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『Inverted Angel』感想

『Inverted Angel』を実績コンプリートでクリアしたので、完走した感想をつらつらと書きます。
主に各種エンディングについて触れるのでご注意を。

それでは早速。


はじめに

まず一言ですが、「強烈なインパクトと予想以上の深みがあった」って感じです。
私自身、過去に『Doki Doki Literature Club!』や『NEEDY GIRL OVERDOSE』などをプレイしたことがあり、このゲームに対する第一印象はそれらに近いものがあって惹かれてました。メタい構造をしたゲームがわりと好みなんだと思います。
もちろん近さを感じる部分もあったにはあったんですが、実際はそれらとはかなり異なるゲームでした。何より、御託は抜きにどハマりして当初予定していた倍のペースぐらいでクリアまで行ってしまったという事実がありますので、ほんとにぶっ刺さりだったってことです。

クリアまでの総プレイ時間は約22.3時間。いろんなタイプをすべて含めたエンディングが全部で18種類、いわゆるBADを除くと8種類かな?
このゲームの特徴上、エンディングをすべて回収すること自体が一筋縄ではいかないというか、それ自体がこのゲームの特徴というか醍醐味というか…。
実績も各エンディング到達で解除されるものだけ。あってないようなものですね。
ちなみに、この感想執筆時点での総プレイ時間は35.9時間。起動しっぱなしにしていた時間もあるのでアレですが、要するに2周やってます。

『Inverted Angel』とは

SCIKAさんによって制作された推理アドベンチャーゲーム…ですが、公式的には ”Kawaii Future Mystery” とされています。実際Kawaiiから仕方ないね。
一言でいえば、”突然現れた見知らぬ女の子と、インターフォン越しに会話し続けるゲーム” です。状況としては異様ですね。そんな異様な状況を楽しむゲーム、と言った方がおもしろく聞こえるのかも?

突然やってきた、あなたの恋人を名乗る知らない女性。
でも、ただのストーカーにしては色々なことを知りすぎている。
それに、あなたにも彼女の正体を確かめなければならない「何らかの理由」がある。

あなたの見つけた違和感や想像に合わせて、マルチエンディング方式で真相が変化してゆきます。
インターフォン越しに話を合わせながら、あなたの考える彼女の正体に辿り着きましょう。

公式サイトより


月並みに言えば、”プレイヤーの選択によって結末が変わるマルチエンディングのアドベンチャーゲーム” なんですが、この作品にはそこにひと味が加えられています。

それが ”自然言語処理によってプレイヤーが入力した推理が、だいたいのニュアンスで判定される” というもの。
プレイヤーが入力したフレーズをもとに、自然言語処理によって用意されたシナリオパターンのいずれかに振り分ける感じだと思います。
昨今、急激な成長を遂げている生成AIとは違いますが、これもAI技術の1つですね。ちなみに利用しているのは、OpenAI社が提供しているAPIだそう。

今回はシンプルに、上記による本作の特徴について述べたあと、主に各種エンディングについての感想になると思います。

誰だかは分からないけど、Kawaii。

自由入力によるシナリオの方向性決定

何と言ってもこの作品の特徴はこれですかね。前述したとおり、シナリオパターンは予め用意されていますが、そのうちのどのシナリオで進んで行くかはプレイヤーの自由入力で決まります

最初の問い。

たとえば最初の「ストーカ?実は知り合い?彼女はどんな人物だろう?」という問い。これに対しては、”訪問者が自称恋人であること”、”平日はバイトが無いことを知っていること” など、彼女の発言から得られる情報をもとに、彼女がどのような人物であるかを予想して入力します。この問いに答えはありません
ガチで想像とか妄想とか願望でいろいろ入力しました。もちろん、とんちんかん過ぎるとシナリオが進むことはないのですが、以下に挙げる回答の中にも、いくつかシナリオが進むものが存在してました。(実際の私の回答の一部です)

  • 警察官

  • NHK

  • お姉ちゃん

  • 幻覚

  • 彼氏

  • 女装癖のあるバイト先の店長(40)

