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第23話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【休日だけど、ミッションなの? 1】

 能力者補成り立ての亜香里たち5人は研修センターから最寄駅まで歩き、都心のターミナル駅まで同じ電車に乗った。
 土曜日のお昼過ぎに郊外から都心へ向かう電車の中は空いているが、他の乗客に聞き漏れても差し障りのない研修の話や大学時代の話をしたり、うたた寝をしているとターミナル駅に到着し、5人は改札口で散会した。
 亜香里は私鉄改札口からホームに入り、土曜日午後の空いている電車に乗る。座席に座ると寝過ごす確率百%の自信があったので、車内では立っていた。
(乗車時間は15分位だから立っていても平気だし、寝過ごして遠くへ行ってしまう方が辛いよね)
 身体は疲れていても昨晩はよく眠ったせいか、昨日までのことを思い出すと頭が冴えてくる。
(水曜日の水責めとシュワちゃん、木曜日から昨日までの砂漠、洞窟、おまけにゾンビとタイラントとか、あの世界はハリウッドだったの?)
(水曜日は研修センターの中での出来事だから、仕掛けがどうなっていたのか?だけの疑問だけど、昨日のラクーン・シティーの規模はわけが分からない)
(『組織』だから、大きなスタジオとかを何処かに持っているのかな?)
 トレーニング環境に疑問満載の亜香里であったが推測の一部は当たっている。
(昨日は出来なかったけど、また何かを消したり出来るのかな?)
(空を飛んだり、剣(柳刃包丁です)を取り出したのは、夢だったのかな?)
 これも一部正しい推測である。
 いろいろ考えているうちに、電車は自宅の最寄駅に到着した。

 月曜の朝、家を出てから5日しか経っていないが、亜香里には1ヶ月ぶりに家に戻った感じがする。
「わが街が無事で良かったー」
 改札を出ながら思わず声に出すと、すれ違いに改札に入る女性から不思議そうな顔で見られていた。
 キャリーバッグは研修センターに置きっぱなしなので、足取りも軽く家へ向かう。
 電車の中で妹に送ったメッセージの返事が返ってくる。
『今、バイト中。夕食はどうする?』の返信。
 今週末は、両親が父方の実家に帰っていることを忘れていた。
「疲れたし家でダラダラしよう。月曜日からまた研修だし」
 ひとりごとを言いながら脇門を開け敷地に入り、ポストに入っていたDMと夕刊を持って玄関を開ける。
「ただいまー」
 誰もいなくても「ただいま」を言うのは小林家のルール、というか小さい頃から習慣付けられていた。
 子供の頃、親から理由を聞かされた気がするが思い出せない。
 研修センター(正しく言えば『組織』のトレーニングA棟)で、朝兼昼を食べ過ぎたので、自部屋に直行しベッドにダイブする。
「疲れたぁー、働くって大変だよ」独り言を呟きベッドをゴロゴロする。
 まだ仕事はしていないし、研修と『組織』のトレーニングだけなのだが。
「研修は、とりあえず聞いていれば良いからまだしも、あのトレーニングは一体なんなの? シュワちゃんやラクーンシティーは面白かったけど、体験型アトラクションが毎日だと疲れるよー」
 今時、聞いていれば良いだけの研修は、そうそう無いはずだが。
 『組織』のトレーニングを体験型アトラクションだと思っているらしい。
 みんなの前では、良いことを言っていたはずなのに...
 独り言が途切れると、スーツ姿のまま眠りについていた。

「お姉ちゃん、いつまで寝てるの? もう11時よ!」
 妹の由香里が、ベッドの脇に立っている。
「んーッ? 由香里、なに?」
「なに? じゃないよー。夕方『帰宅途中』のメッセージを貰ってバイト中だったから、夕食の確認をしたでしょう?  そのあと何も返事がないから『友達と食事をして帰る』ってメッセージを送ったじゃない? それもスルーだったから出掛けたのかな?と思ったの。今、帰宅したところよ」
 妹の話を聞いているうちに、亜香里はだんだん目が覚めてきた。
「そうなんだー、返事をしなくてゴメン。研修ですっごく疲れたの」
「新入社員研修って、そんなに大変なの?」
 今年から就活が始まる2才年下の由香里は、姉の話が少し気になる。
「まだ始まったばかりで研修自体は聞いていれば良いから、居眠りだけ注意していれば、大丈夫だけど」
「だったから楽勝でしょう? 疲れることなんてないじゃない。研修以外で変なことをしていたの? 夜中に出歩いて遊んでいたとか?」
「あの研修センターから抜け出すのは無理よ。門には警備員がいて施設には監視カメラがいっぱい付いていたし」
「お姉ちゃんは保険会社に就職したのよね? その施設は問題がある社員を収容するところなの?」
「イエイエ、普通に新入社員を集めて研修をしていますよ(研修はね)。最近は企業施設もテロリストのターゲットになる可能性もあるから、警備を厳重にしているのだと思う」
「ふーん、そうなの? 私はこれからシャワーを浴びて寝るけど、お姉ちゃんはどうする?」
「うーん、急にお腹が空いてきた。今日はまだ一食しか食べていないから」
「エェッ! もうすぐ一日が終わるのに、お姉ちゃんが一食しか食べていないとか信じられない! どういうこと? 入社早々、変な宗教とか入ったりしてないよね?」
 変な?団体には、加入したわけだが。
「そんな変なのには入っていないよ。(『組織』は変な団体なのかなぁ?)今日は遅いブランチをたくさん食べて、そのあと1週間の疲れが出たから爆睡していただけよ」
「それなら安心。でも、いま直ぐに食べられるものはうちには無いよ」
「コンビニで何か買って来る。由香里は明日の朝食も準備してないでしょう?」
「珍しく、お母さんが何も準備しないまま、出かけちゃったからね」
「二十歳を過ぎた娘二人に、毎回準備をして外出することもないと思うよ。とりあえず何か買って来る」

