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アニメ制作のインハウス化(内製化)

◉自分も、教え子がアニメ業界に進む場合が多く、イロイロと関心はあって今までちょくちょく書いてきましたが。アニメ『もういっぽん!』のプロデューサーであるBAKKEN RECORDの大松裕氏のインタビューが、とても興味深かったので、ご紹介を。

【【アニメ「もういっぽん!」放送終了記念】アニメーションプロデューサー大松裕インタビュー後編──アニメ製作の原点に立ち返るBAKKEN RECORDの挑戦】アキバ総研

2023年1月〜3月に放送され、青春女子柔道作品として人気を博したTVアニメ「もういっぽん!」。

原作は、村岡ユウ先生による同名漫画(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載。2023年4月からは無料まんがサイト「マンガクロス」にて連載中)。柔道経験者である村岡先生が描く柔道シーンは秀逸で、試合の熱さやワクワク巻、青春の尊さを描いたストーリーも魅力だ。

今回のアニメでは、監督に荻原健さん、シリーズ構成に皐月彩さん、キャラクターデザインに武川愛里さんを迎え、原作のよさを生かしつつアニメとしての魅力もプラスされたことで、視聴者からの評判は回を重ねるにつれて上がっていった。

https://akiba-souken.com/article/61749/

ヘッダーはMANZEMIのタイトルロゴより、

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■一歩踏み出す、勇気を学ぶ■

本論に入る前に、アニメ『もういっぽん!』も素晴らしい作品でしたので、まずはそこについて言及を。思えば本作は、鍋島雅治先生が最後にリツイートした作品でもありました。あれから3年以上。今頃は天国で「ね? ボクの見る目は正しかったでしょ?」と言ってそうです。女子柔道という場を漫画にし、人気を博しましたが、アニメーションの方も素晴らしい出来で。今は、こういう王道の成長端、仲間同士が助け合い、競い合って目標に到達するような物語は、避けられがちなんですよね。異世界に言ってチート能力を使って連戦連勝が、好まれる。

でも、それってある瞬間に虚しくなるんですよね。だって、現実の自分はそんなチート能力持っていないし、世界が変わる可能性もない。でも、弱虫が勇気を振り絞って一歩前に進む話は、時に自分の学びになることも。あるいは、そういう瞬間に自分の背中を押してくれたり。天才がバッタバッタ勝つ話も面白いですが、その天才にも欠点があり、弱点があり、悩みがあり。そういう人間臭さに、自分たちは共感するものですから。

ぜひご一読をm(_ _)m アニメもぜひ鑑賞してくださいませm(_ _)m

■アニメーターが貧乏な理由■

さて、ここから本題。日本のアニメスタジオは、基本的に正社員をあまり抱えず、その作品ごとに個人事業主のアニメーターと契約して、仕事をするという形式です。初期の頃は、東映動画にしろ虫プロにしろ、社員制度だったんですが。今は、会社の専門職が正社員で、原画マンや動画マンや作画監督などは、フリーランスということが多いようですね。なぜそうなったのかについては、諸説あります。手塚治虫先生と虫プロのせいというのは、どうやら間違いのようです。東映動画で社員を歩合制にしたら、社長よりもアニメーターの年収が多くなり、その制度が廃止されたとか、言う人もいますね。

ウォルト・ディズニー社では、アニメーターが一番もらっていたそうですが、日本ではそういうふうにはならなかったわけで。では、共産趣味の方が喧伝するほど、アニメーターは貧乏かというと。どうも、芸人なら見習い期間の20代に篩にかけられ、この時期には平均的に貧乏なのは事実ですが、生き残った30代以そうでもないない。教え子の話を聞いても、技術がある子は20台前半でも仕事があって、年収100万円台とかはないわけで。ここら辺も、こちらのnoteで詳しく書いています。

