アリに学ぶ戦争の質と量
◉アリと言っても、モハメド・アリではなく。昆虫のアリです。西オーストラリア大学の研究で、アリの世界の戦争と人間の世界での戦争の、類似性を示す研究が生まれたようです。昆虫のアリは、ハチやシロアリと並んで社会性昆虫と呼ばれ、同じ遺伝子ながら役割によって女王アリ・兵隊アリ・働きアリといった、形状さえ異なる集団が集団で生活し、人間に近い行動を見せることがあります。ある意味で、とても進化した昆虫なんですが、こういう研究は、興味深いですね。ドズル・ザビ中将の「戦争は数だよ、兄貴」の名言を、思い出します。
ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、アリの写真です。怖いです。
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■大型アリ対小型アリ■
詳しくは、リンク先の全文をぜひ読んでいただきたいのですが。アリは、働きアリや兵隊アリは卵を産まず、同じ女王アリから生まれたメスとして、群れ全体を守ります。兵隊アリは、働きアリよりも大柄で、顎も大きく発達している種類が多いですね。そういう意味では、戦闘用に特化してる兵隊アリがいるというのは、すごいことです。ハチは、そこまで分化していませんからね。その戦闘力と数の問題は、どこまで人間に当てはまるかはともかく、傾向は抽出できますね。
今回の研究は、在来種である大きな体格(8ミリ)を持つオーストラリアアリ(I. purpureus)と、小型(2ミリ)で外来種であるアルゼンチンアリ(L. humile)の、生存競争の研究なんですが。普通に考えれば、体長が4倍で質量は40倍にもなるオーストラリアアリが勝ちそうなんですが。アルゼンチンアリは小型種にありがちな強い繁殖力を備えており、数にまさるんですね。記事中で紹介されたゲームでは、騎士は戦士の5倍の戦力を持つのですが、数による力押しには勝てず。これが、アリの世界でも再現されたようです。
■無双は無敵にあらず■
人間の世界でも、弓矢以外の最強の兵器はやりで、ポールウェポンと呼ばれる長柄兵器は、世界中で最強の武器とされます。日本だと、槍を持った相手には刀を持った兵士だと4人か5人で互角、なんて言われますが。ライオンは、猫科の動物としては珍しく群れで狩りをするのですが、これもハイエナという、イヌ科の最強生物がいたため、とされます。象の骨さえ噛み砕くと言われるハイエナは、群れで行動するのでライオン単独では勝てないんですよね。加えて、オスライオンはメスより遥かに大柄なのは、対ハイエナ用に特化しているからと言う説も。
大柄で鈍重なオスライオンは、俊敏な牛科や鹿科の動物の狩りには向きませんが、ハイエナに対してはその巨体とパワーで、圧倒します。ただ、ハイエナの場合、年長のメスを中心に形成されるクランと呼ばれる群れは、最大で30頭以上がなので、オスのライオンを集団で襲うには、数が足りません。ところがアルゼンチンアリは、100万匹もの巨大なコロニーを形成するほど、圧倒的な繁殖力を誇ります。オーストラリアアリが無双しても、損害はゼロではないので、アルゼンチンアリの数が増えれば、けっきょくは負けてしまうという現実。まさに、戦争は数だよの世界。
■徴兵制と国民国家と■
フランス革命後、王政が廃されて国民国家が生まれたり、立憲君主制に移行する国が、多数現れました。これは、民主主義が正しかったから……ではなく。単純に国民国家の軍隊──具体的にはフランス軍が、戦争に強かったからです。ナポレオンという天才も生まれ、フランス軍は連戦連勝。攻め込まれたドイツなど、少量手の連合国家だったので、ボロ負けし。中央集権の国家を生み出す必要性が生まれ、それまではプロイセンだバイエルンだという小国の国民意識が、統一されたドイツ帝国のドイツ国民という意識を、生み出す必要があったんですね。
日本の明治維新も同じです。王政の国家では、国の軍隊は王がカネで雇った私設軍みたいなものですが、国民国家になると徴兵制で無尽蔵に、ほぼタダで兵士を補給できます。そうなると、アルゼンチンアリと同じで数の力推しが可能。加えて、王様の国という他人事感から、我々の国という責任感が生まれ、生命の樹kン星が出たらさっさと逃げる傭兵と違って、死ぬまで戦う勇猛な兵士が得られるんですから。フランス軍の連戦連勝は必然でした。民主主義と徴兵制は、表裏一体です。日本では、皇軍のイメージで、徴兵制と王政のイメージが結びついていますが。
■地の利が局地戦の要■
興味深いのは、地形によっては、この力押しの効率が、かなり変わるとうこと。古来の兵法でも、天の時・地の利・人の和を重視しますが。地形によって、最適の陣を組むことで、力押しに勝てることも。桶狭間の戦いも、地形にによって今川軍の陣が伸びて入り、手薄になったところを本陣を押しまくったら、今川義元の首級をあげてしまったようです。『信長公記』を分析すると、言われているような奇襲ではなく。正面攻撃で、押し切ったようですね。
前述の、徴兵制による国民国家の軍の数による力押しは、ナポレオン戦争の頃までで、日露戦争では塹壕と機関銃とトーチカで、通用しなくなりましたが。203高地という地形で日本軍が苦戦した故事と、アリの研究が重なりますね。とはいえ、やはり最後は数。日本軍は、戦力のなさを奇襲戦による勝利で補おうとしたのですが。しょせんそれは邪道。孫子も「戦いは、正を以って合し、奇を以って勝つ」と書いてるように、正攻法で兵力を整え、その上で意外性や意表を突いた攻撃で勝つと語っているのに。日本軍は、奇襲で勝つとすり替えたわけで。ここは重要ですね。
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