  • 俺のファン

  • etc…

また、進めていくと 入力した回答のニュアンスからシナリオの方向性を決めてくれる問いと、入力した回答のニュアンスがある程度正解に近かったらシナリオを進められる問いがありました。最初の問いは前者ですね。

正解があるほうの問い。NGワードやヒントの要素もあったりする。

自由入力であることによって、回答してシナリオを進めた後も「こう入力したらどうなるんだろう?」とか「もしかしてこういうのもあったりする?」とか、さらに想像が膨らんで、いろんな可能性を確かめたくなるのが非常に新鮮で面白かったですね。

これが仮に、最初の問いで「知り合い」「身辺を探っている人物」「恋人」「ストーカー」など 選択肢の中から選ぶだけだったら、それ以上の想像をする価値が失われるし、何より気付いていない可能性に気付かされてしまうと思うんですよね~。そこに書いてあるので。まぁそれがオーソドックスな気はするんですけど。
実際、「彼女がNHK職員だ」というルートは存在しませんが、この回答だって選択肢が無いことによって生まれた想像の1つなわけです。ネタ全振りですが。

直近、同じような推理要素があるゲームとして『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』と『未解決事件は終わらせないといけないから』をやりました。
ダンロンはどういう答えさせられ方をするかにもよりますが、意外と真相が分かってない状態でも選択肢が表示されることによって「この中だったら消去法でこれだな…」とか「あ~そういうことだったのね」みたいになることが実際ありました。これは悪いとかじゃなく仕方ない。
その点、本作は自由入力になっていることで自分が考えている/想像していること以外の回答には行きつきにくい(後述)ので、単純に選択肢を選ぶよりも深いゲーム性になっていたと思います。
そういう意味では、未解決事件のほうも、選択肢が出るわけではなくゲーム内で出てきた数多くの要素の中から選択するような仕様だったので、これもこれである程度自分の考えがなければシナリオを進められない作りなのは同じですね。ただ ”ゲーム内で出てきた” と書いたとおり、有限であることは分かりきっていて、虱潰しにいけばそのうち正解に辿り着くのも明白です。

ちょっと逸れましたが、何が言いたいかというと、プレイヤーに「無限の可能性がある」と思わさせてくれる良いゲームシステムだと思ったという話です。実際は無限にあるわけじゃないのが分かっていても。

先ほど、”自分が考えている/想像していること以外の回答には行きつきにくい” という表現をしましたが、実際に思っていたのとは違うニュアンスで解釈されることもありました。
ただ、それによって表示された内容に「え…どういうこと?」って困惑して、会話ログを見返してみると「うわ、これか?ガチやん。」ってなる瞬間があって、それはそれでめちゃくちゃゾクゾクする気持ち良さがありました。
どういう入力を誤解釈されて行きついたのかは覚えてないんですが、”買い物から帰ってきたはずの訪問者が、買い物袋を持っていない説” が浮上したときはマジでゾクゾクしましたね…。

会話ログを見ると、外を通りかかった大家さんのセリフに、
彼女が手に何も持っていないことを示唆するものが…。

あと、シンプルに難易度もそれなりに高くなりますよね。選択肢が無い以上、ある程度分かったうえで回答しないといけないので。
そういう意味でも、純粋に推理ゲームに適した仕様とも思いました。作るのは大変なんだろうなぁ…。

エンディングについて

- 本題に入る前に…

突然ですが、もし未プレイでこれを読んでて少しでも興味があるなら、是非ここで引き返していただいて…。
こんなもん読んでないでプレイしてみて欲しいです。大したことも書いてないですが、まだ間に合いますので…どうか先にプレイをお願いします。

はい。

では、各エンディングについての感想を書いていきます。
基本的にはバッドエンディングではなく、グッドエンディング…でいいのか?決してグッドではないものもある気がするけど便宜上そう呼びます。
要するにエンディングリストでいう色付きの液体が容器に満たされてるヤツについて語ります。