■インハウス化は時代の必然■

スタジオジブリは、アニメーターを社員として雇用し、知り合いに「ジブリには社員旅行があるんですよ」と羨ましがらせる時期もあったんですが。高畑勲監督の放蕩で、『かぐや姫の物語』で数十億とも言われる制作費をつぎ込み、2014年には制作部門の休止が発表され、年内をもって制作部門スタッフ全員の退職が発表されたわけで。退職金として、宮崎駿監督の事務所・二馬力からも、億単位のカネが出たようですが。共産趣味の限界ですね。しかし、京都アニメーションのように、社員化してホワイトな企業も出てきて。変わりつつあるようで。

大松 大事にしていることが2つあります。それは、「デジタル化」と「インハウス化(内製化)」。この2つがレーベルとしての大事なコンセプトです。
(中略)
アニメの制作はひと昔前に比べてとても難しくなっているんですね。それを考えると、「フリーランスを集めて解散」「また集めて解散」とやるのは、再現性がないというか。ある種、無理ゲーに近くなっているんです。よいモノを作る以前に、そもそもちゃんとしたアニメーションを作るためには、インハウス化は避けて通れないんですよ。
なので、遅きに失した感はありますが、今年の4月からうちも社内のアニメーターをごっそり社員化しました。本当によいモノを、再現性を高めて作っていくなら、京都アニメーションさんやufotableさんがやってきたことをやらざるを得ないと思ったんです。それで、インハウス化を大きなビジョンのひとつとして掲げました。

同上

とても大事な部分ですね。けっきょく、才能ってのは量産が効かないんです。作画監督に優秀な人間がいれば、原画や動画がイマイチでも、良い作品が作れたのですが。現在の、製作本数ではスタッフの粒を揃えないといけない。で、カネで集めることはできても、永続性がない。で、あるならば、社員化する。プロ野球の選手なら、40歳前にほとんどが引退しますが、アニメーターは60代でもバリバリ仕事する人が多く、70代や80代の現役も。であるなら、インハウス化は必然でしょう。スタジオの規模や体力はあるにしても。

■持続的な作品製作のために■

昔は、フリーランスとしてスタジオを渡り歩いた方が、儲かった部分もあったでしょうけれど。今は、作品自体が時間や手間をかけ、内容を高めないと粗製乱造は業界の首を絞めるわけで。京都アニメーションは、一人の狂人によって、才能あるスタッフが36人も命を奪われてしまいましたが。『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も『小林さんちのメイドラゴンS』もクオリティを高めて、傑作でしたし。東映動画から、共産趣味の夢を追いかけていた長老達が去り、アニメ界も現実の中で、かえって理想が実現できそうな逆説。

大松 商業アニメの歴史を振り返ってみると、東映アニメーション株式会社(設立時の社名は日本動画株式会社)や、それに追随して虫プロ(虫プロダクション株式会社)が始まった頃って、アニメーターは会社員だったわけですよね。その後、リストラや倒産などがあり、1980年代あたりからフリーランスで皆さんが活躍されるという流れになるのですが、僕は先祖返りしている感覚があるんです。フリーランスが集まって作ることに僕自身はすごく慣れているし、素晴らしさもあるんですけど、昔はいろんなことをもっとディスカッションして制作していたんだろうなと以前から思っていました。インハウス化することによって、ようやくそれができます。

同上

漫画家も、個人事業主として出版社の請負仕事をする立場でしたが。自前の事務所や個人出版社を作り、自分で作って自分で売る時代が、確実に近づいています。ただアニメは、やはりまだ集団作業。将来的には、もっと少ないスタッフで、AIを駆使して省力化できるかもしれませんが。今は、インハウス化で才能を抱えて、持続的な作品作りが求められるでしょう。本当に凄い人は、逆に自分でスタジオを抱えたり、フリーとして動くのかもしれませんが。庵野秀明監督が、ひとつのモデルになるかもしれません。

こちらも、経営という点で重要な視点ですね。

けっきょく、高畑勲監督や宮崎駿監督がついに軌道に乗せられなかったインハウス化を、若い世代が達成する。この意味は大きいです。昭和の残滓の共産趣味を克服し、ちゃんと資本主義の中で勝負る時代が、令和になりますように。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

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