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2010年の大変な記憶と2024年の大変な記録
僕は横浜ベイスターズを応援している。
かれこれ今年で15年目だ。
当時中学生だった自分の仲間内ではパワプロが流行っていた。
パワプロには監督や経営者のような視点で、好きなプロ野球チームを運営して強くするモードがあって、そこでベイスターズをよく使っていたのがファンになったきっかけだ。
なぜベイスターズを使ったか?
シンプルに弱すぎて、チームとして育てがいがあった、ありすぎたからだ。
当時のベイスターズは万年最下位。優勝はおろか上位3チームに入るのも絵空事だった。
4.88。
これは僕がファンになった年、2010年のベイスターズのチーム防御率である。
防御率はざっくりいえば1試合で何点取られるかの平均値。
この年優勝した中日ドラゴンズは3.29と大体2/3で、歴然とした差があることがわかる。
野球というスポーツは、一度に取れるのは最大4点である。
3つある塁をすべて埋めてホームラン、所謂満塁ホームランを打たなければならないのだが、そのようなレアな攻撃はそうそうお目にかかれない。
そんな満塁ホームランを以てしても4.88には追いつけないのだ。
そういう数字を見れば、いかに当時のベイスターズが厳しい状況下にあるは瞭然だ。
一方でゲームでベイスターズというチームを育てて強くしているうちに、選手個々の能力や顔を覚えたりしていって、愛着が湧いてくる。
結果、間もなく球場にも足を運ぶことになるのだが、ベイスターズの暗黒っぷりは数字だけでなく、スタジアムの雰囲気にもくっきり表れていたように思う。
当時のベイスターズは、ファン目線的にいえば、打撃はワクワクできるシチュエーションもそこそこあったと思う。
タイトルを取れるような強打者が何人かいたから、スタメンを見ても他球団と遜色ないように思えたのだ。(思えただけ、だったかもしれないが…)
一方でやっぱりピッチャーや守備面の心許なさは、野球経験がないような人間でも早々に気づくことができた。
球場観戦で贔屓のチームがフルボッコに打たれるとどういう感情になるかご存じか。
野球を観たことない方や、強いチームのファンの方は「怒って当然」と考えるかもしれない。
しかし、当時のベイスターズファンにそんなメンタリティで臨んでた人なんてほとんどいないと思う。
打たれるのが当たり前なのだから、そんな心持ちでは堪忍袋がいくつあっても足りないのだ。
4.88という数字は伊達ではない。
いつしか自分も負けて当たり前、勝ったら喜びよりも物珍しさ、みたいな感じで、素直にスポーツを楽しんではいなかったような気がする。
チームは好きだからファンであることは間違いないはずなのだが、今思えば斜に構えた接し方をしていた気がする。
少し時間が飛んで2018年。
親会社が変わってちょっとずつチームが強くなってきたそんな時期に、僕と同い年のピッチャーがドラフト1位で指名された。
東克樹。
今、2024年ベイスターズに欠かせない不動のエース。
ルーキーイヤーの2018年の活躍も凄まじかった。
力強いストレートで三振を次々奪っていく姿はただただ爽快。
いまだにこの頃の動画は定期的に観たくなる。
勢いは1年衰えることがなく、たちまち新人王を獲得した。
だが、その翌年の2019年から4年ほど、怪我や不調に苦しみ万全な結果を残すことができなかった。
そして昨年2023年、復活した東は最多勝のタイトルを獲得する。
だが、2018年とは対照的な投球スタイルに見えた。
いつの間にか抑えて、気づいたら勝っているという印象の試合が多かった。
正直、いまだリプレイして見返したくなるのは2018年の投球だ。試合結果を見ても、たくさん三振を奪ったとか、圧倒的なピッチングをした、みたいなのはあんまり見受けられなかったと記憶している。
そんな中、今年の夏以降、東が登板する度にある記録が記事で取り沙汰されるようになった。
クオリティ・スタート(QS)の連続記録である。
専門的な説明は上記サイトに任せるとして、とりあえずは「先発ピッチャーとして仕事を果たしたとみなされる基準」として理解すれば問題ないと思う。
気がつけば東は、QSの連続達成記録で日本記録に並ぼうとしていた。
東は今回の試合で32試合連続QSとなった。
先発ピッチャーが1年で投げる試合数は大体30弱くらいなので、少なくとも1年以上東は堅実に仕事を果たしてきたことになる。
またも数字の話になるが、QSのボーダーラインである「6回を3自責点」の防御率は4.5である。
単純な比較でいえば、東は1年近くどんなに調子が悪くても2010年の横浜の平均値よりいい働きをし続けたということになるのだ。
地味な記録ではあるのかもしれない。
同じピッチャーの記録なら、100点満点のピッチングといえるノーヒットノーランの方がセンセーショナルだと思う。
でも僕は「32試合見応えのある試合を提供し続けたこと」が、「1試合ノーヒットノーランを達成したこと」が球場のファンにもたらした感動の総量で劣るとは思わない。
テレビで観ている分には気に入らなければ消せばいいが、球場に足を運んだ人、特に中々来られない人や野球に初めて興味を持った人にとっては、その1試合が全てなのだ。
そういう人たちの気持ちを裏切らず、最後までワクワクできる試合を提供し続けたことの凄みを僕は共有したい。
もちろん点を取らないと勝てない以上、いいピッチングをしても負けてしまうことはあるが、最後のワンアウトまで切実に応援できることがいかに素晴らしいことかまで併せて伝えたい。
2010年の大変な記憶。
5点も6点も差をつけられたときの、乾いた笑いを浮かべるしかないあの気持ち。
そのあと味方がホームランを打っても、嬉しいことには嬉しいけど「もう勝負はついちゃってるしな…」と没入できないあの感情。
昨日の東のピッチングはそんな過去の呪縛から自分を解き放ってくれるようだった。
QSの日本記録は34試合連続だそうだ。
達成したのは2012年から2013年の田中将大。
2013年の田中は24勝無敗という尋常ではない記録を残し、チームを初の日本一に導いた。
大変なことは承知だけれど、僕は東にこの記録を塗り替えて、歴史に名を残してほしい。
大変に決まっている。他の名だたる投手でもこの記録には中々名を連ねられていないのがその証左だ。
でも、将来この記録に近づくピッチャーが改めて出てきた際に、東克樹という投手の凄みを皆に知らしめてほしい。
そして東の名前が話題に上がった時に、「贔屓チームの大エースだったんだ、しかも同い年!」と鼻高々に自慢できたら、これほど嬉しいことはない。