順番は、1周目プレイ時に私が到達した順番…を基準にそこから若干変えたものになってます。とくに意味はありません。
あと、訪問者である「知らない女性」のことは便宜上「天使ちゃん」と呼ぶことにします。

- 『死んで治すほどでない馬鹿でありたい』

英語タイトルは『Fool on the Sugar Board』。交換殺人ルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん、主人公の恋人。

かなり推理モノなイメージが強かったエンディングです。
一番最初に辿り着いたエンディングなだけあって物凄く印象に残ってますね。いきなり主人公がめちゃくちゃ女性関係にだらしなさそうな奴だと感じたので、天使ちゃんとの関係はワンナイトなアレだったという発想に至って到達。しかもそれでいて実は数年来の恋人までいる始末。なにやってんだ。

真相としては、天使ちゃんは実家の本屋に嫌がらせをしている人物を、主人公の恋人は浮気癖のある主人公を それぞれ殺したいと思っているところから始まった交換殺人
「関係がある風に装って接触すれば勘違いして簡単に家に通してくれるだろう」というアイデアを天使ちゃんに持ち掛けていたり、どちらが先に殺人を実行するかを得意のボードゲーム(アグリコラ)で決めたりと、この恋人もなかなかの変わり者というか、面白い人だなって感じがして好きです。

2人で共通の知り合いのあるあるを話してる感。
とても殺人が行われようとしていた現場とは思えない。

まぁ、殺人実行順をボードゲームで決めた理由としては、天使ちゃんが先に主人公を殺害しに行っても、主人公がなんとか天使ちゃんのことを救ってあげられることを読んでいた…というかそれに賭けていたというのが実際のところなんでしょう。エピローグでも語られてました。
そのうえで、主人公が殺されても良いと思っていたのは本当らしい…。この主人公の恋人をやれてるだけのことはあるよね。

英語タイトルもいいよね。”Sugar” には恋人を指すスラング的意味合いがあるようで。ボードゲーム好きな恋人が作り上げた盤面でいいように踊らされていた主人公…ってとこですかね。
物騒な話ではあったけど、何だかんだいって諸々が丸く収まった、ある意味では一番平和なエンディングとも言えるんじゃないでしょうか。

── 死んで治すほどではない馬鹿みたいな日常が続きますように。

- 『やたら綺麗に汚れた記憶』

英語タイトルは『Chocolate Hideout』。ウイルスルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん、主人公の元恋人。

シナリオ途中で、この作品特有のワードについて調べられるフェーズがあって、そこで主人公が感染しているウイルスが、我々の記憶にも新しい爆発的感染を起こした例のアレとは違うものであることに辿り着いてからは、わりとスムーズに到達できました。
何もかもとは言わないまでも、これもかなり綺麗に終わったエンディング。グッドエンディングの中では一番好きかな。
『やたら綺麗に汚れた記憶』っていうタイトルもめちゃくちゃ好きなんだよなぁ…。何がって言われたら言語化はできないんだけど。

真相としては、天使ちゃんは、極度な束縛気質な元恋人に軟禁されていた主人公の精神面をケアしていたカウンセラー(っぽい人)で現恋人、というもの。
主人公が、”強い愛着を持っていた相手に関することを思い出せなくなる” という症状がみられる『ミラウイルス』に感染していたことで、記憶が曖昧になっていたのがキモですね。
ちなみに、”ミラ” というのはラテン語で ”不思議な” という意味がある言葉らしいです。たしかにトンデモ設定な不思議ウイルスではある。

このルート、天使ちゃんのお決まりフレーズである「言葉にできることは考えていることのひとかけら」という考え方のおかげで、主人公を軟禁していたのは天使ちゃんではないことが裏付けられる、という展開が激アツで好きです。このフレーズを回答として入力できるっていうのがステキ。

