私には見えない。終わりの風景。
身体を上手くコントロール出来ない。動かないのではなく制御出来ない。なにも、出来ない。気が付けばブツブツと独り言を零してるし歩いてみても思ってもない方向へ進んでいたりする。
心模様は、そうだな。この狭い空間には私1人しか居ないのにトイレに入るとほんとに1人になってしまいそうでドアを閉められない。
天井と窓ガラスを交互に見つめる。それがそれであるということを確かめるかのように。腕に小蠅が止まったが払うことが出来なかった。その瞬間私自身に失望した。
その後何度どんな虫が現れようと払うことが出来なかった。
もう、何度目だろうか。天井に蛾が。ガガッ。ガガァ!
天井は駄目だぞ。ほんとうに。
天井、窓ガラス。その他のものは見たくない。ましてや蛾だなんて。何かを投げて追い出そうと手探りで床にある物を漁る。
何かの包装紙であろう紙。何かが入っていたのであろう缶(まだ少し液体が残っていた)。大きさからしてきっと家賃か電気代を滞納しているという知らせのハガキ。なんでこうも投げれそうな物がないんだ。蛾からは目が離せないし。
あ、あの子とお揃いのキーホルダー。
一瞬気持ちがぐらつき天井目掛けて投げそうになった。
いいや。
抑えきれなくて投げたらしい。
でも天井にすら届かずポトッと音を立ててキーホルダーは落ちてしまった。落ちた堕ちた、、キャハハ!、、、、ふう。
蛾、、蛾はどこへ行ったんだ。見渡しても居な…。
あ、、、、、見てしまった。
最悪だ。
既に汗だくだったが私の身体からじわじわとなにかが吹きこぼれるのを感じた。私は虫が苦手なうえに集合体が駄目なのだ。ああ、駄目。壁一面に蛾が止まっている。おまけに私の頭のサイズよりも大きい。蛾が何か言ってる。
お前はそうやって毎日毎日朝に脅えながら死へと近づくのさキャッキャ
やめろ。
お前はそうやっていつもあの時みたいに捨てられるのが怖くて逃げ出すチキン野郎さクククククッ
やめろ。てめーらだってバタフライになり損ねた底辺じゃねぇか!畜生!!素揚げにしてやろうか。
お前は今夜俺たちと一緒に死ぬのさクカカカカ
やめろ。お前らとは死にたくない。せめて死ぬ時くらい静かに死なせてくれ!!!!!!!!!うわっ!蟻までこの部屋に居るのか!
床をぐっちゃぐちゃに触ると何かの瓶の様なものが指先に触れた。こんな時に運がいいのは珍しいな。なんて思っていたらもう壁に向かって瓶を投げつけていた。その瞬間破片や中に残っていたのであろう黄色い粒や白い粒が私の側まで転がってきた。床にはまだ何かの箱やボトルが転がっているけれどどれもパッケージに何を書いているのか理解が出来ない。蛾は居なくなり1匹の蟻が取り残されていた。
私は傍にあった溶けきったカップアイスの中に蟻を指でつまんで入れてあげた。そして私の右目の睫毛を2本抜いて入れてあげ、傍に転がっていた粒も入れて指で右回転に掻き混ぜた。
きっと今更なのだろうが何故かやたらと喉が渇く。舌がパッサパサ。
液体。液体。
慌ててカップの中に入ってある白いどろどろの液体を流し込む。
あ、これ蟻がいるんだった。うーむ。
「うちのお母さん、蟻を食べて救急車で運ばれたの!」
うーむ。
「へえ!そうなんだ!!!」
うーむ。
まあやっとひとつになれるねとでも言っておきますか。
別々の物だから恐れがある訳でひとつになれば、同じになれば恐れなんてものはやってこない。これで恐怖から間逃れることが出来るのならば望むところだ。
喉の渇きはまだ収まらない。
何かに対しての恐怖心も収まらない。
もっと、もっとひとつにならなきゃ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?