柚木麻子 著)
MOH