あと、カウンセラーとして主人公と関わる中で、天使ちゃんは主人公に対して恋愛感情を抱くようになったこと、主人公もまた同じであったこと、だからこそミラウイルスの影響で天使ちゃんのことを忘れてしまっていたこと、そうとは思わず接していたからこそ、主人公が天使ちゃんを忘れていることが分かったときに天使ちゃんが嬉しさと困惑が混ざった反応をしていたこと…。なんかいろいろ展開がドラマチックなんですよね。そこも良い。

紆余曲折あったとはいえ、主人公と天使ちゃんが健全に恋人関係で終わるエンディングってこれだけだったりするんじゃなかろうか?個人的には特別感あるし綺麗なエンディングだと思ってます。

…が、忘れてはいけないことが。

あくまでもミラウイルスを主人公に感染させたのは天使ちゃん。何らかの方法で培養して、チョコに仕込んで意図的に感染させています。
軟禁時に使われていた作文用紙やアイスピックを捨てることができないほどトラウマが残っている主人公を、少しの間でも解放してあげたいという天使ちゃんなりの優しさからの行為ではあったものの、控えめに言って常人の行動ではないです。

そのうえで、エピローグの ”天使ちゃんからもらったペットボトルの蓋が空いている” という描写。これ一体なんなんですかねぇ!?
ミラウイルス、経口感染なんですよね…。それに天使ちゃんはミラウイルスを培養しているので、残弾があってもおかしくはない…。
そう考えると「やがて思い出す自分の感情を想像していた」っていうのもフラグにしか見えない。果たして、思い出せる日は来るのか…なんてこった。

でもやっぱり、この後 感想を書いていく他エンディングと比べたら、心晴れやかな終わり方だったのは間違いないですね。ペットボトルの件だって本当に空けてくれてただけかもしれないじゃん…?

記憶を忘れているからこそできる、この終わり方もいいよね。

- 『みんな生活が人質みたい』

英語タイトルは『Rusty Caramel Cage』。電波ルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん。

ヒエッ

グッドエンディングの中の 問題児 of 問題児。後味が悪いとかそういう方向ではなく、「あぁ…もう…だめだこりゃ~\(^p^)/」って感じにならざるを得ないエンディングです。
天使ちゃんのことを「身辺を探りに来た何者か」として進めて、他ルートとは異なる大家さんとの会話の中から違和感を見つけ出すことで到達。かなり辿り着くまで時間が掛かりました。
このゲーム、何の変哲もなさそうな会話の中にさらっと矛盾点を仕込むのが上手すぎ…やりがいありすぎて困る(歓喜)。

真相としては、罪悪感や背徳感が堪らないという感覚に溺れてしまって、夜な夜な一般人に麻酔を打って昏睡させまくっている主人公と、それを見て "自分に新しい選択肢をくれる存在である” という運命を感じ、その被害者を勝手に実験に使っている天使ちゃん という全くもって救いようのない2人。もうおしまいだぁ…。

このエンディング、最終的に2人とも何を言っているのか全く理解できなくなるところまでいってしまうので、ぶっちゃけあんまり本質について語れることがないです。null とか while(true) とか出てき始めたときはもう笑うしかなくなっちゃった。

あまりにエンディング全体に関して語れる感想が無さすぎるので、このエンディングで見ることができる個人的に好きなポイントを雑に挙げます。

まず1つめ。普通(?)に恋人同士の会話として、”主人公は(部屋の)片付けが得意じゃない” ってことかと思ってたのに…「”お片付け” ってそういうことかよ!!」なところ。
会話の作り方が非常に上手いですよね。

片付けるまでが実験だよね。

2つめ。運命を感じて主人公をストーキングしたことを、あくまでも「一緒に帰った」と言い張る天使ちゃんと、そこに普通にツッコんでしまう主人公。
仲良しで可愛いと思ってしまうのはおかしいでしょうか。そんなことないですよね?

夫婦漫才か?

