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映画感想:竜とそばかすの姫

◉エヴァンゲリオンの新劇場版の感想も書いてないのに、細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』を先に書くのも、ちょっともにょるんですが。あれは書き出すと1万文字は超えるでしょう。個人的には嫌いじゃない本作品ですから、評判があまり良くないのも残念なので。個人的に思うところを。でもまぁ、批判されてるポイントもわからんではないので。岡田斗司夫氏も辛辣に批判されていました。

竜とそばかすの姫

「サマーウォーズ」「未来のミライ」の細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーション。高知県の自然豊かな田舎町。17歳の女子高生すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界「U(ユー)」に参加することになったすずは、「ベル」というアバターで「U」の世界に足を踏み入れる。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちにベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、 「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる。主人公すず/ベル役はシンガーソングライターとして活動する中村佳穂が務め、劇中歌の歌唱や一部作詞等も務めた。謎の存在「竜」の声は佐藤健が務めた。ベルのデザインを「アナと雪の女王」のジン・キムが担当するなど、海外のクリエイターも参加している。

歌も音楽も動きも、素晴らしかったのは、他の方も言及されていますし。

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■対新海誠監督意識の迷走■

ポスト宮崎駿争いで、新海誠・細田守・庵野秀明・高坂稀太郎・片渕須直・原恵一・宮崎吾朗監督など、イロイロいるんですが。年齢的には新海・細田・高坂になるのでしょうね。で、細田守監督、かなり新海誠監督を意識した発言をされているのですが。その結果、観客動員というかセールスポイントとして、中村佳穂を主役の声に抜擢し『アナと雪の女王』的なことを仕掛けてきたのですが。

これ自体は、歌姫という存在ありきの作品なので、『ドリームガールズ』でビヨンセ・ノウルズを起用するようなモノ。声自体は合っていましたが。結果的に、『アナと雪の女王』の2匹目のドジョウを狙った『モアナと伝説の海』になってしまったような。悪い作品じゃないけれど、アナ雪とLet it goほどの傑作にはならなかったという。新海誠監督を意識しすぎて、ちょっと変な方向に行ってませんかね?

作家は、自分の興味関心があることを描かないと、内容が上滑りするんですよね。今はコレが売れてるから・受けてるからという部分を、モチベーションの中心に置いちゃダメなんですよね。例えば、ピクサー作品も、ギークからアニメーターとして成功し、結婚して家族ができたスタッフが、教育とか子供の未来とか、思うところができたゆえの作品が『ファインディング・ニモ』です。それは『カーズ』も同じ。

■パブロフの犬と父性と母性■

細田守監督の場合も、結婚から子供ができての部分が、『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』や『未来のミライ』などに投影されていて、これ自体は悪くないと思うのですが。本作ではそれが、児童虐待の問題として唐突に入ってくる感じで、コレが批判ポイントの大きな部分。「え? 竜の正体って、そいつで良いの?」と。コレって、パブロフの犬状態なんですよね。

パブロフの犬とは、教科書にも載ってる条件反射の代表例。犬にエサを与える時にベルを鳴らすと、しまいにはベルの音を聞いただけでヨダレが出るようになる現象。レモンや梅干しの写真を見ただけで、自分たちがヨダレが出てしまうのも、同じですね。細田守監督も、家族とか育児とかに対する思い入れが強くなりすぎて、パブロフの犬状態になってるんですよね。でも、ベルとエサが結びつかない人には、ヨダレは出ない。

例えば、『バケモノの子』が比較的良かったのは、あれは細田守監督と宮崎駿監督の関係が、投影されているからなんですよね。少なくとも、そう感じます。その視点で見ると、『サマーウォーズ』も『おおかみこどもの雨と雪』も、父親の影が薄いんですよね。ハッキリ言えば母親の視点。ヤクザの旦那の悪行を応援していたのが、子供に及びそうになったら手の平返して警察にたれ込む面もある、母性。

■父親殺しの物語に回帰する時■

細田監督作品には、サマーウォーズ以降、奥さんの影響が強くなってるとは、いろんな方が指摘されるところ。これが女性監督ならもっと、母親視点の物語が紡がれるでしょうけれど。男性監督には、やはり限界もあるというか。その点では、庵野秀明監督は『ふしぎの海のナディア』から『新世紀エヴァンゲリオン』まで、一貫して父親と息子の葛藤の物語なんですよね。ナディアは女の子ですが、肉が苦手と庵野秀明監督が投影されていますし。

自分などは、あなたが仮想敵とすべきは新海誠監督ではなく、宮崎駿監督でしょう、と。そして、であるならば今こそ、細田守版『ハウルの動く城』をやるべきじゃないですかね。権利的な問題はあるでしょうけれど。今ならクリアできるでしょうし。一度は、アニメ界から追放されると苦悩した、宮崎駿監督との確執が生まれた作品ですし。構想も絵コンテも、一度は創った訳ですから。

シンジくんのセリフじゃないですが、「逃げちゃダメ」なんですよ、横暴で不寛容で圧倒的な才能を持つ宮崎駿監督から。作品的な評価は芳しくないですが、個人的には好きな作品ですが。けっきょく、そこに細田監督が向き合わないと、脚本に誰を呼ぼうが、状況は変わらないでしょう。けっきょく本作は、『サマーウォーズ』的な世界観で、過去に受けた手法をツギハギして、良い音楽には乗せていましたが。子供を助ける側じゃなく、戦う側に回らないと。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

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喜多野土竜
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