映画感想:2分の1の魔法
ピクサーのアニメ『2分の1の魔法』を観てきました。創設者であったジョン・ラセターが去って、ちょっとパワーダウンした感も否めないピクサーですが。それでも、ラセター自身は宮崎駿監督が後継者育成に失敗(というと語弊はありますが)したのに対して、若手の抜擢や集団作業など、未来のピクサーを見据えた手を打ってるので、そこはたいしたもの。残されたスタッフは優秀ですね。そこは、薫陶を受けたディズニー・スタジオも同じ。
科学や技術の進歩によって魔法が消えてしまった世界に暮らす、内気な少年イアン。16歳になった彼は、亡き父が遺した魔法の杖を母からプレゼントされる。イアンはその杖を使って父を蘇らせようと試みるが、下半身しか蘇らせることができなかった。自分が生まれる前に死んでしまった父に一目会いたいと願うイアンは、陽気な兄バーリーと魔法の石を探す旅に出る。
骨格的には、『WALL-E』の世界観に近い部分がありますね。科学によって便利になりすぎて、魔法やら生来の飛行能力や疾走能力を失った世界。でも、ロードムービーとしてよくできているので、その類似性は気付きにくくなっていますね。加えて、兄弟それぞれの、亡き父への想いを抱えている。ここら辺は、カインとアベルの聖書の物語でもあり、成田美名子先生の『CHIPPER』のモチーフにも近いですが、普遍的テーマ。
謎を解きつつ冒険の旅を続ける。ロードムービーにダンジョン物のような面白さを融合させ、でもメーテルリンクの『青い鳥』的な結末も。やはり、こういう部分ではシナリオに2年から3年をかける会社らしい、練り込みです。兄弟の母親には新たな恋人がいて、と言ったところは現代アメリカの投影。ピクサーの作品には必ず、現代アメリカの問題が投影されていて、でもそれは普遍的な問題でもあるという。
作品って、そういう時代の問題を投影していないと、上滑りするわけで。ただ、『ズートピア』ほどは骨太の問題をバックにはしていないので、そこはやや食い足りないですね。『ズートピア』は薫陶を受けたディズニーのスタッフが練り上げた大傑作なので、アレと比べられたらたまらないと言われそうですが。ピクサーの作品としては『カーズ2』などより上ですし、面白い作品なのは間違いないです。オススメ。
しかし、宮崎駿監督が直弟子としては米林監督や宮崎吾朗監督なのに対して、間接的に庵野秀明監督や細田守監督、片淵須直監督、高坂希太郎監督らに影響を与えたように。ジブリのスタッフを取り込んで、一気に『君の名は。』でメジャー監督になった新海誠監督も、ジブリの遺産を受け継いだと言えそう。天才は弟子を育てるのは下手だけれど、その影響は天才に受け継がれる、ということで。
ジョン・ラセター自身もピクサーとディズニーから去り、スカイダンス・プロダクションズに移り、こちらでも人材育成を期待したいです。彼が起こしたセクハラ問題は問題として、しかしその才能と育成能力は消えさすには惜しいので。セルアニメの良さをわかった上で、彼はCGアニメの地平線を切り開いたけれど、両方の良さも限界点もわかっている稀有な人材。人を育てるのもまた、稀有な能力ゆえ。