3つめ。リテラシーが低すぎる主人公のバイト先の同僚。
これ実際にも起こり得そうでマジ怖いよね。

ただ1つ言えるとしたら、エピローグに ”透明” というワードが出てきていたので、全エンディングを見てからこのエピローグを改めて見ると、何か意味が含まれているような気がしないでもないような。その何かに気付くところまではたどり着けませんでしたけどね~…。
この人たちの会話、ただでさえ小難しいんだからほんと勘弁して(泣)

- 『明後日の方向の綺麗な明日を』

英語タイトルは『Cheesecake Hallucination』。ストーカールートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん。

このエンディングは、非常にこの作品らしいエンディングといった印象ですね。
天使ちゃんが未来の情報を知っているという違和感から、未来から来た人物であると想定することで到達。「天使ちゃんが未来から来た人物なのでは?」という可能性はガチの最初にいろいろ入力を試した時点で浮かんでいたものの1つだったので、個人的には辿り着くのが難しいエンディングではないのかなと。

真相としては、天使ちゃんは、3年後に死んでしまう主人公を救いに未来からタイムリープしてきた恋人…というのは天使ちゃんが主人公と恋人になるための口実で、実際はそれを演じていた ただのストーカー というもの。んぁぁ!回りくどい!

…という話でオチが着いたように見えるんですけど、これって本当にそれでいいんですかね?

舞台が2024年設定である以上、確かに3年後にタイムリープが可能になるという部分に現実味がないので、”タイムリープしてきた恋人であるというのが嘘だ” と考えるほうがしっくりくるのはそうなんですが。
そうなると、主人公が気付いた違和感の1つである「主人公の弟が南極観測隊に選ばれていることを、情報が公表されていないにも関わらず天使ちゃんが知っていること」の説明がつかない気がします。

エピローグに「嘘を信じさせるコツは、本当の話を混ぜることだよ」というセリフもあるので、やっぱりタイムリープ云々の話も本当だったんじゃないかなって思ったりするんですよね。
「未来の恋人を幸せにしてあげてね」というセリフについても、おそらく ”未来の恋人=(タイムリープしてきた自分ではない)現代の天使ちゃん” ということでしょう。そうなると、”この時間軸には天使ちゃんが2人いる → タイムリープしてきたこと自体は事実” とも捉えられる…?

こんな感じで、完全に言い切ることができるほどの根拠は無いんですが、その可能性もあるのかなって。

けどやっぱり、本当にタイムリープしてきた恋人だとして、あの天使ちゃんが一夜の会話だけで恋人ポジションを譲るとは考えづらいし、ジャンバラヤ博物館の建設予定地を見に行くという謎シチュデートに誘ってくれてるあたり、現代の天使ちゃんに恋人ポジションを譲り切ったって感じもしないんですよね。うーん…難しいね!(諦め)

ちょっと逸れますが、タイムリープしてきた恋人説を信じていた主人公が、水質汚染による死を避けるために遠くに引っ越すことを天使ちゃんに提案されたとき、「2年後に家族仲で苦しむことになる『現代の』君を救えなくなる」と発言するところ、良かったですね…。
それこそパラドクス云々の問題も孕んでいるとはいえ、お人好し設定の主人公ならではの着眼点と、プレイヤーがそれに気付いたときの「あぁ~…なるほどね、たしかに」って感じがとっても気持ち良いシーンでした。

いろいろ考え直してみると、思ったよりも深いエンディングだったのかもしれない。英語タイトルにある ”Hallucination(=幻覚)”というのも気になる。
感想というよりは纏まってない考えの吐き出しみたいになってしまいましたが…。まぁ、タイムリープの話が本当だったにしろ嘘だったにしろ、これだけの会話を重ねたうえでどちらの可能性も考えられるシナリオになっていること自体が、非常にこの作品らしいエンディングだというのは間違いないですね。私が何かを見落としてるだけかもしれませんけど。

- 『あまくてすっぱい味がしたの』

英語タイトルは『Scarlet Icecream』。培養肉ルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん、天使ちゃんの後輩。

エンディングリストでタイトルを見た時から、おそらく流血は避けられないシナリオだろうと予想はしていましたが、これはもう…なんとも酷いエンディングでした。
エンディングのクオリティが酷いというディスではなく、後味が悪すぎて最悪っぷりが最高なエンディングです。
天使ちゃんが大家さんのスマホを使って主人公とやり取りをしていることに気付くことで到達。単純なだけに、「その可能性があったか…」って感じでしたね。

