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アリに学ぶ戦争の質と量

◉アリと言っても、モハメド・アリではなく。昆虫のアリです。西オーストラリア大学の研究で、アリの世界の戦争と人間の世界での戦争の、類似性を示す研究が生まれたようです。昆虫のアリは、ハチやシロアリと並んで社会性昆虫と呼ばれ、同じ遺伝子ながら役割によって女王アリ・兵隊アリ・働きアリといった、形状さえ異なる集団が集団で生活し、人間に近い行動を見せることがあります。ある意味で、とても進化した昆虫なんですが、こういう研究は、興味深いですね。ドズル・ザビ中将の「戦争は数だよ、兄貴」の名言を、思い出します。

【アリの戦争も「質で数に勝つための条件」が人間と同じと判明!】ナゾロジー

質の暴力は存在するようです。

豪州の西オーストラリア大学(UWA)で行われた研究によって、アリたちの戦争と人間の戦争が、思った以上に類似していることが示されました。

人間の戦争では、山間部や谷間、密林など複雑な地形は少数精鋭部隊にとって有利であり、大軍が有利を生かせず敗北したケースが何度もみられます。

新たな研究ではアリたちの戦争でも複雑な地形は質に優れた少数精鋭の部隊にとって有利であり、ときに10倍の数の敵を圧倒することが示されました。

また実験手法もユニークであり、戦略ゲームとして古くから親しまれている「Age of Empires2」を戦闘力比の算出や地形効果の分析に利用しており、いくつかの興味深い事実が判明しています。

アリたちのみせる無慈悲な殲滅戦は、人間に何を教えてくれるのでしょうか?

研究内容の詳細は『PNAS』にて公開されています。

https://nazology.net/archives/136151

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、アリの写真です。怖いです。

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■大型アリ対小型アリ■

詳しくは、リンク先の全文をぜひ読んでいただきたいのですが。アリは、働きアリや兵隊アリは卵を産まず、同じ女王アリから生まれたメスとして、群れ全体を守ります。兵隊アリは、働きアリよりも大柄で、顎も大きく発達している種類が多いですね。そういう意味では、戦闘用に特化してる兵隊アリがいるというのは、すごいことです。ハチは、そこまで分化していませんからね。その戦闘力と数の問題は、どこまで人間に当てはまるかはともかく、傾向は抽出できますね。

今回の研究は、在来種である大きな体格(8ミリ)を持つオーストラリアアリ(I. purpureus)と、小型(2ミリ)で外来種であるアルゼンチンアリ(L. humile)の、生存競争の研究なんですが。普通に考えれば、体長が4倍で質量は40倍にもなるオーストラリアアリが勝ちそうなんですが。アルゼンチンアリは小型種にありがちな強い繁殖力を備えており、数にまさるんですね。記事中で紹介されたゲームでは、騎士は戦士の5倍の戦力を持つのですが、数による力押しには勝てず。これが、アリの世界でも再現されたようです。

■無双は無敵にあらず■

人間の世界でも、弓矢以外の最強の兵器はやりで、ポールウェポンと呼ばれる長柄兵器は、世界中で最強の武器とされます。日本だと、槍を持った相手には刀を持った兵士だと4人か5人で互角、なんて言われますが。ライオンは、猫科の動物としては珍しく群れで狩りをするのですが、これもハイエナという、イヌ科の最強生物がいたため、とされます。象の骨さえ噛み砕くと言われるハイエナは、群れで行動するのでライオン単独では勝てないんですよね。加えて、オスライオンはメスより遥かに大柄なのは、対ハイエナ用に特化しているからと言う説も。

研究ではまず、この騎士(高コスト)と剣士(低コスト)にさまざまな条件で戦闘を行わせ、データを集計することからはじめられました。

すると騎士1体に対して剣士1~4体を戦わせた場合には常に騎士が勝利し、逆に騎士1体に対して剣士5~10体を戦わせた場合には常に剣士側が勝利しました。

大柄で鈍重なオスライオンは、俊敏な牛科や鹿科の動物の狩りには向きませんが、ハイエナに対してはその巨体とパワーで、圧倒します。ただ、ハイエナの場合、年長のメスを中心に形成されるクランと呼ばれる群れは、最大で30頭以上がなので、オスのライオンを集団で襲うには、数が足りません。ところがアルゼンチンアリは、100万匹もの巨大なコロニーを形成するほど、圧倒的な繁殖力を誇ります。オーストラリアアリが無双しても、損害はゼロではないので、アルゼンチンアリの数が増えれば、けっきょくは負けてしまうという現実。まさに、戦争は数だよの世界。

■徴兵制と国民国家と■

フランス革命後、王政が廃されて国民国家が生まれたり、立憲君主制に移行する国が、多数現れました。これは、民主主義が正しかったから……ではなく。単純に国民国家の軍隊──具体的にはフランス軍が、戦争に強かったからです。ナポレオンという天才も生まれ、フランス軍は連戦連勝。攻め込まれたドイツなど、少量手の連合国家だったので、ボロ負けし。中央集権の国家を生み出す必要性が生まれ、それまではプロイセンだバイエルンだという小国の国民意識が、統一されたドイツ帝国のドイツ国民という意識を、生み出す必要があったんですね。

日本の明治維新も同じです。王政の国家では、国の軍隊は王がカネで雇った私設軍みたいなものですが、国民国家になると徴兵制で無尽蔵に、ほぼタダで兵士を補給できます。そうなると、アルゼンチンアリと同じで数の力推しが可能。加えて、王様の国という他人事感から、我々の国という責任感が生まれ、生命の樹kン星が出たらさっさと逃げる傭兵と違って、死ぬまで戦う勇猛な兵士が得られるんですから。フランス軍の連戦連勝は必然でした。民主主義と徴兵制は、表裏一体です。日本では、皇軍のイメージで、徴兵制と王政のイメージが結びついていますが。

■地の利が局地戦の要■

興味深いのは、地形によっては、この力押しの効率が、かなり変わるとうこと。古来の兵法でも、天の時・地の利・人の和を重視しますが。地形によって、最適の陣を組むことで、力押しに勝てることも。桶狭間の戦いも、地形にによって今川軍の陣が伸びて入り、手薄になったところを本陣を押しまくったら、今川義元の首級をあげてしまったようです。『信長公記』を分析すると、言われているような奇襲ではなく。正面攻撃で、押し切ったようですね。

結果、単純な地形の場合、剣士の数が50人を超え始めると騎士の勝率はほぼ0となりましたが、複雑な地形では剣士の数が80人を超えても、騎士側が勝つケースがみられました。
この結果は、複雑な地形には少数精鋭の軍の勝率を上げる効果があることを示しています。

前述の、徴兵制による国民国家の軍の数による力押しは、ナポレオン戦争の頃までで、日露戦争では塹壕と機関銃とトーチカで、通用しなくなりましたが。203高地という地形で日本軍が苦戦した故事と、アリの研究が重なりますね。とはいえ、やはり最後は数。日本軍は、戦力のなさを奇襲戦による勝利で補おうとしたのですが。しょせんそれは邪道。孫子も「戦いは、正を以って合し、奇を以って勝つ」と書いてるように、正攻法で兵力を整え、その上で意外性や意表を突いた攻撃で勝つと語っているのに。日本軍は、奇襲で勝つとすり替えたわけで。ここは重要ですね。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ


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