 亜香里は昼間に帰ってきたときのままの服装で出かけた。
 ポケットからスマートフォンを取り出すと詩織からメッセージが入っている。
『乙乙、家には無事着いた? さっき近くの川沿いを身体のストレッチを兼ねて軽く流していたら、ちょっとおかしなモノを見つけたの』
 メッセージは午後5時頃発信されており、そのあとは無い。亜香里は直ぐに返信した。
『ゴメン、帰ってから寝てた。おかしなモノって何?』
 気になるが、着信から6時間以上経っており、直ぐに返信はない。
 近くのコンビニでお腹を満たすチルドの惣菜とアイスクリームを買って帰宅した。
 自宅に戻ると詩織から返信が入ってきた。
「今だったら話すの大丈夫だから、都合が良かったら電話して」
 詩織が電話で話すとは珍しい。
 就活の時以来ではないかと思う。
 妹の由香里はシャワーのあと自室でドライヤーを使っており、亜香里はキッチンでコンビニの袋からカレーライス、ロールキャベツ、豚角煮やらを続々と電子レンジで温めながら詩織に電話すると、直ぐに詩織から応答がある。

「詩織、どうしたの?」
「夕方、近くの多摩川沿いを軽く走っていたら、川の真ん中あたりが、ところどころ数メートル以上、盛り上がったりしてた。盛り上がったとき、そこだけが緑色に変わるの。研修で疲れたのかなって思って走るのを止めて堤防から見ていたけど、緑色の盛り上がりは変わらないままなのよね」
「被害とかは? 他の人は見ていなかったの?」
 亜香里は(そんな映画あったかな?と)思いを巡らす。
「とりあえず川の中だけだったから、被害はなさそう。河川敷にある公園で何組か親子が遊んでいたのだけど、気にしている様子は無かったのよね。近くであんなのに気がついたら変に思って騒ぐか、川から離れると思うけど」
「そのあと、どうしたの?」
「盛り上がりのようなうねりが続いていたけど誰も騒がないし、被害も出ていないから、そのまま家に帰って食事のあと、twitterを見たら同じような現象がニュージーランドや、オーストラリアでも起きていて被害も出てるみたい。チョット訳語は違うと思うけど、twitter で "tsunami" って検索すると映像が出てくるよ」
「なるほど、家に帰ってからも不思議な現象ですか? 『組織』がやったとかは無いよね?」
「海外で被害が出ているから平和維持が目的の『組織』がそんな事はやらないでしょう? 気になるのはライブカメラで近くの川沿いを確認したら、やっぱり変な風に盛り上がっているの。でも、この事を誰もネットで騒がないから、どうしたものかと思ってさ」
「さっそく『組織』能力者補の初出動ですか?」
「そんなのではないけど、海外で被害が出ているからここもいずれじゃない? 今のところ私にしか見えていないみたいだけど亜香里だったら見えるかもと思って。一緒に見に行かない?」
「この時間からですか? まあ今日は親も居ないから、いつでも出ようと思えば出られるけど」
「じゃあ、バイクで迎えに行くよ。車だと川沿いの駐停車が不便だから。今の時間だったら、亜香里のところまで20分もかからないと思う」
「詩織さんはアクティブですなぁ。今から急いで夕食を食べてから準備します。(詩織「今から夕食?」)帰ってから今まで寝ていたの。私んち、来たことないけど、だいたいわかるよね?」
「前に、亜香里からもらった住所をググったからだいたいね。消防署の近くでしょう?(亜香里「そうそう」)消防署の前に着いたら電話するよ。バイクに乗ると未だ寒いシーズンだから着込んで来てね」
「了解です、あとでね」