ここ、しゃがんで煮込みバームクーヘンを食べてるフリして、
大家さんのスマホでやり取りしてるんだよね…こわ。
大家さんと主人公のメッセージ履歴が狂気に満ちていくのおもろい。

真相としては、主人公は人間の肉の味に興味があるマッドサイエンティストな大学の教員で、講義の受講生である天使ちゃんの後輩ちゃんから細胞を提供してもらって作った培養肉を食べ、やがて ”本物の味” が知りたくなって後輩ちゃんの脚を切断して食べるところまで行きついてしまう狂人。しかし実際は、提供された細胞は後輩ちゃんではなく天使ちゃんのもので、彼女も文字通り細胞の底まで食べてくれた主人公に対して狂気の愛情を抱いている狂人 というもの。どいつもこいつも狂ってやがる…。
細胞レベルで知ってくれていたと思っていたのに、後輩ちゃんのものと勘違いしていた主人公を天使ちゃんが刺殺してしまうという、唯一グッドエンディングで主人公が死ぬルート
結末としては悲惨なものではありますが、あまりの狂い具合に「もう勝手にやっとれ…」って感情にしかならず、ショックというショックは無かったのがせめてもの救い。

このエンディングで感情にきたのはここですね。
主人公は大学の教員、後輩ちゃんは学生なわけです。いくら主人公が若くて、後輩ちゃんが人懐っこい性格だったとしても、メッセージアプリで他愛ないやり取りをしたり、家に招いたりしている時点で、お互いある程度の好意はあったと思うんですよね。
そして、後輩ちゃんもその関係を絶ちたいとは思っていなかったからこそ、天使ちゃんの細胞を代わりに用意してまで提供自体は断らなかったわけで。

ここの言い回し、すごく響く。
実際、主人公の気が済んだらこの件は流すつもりでいたんだよね。

それを、主人公が自分の気持ちばかり優先して後輩ちゃんに寄り添うことができなかったがために、こんな結果になってしまったというのが…。あと少し何かが違っていれば何事もなく元通りになったんじゃないかなって思わなくもないですね。
まぁ、天使ちゃんの細胞が提供されて、そこから作った培養肉を主人公が食べてしまった時点で、天使ちゃんの狂気的愛情は芽生えてしまうのだと思いますが。やっぱだめかも。

このエンディングも細かいところだけど少しだけ好きなポイントを。好きっていうと語弊あるけど。
”本物の味” を知るために、後輩ちゃんの脚を切断したことを主人公が打ち明けるシーン。「後輩ちゃん、ソフトテニスをやってるからラケットを握るために必要な腕はやめとこう^^ 脚ならいいかな?^^」みたいな全くもって検討違いな意味不明な気遣いをしている主人公、マジで狂気が溢れてて良いですよねここ。

いや、そういう問題じゃないが???

あと、どうしても分かってないところが1つ。エピローグの書置き。
おそらく天使ちゃんの書置きなんでしょうけど、いったい誰に向けたものなのか。冷蔵庫にあるのは主人公が作った培養肉…?それを温めて食べる…?誰が…?
いろいろ考えた結果、しっくりくる考えは全く浮かばなかった。

- 『女子力は自分のために』

英語タイトルは『Higher Girl Pudding』。女性ルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん、住民。

意外性No.1のエンディングです。思い込みを上手く利用された良い裏切りを味わいました。
天使ちゃんが恋人であるとして話を進めたうえで、「彼女は本当に恋人であると信じますか?」という問いに対して「はい」を選択し、「自分も住民の恋人」であると打ち明けることで到達。
正確に言うと、「はい」しか無くなった後に到達しました。(詳しくは『私はあなたの恋人』の感想で)

