[ショートショート] 或る男が苦悩の末に選んだ死に方

人生に希望を見出せず、ただ時間を浪費するだけで自分の存在価値を否定されてきた男がいた。

男は自殺を考えたが、苦しんで死ぬのは嫌だった。それから、自分で死ぬための方策を実行に移すほどの勇気もなかった。

たまたまテレビの映画で殺し屋が外国の大統領をライフルで暗殺するシーンを見た。

——これだ

男はインターネットの情報をもとにとある闇サイトを見つけ出した。

そこに標的の情報と殺害の条件を記載する。成功報酬は五千万。

　標的に書いたのは自分自身の名前だ。
　条件は自分が笑ってる時。一番苦しまない方法で殺すこと。
　陰鬱とした気持ちで死ぬのは嫌だ。せめて職場の連中と馬鹿笑いしてる時に死んだことに気がつかないまま殺されたかった。

　すぐに何者かわからないが、殺し屋を名乗る人物から承諾する旨の返信が来た。

　成功報酬でいいらしい。
　特に日時も期限の指定もない。
　男は次に笑えばどこからか何者かに殺される。報酬は支払えないが、支払えないからと言って相手もロクな奴ではない。良心の呵責も何もない。
　
　しかし、だんだんと怖くなった。次に笑えば殺されるのだ。それで良かったはずなのに、何故だか未練なのか何なのか時間が経てば経つほどに躊躇いが生じ始めた。

　とうとうある日緊張に耐えかねて、依頼を取り消そうとしたが闇サイトは閉鎖されていた。
　依頼を受諾した殺し屋に連絡を取ろうとするが分からない。
　とうとう男は笑えないまま無為に年齢を重ね、天寿を全うした。
　死際に一言、「どうせ死ぬならもっと楽しい人生を送ればよかった」と呟いたが誰も聞く者はいなかった。