真相としては、そもそも主人公は女性で、主人公も天使ちゃんも、1人の男性(=住民くん)に浮気されていた恋人だった というもの。
他のエンディングに比べてかなりあっさりした真相ではありますが、今までいろんなエンディングを見たうえで、主人公が女性であるという可能性が考慮できていなかったので、意外性が高く非常に面白いエンディングでした。
粗探しをするつもりはなかったので隅々までみたわけではないんですが、改めて見てみても、確かにどのエンディングにも共通する会話には、主人公を男性であると断定できる要素は無かったように思えました。

浮気されていたという共通の境遇から仲良くなるの、好き。

このエンディングの良さは、何と言っても因果応報的な清々しさだと思います。
エピローグで、浮気していた住民くんがかなりのクズっぷりであることが明らかになっており、しっかり2人に復讐されていたのがスッキリしますね。
復讐が甘すぎる(カスタードプリンなだけに)ような気がしますが、やりすぎたらそれはそれで問題だし、なんか天使ちゃんらしくて良いよねって思いますね。

住民くん、別のところでもっとキツイ咎めを受けてくれ。

あと、エピローグに入ってから「訪問者の正体」の情報が更新されて、両方ともちゃんと”(元)恋人” になってるところが粋な演出で好き。

これも考えようによっては、ちょっとコメディよりなハッピーな結末ではありますよね。

- 『私はあなたの恋人』

本当は、『女子力は自分のために』よりも先に回収してしまったエンディングです。ただやっぱりエンディングの中でも特別な位置づけだと思うのでこの順番で書くことにしました。

英語タイトルは『Invalid Angel』。強制恋人ルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん。

本作において最も特異的なエンディング。おそらくトゥルーエンディング的な位置づけである『天使は足音が鳴らない』よりも特別であると言っても過言ではないと思います。

その理由は明確で、1度しか見ることができないから

基本的には『女子力は自分のために』と同じ要領で進めていって、「彼女は本当に恋人であると信じますか?」という問いに対して「いいえ」を選択。それ以降の問いすべてに「恋人」的なフレーズを入力し続けることで到達可能。これが因果律の強制的な調整のことでしょう。

ただし、この「いいえ」という選択肢は、このエンディングを見ることによって二度と選ぶことができなくなります。やってくれるぜ全く…。

真相…というのは少し違う気がしますが、天使ちゃんによって、恋人であることを強制的に認めさせられる というもの。
ただ、個人的にはもっとメタ的に、ゲームそのものによって強制されているというか、天使ちゃん自身もゲーム/プレイヤーの選択に振り回されている立場なんじゃないかと思ってます。

ちなみに、とくにエピローグなども無く、「再起動します」という表示の後タイトル画面に戻されるところまでがこのエンディングですが

「再起動します」の直前に表示されている文言がこちら。
これ文字化けしてますが、復元することが可能でした。復元結果は…

上書きされたアクターネットワーク 

つまり、「上書きされたアクターネットワークを保存しました」ということになりますね。

『アクターネットワーク』というのは、この作品にも何度か出てきている ラトゥール という人物が提唱している、社会科学における理論的・方法論的アプローチのひとつです。実在します。

…が、私にはこの理論自体を理解することも、その理論に準えたこの文言も理解できませんでした。無念…。
これが、例の選択肢で「いいえ」を選ぶことができなくなるトリガーになっているのは何となく察しが付くんですが、どういう意味が込められているのか…気になりますね。
システム的には、configファイル的なところに何か変数を持たせていて、そこで管理してるのかな。単純すぎ?

- 『天使は足音が鳴らない』

英語タイトルは『Inverted Angel』。天使ルートと呼んでます。主要人物は 主人公、天使ちゃん。

ゲームタイトルそのままであることから明白ですが、位置づけとしては、他のエンディング要素も多分に含んでおり、このゲーム全体における真相に触れることができる、いわばトゥルーエンディング
でも私の理解としては曖昧な部分が多くて、そこまで深くは語れないと思います…。

彼女のことを天使であるとして話を進めていくことになるわけですが、本当に彼女が天使であったかどうかは、シナリオ上は分かりません
でも、他エンディングでもこれ見よがしに ”天使” というワードが出てきていたこと、そもそもゲームタイトルに ”Angel” というワードが含まれていることから、このゲーム的に言うなれば「彼女は天使であるべきだ」とプレイヤーは”思わされている”はずです。それはつまり、プレイヤーと彼女との関係性においては「彼女は天使である」ということになるんじゃないでしょうか。そんな感じのことを彼女本人が何度も言っていた気がします。

あと、今まで他のエンディングでは、いろんな色の液体で容器を満たし、彼女に輪郭(≒ 役割、Role)を与えてきたわけですが、このエンディングでは液体の色が一般的なイメージとして天使を象徴する白になるかと思いきや、最終的には白を通り越して(?)透明になる、というのがものすごく粋な演出だなと思いました。

おそらく、この透明で満たされたことが意味するのは、”天使ですらない、ありのままの彼女” ということだと解釈してます。
ですが、主人公には 彼女の背中に透明な羽根が見えているようでした。「一般的なイメージとして、天使には白い羽根がある」という話を2人もしていましたが、主人公は透明な羽根を彼女の背中に見てしまっている。
彼女の背中には透明な羽根があると”思わされてしまった”以上、結局2人の関係性においては「透明な羽根があるほうが逆に天使っぽい」ってこと…なのかな。

正直何を言っているのか自分でも分からないし、おそらくこの感想の中だけでも馬鹿みたいに矛盾したことを言ってそうな気がする。
けどそんなもんだよね。よく分からないぐらいが丁度良いよ。そう思う。

さて、よく分からない話は一旦置いておいて。
お茶濁しに このエンディングでも好きなポイントを挙げておきます。

まずはこれ。窓ガラスが割れるみたいな描写が出てくるんですけど、ここで天使ちゃんが言ってる窓って絶対、”入力ウィンドウ”的な意味の窓だよね!?こういうの好き!もっと頂戴!

そして与えられた ”窓” に書いてある問いは「この夜を繰り返しているのはなぜ?」
この問いついては、ストアページにも注意書きがあるので詳細に語るのは避けますが、私の答えとして一番大きいのは純粋に「楽しかったから」ですね。「ゲーム的に求められているのはこうだろうな」っていうのもいろいろ試してみたりはしましたが、やっぱり本音はこれ。
本当に楽しかったんです。どの夜もね。

さて、全エンディングを2周したとは思えないほど取り留めも無い意見や感想を述べてきましたが、そろそろ終わりにしましょう。

さいごに

もしかすると、ここまで読んでくださった人にはヒシヒシと伝わっているかもしれませんが、ぶっちゃけ感想書くのめっちゃ難しかったです。
というか正直、今でもちゃんと感想になってる気がしませんよ。

それはさておき、主にグッドエンディングについてだらだらと書いてきましたが、本当は各ルートで回収できるバッドエンディングについての感想とか、バッドの時は足音が聞こえてる描写があるけど、逆にグッドの時は足音が聞こえない描写があるとか、やたら小難しい2人の会話を聞いてるだけでも楽しいとか、その中で繰り広げられる夫婦漫才チックなやり取りが堪らんとか、他にも語りたいことはたくさんあります。

でもやっぱり、「言葉にできることは考えていることのひとかけら」だから。仕方ないんだよね。ってことで許してください。

あと、どうやらエンディングも今後追加される可能性があるという話だそうで。
確かに「現在、この因果律には続きがありません」っていう表示を何度か見たし、シナリオ途中でエンディングリストに無い色の液体で満たされるパターンもあったんですよね。
ということで、エンディング追加いつまでもお待ちしております。是非ともよろしくお願いします。
来たら第二弾の感想も書くかもしれない。書けないかもしれない。

最後に、制作に携わられた全ての人に感謝です。
めちゃくちゃ没頭できて、強烈なインパクトを与えられた、忘れられないゲームをありがとうございました!

『Inverted Angel』の感想、以上です。最後までお付き合いありがとうございました。

それでは、良ければまた別のゲームの感想で。


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