
隕石爆発と都市ソドムの滅亡
◉なかなか興味深い記事が、朝日新聞に掲載されていました。聖書の中で、神の放った天の火で一瞬にして滅ぼされたとされるソドムとゴモラの両都市の伝説が、実は隕石による空中爆発ではないか───という説。欧米では、こういう聖書の記述を検証する、聖書考古学が盛んで、聖書に登場するノアの箱舟が漂着されたとされるアララト山に、調査隊がちょくちょく派遣されるほどですから。
【「天の火」で滅亡した都市ソドムか? 中東の遺跡に隕石爆発の痕跡】朝日新聞
約3600年前に中東ヨルダンの死海の北東部にあった古代都市が、巨大隕石(いんせき)が空中爆発した際の超高温の爆風で消滅した可能性を示す証拠が見つかった。米トリニティー・サウスウェスト大などのチームが20日、遺跡の調査結果を科学誌サイエンティフィック・リポーツ(https://doi.org/10.1038/s41598-021-97778-3別ウインドウで開きます)に発表した。旧約聖書で、神の怒りを買って「天の火」で滅ぼされた都市「ソドム」ではないかとチームは指摘している。
遺跡は、死海の北東部に存在した古代都市「トール・エル・ハマム」など。一帯は約3千年にわたって繁栄したが、紀元前1650年ごろに突如姿を消し、以来300~600年間、不毛の地だったことがわかっている。
写真はnoteのフォトギャラリーより。死海の写真だそうです。
◉…▲▼▲▽△▽▲▼▲▽△▽▲▼▲…◉
■ツングースカ大爆発と同じ?■
例えば、中東には隕鉄──隕石に含まれる鉄分で製造された刀剣が、けっこう確認されています。南極大陸で、日本の南極越冬隊がけっこうな数の隕石を見つけたりしますが。ただっぴろい平原で、そもそも隕石の堕ちた場所を確認しやすいってのもあるようですが。中東の礫砂漠や荒れ地も、似てるんでしょうね。人類が利用した最古の鉄は隕鉄ではないかという説もあるぐらいです。
隕石の爆発に関しては、ツングースカ大爆発という事例が、1908年にロシア帝国領中央シベリアのエニセイ川支流のツングースカ川上流の上空で、謎の大爆発事件がありました。現在は、隕石によって起こった爆発であるとざれます。なので、過去にも同じような事件が中東で起きても、不思議はないですね。むしろ、そういう珍しい事件だったため、ソドムとゴモラが滅びた理由が後付けで記述された可能性も。
■聖書には真実が書かれている?■
欧米では前述のとおり、聖書考古学が盛んです。モーゼの出エジプトの際の海割れの奇跡も、地中海での火山爆発と、それに伴う津波や異常気象で説明できるという指摘もあります。なぜ聖書考古学が盛んかというと、科学的探究心もあるのですが、欧米のキリスト教徒には宗教が骨絡みで、これを科学的に否定したくないという心情が、強すぎるんですよね。なので、牽強付会的な珍説も、しばしば登場します。
宗教心が薄いと言われる日本人には、ピンときませんが。欧米人はかなり本気で聖書を信じていますし、進化論を学校で教えるな・教えても一学説として教えろという運動と連鎖しています。ネス湖のネッシーも西暦565年の、アイルランド出身の聖職者コルンバの生涯に関する伝記の中に登場するため。聖人の事跡と密接な伝承があるので、ネッシーがいる=聖人の起こした奇跡もあった、という発想になるんですよね。
■話半分、疑いつつ楽しむ■
自分は、神話には幾ばくかの事実が投影されていると思うので、日本の神話なども考古学の成果が、神武東征の神話と繋がっているなと思ったりします。逆に、神武東征神話を否定したい学者やマスコミは、箸墓古墳が卑彌呼の墓で確定したかのように報道します。学者でも推定に100年のズレがある古墳を、強引に比定するのは疑問です。ちなみに、こんな指摘もTwitterではあります。
考古学者としてこのニュースについて一言言っておくと
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
●「聖書考古学」というのは基本的に「旧約聖書に書かれてることを考古学的に実証する」ことが目的であるため、科学の観点からして非常に問題があるhttps://t.co/UN4qNCAN0e
●100歩譲ってこの遺跡の破壊が火球・彗星のエアバーストの結果だと立証できたとして、それをソドムと結びつけるのは憶測の領域を出ない→少なくとも「考古学」の範疇で議論される内容ではない
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
●エアバースト仮説を立証するだけのエビデンスが揃ってるように思えない
ってところですね。
補足すると、記事にも出てくる「米トリニティー・サウスウェスト大」って、俺が住んでるアルバカーキ市にありながら、だれも名前を聞いたことがないような、正式に学位授与することもできないキリスト教系「大学」で、ストリップモールのシガーショップとデリの間にあるようなところである。 pic.twitter.com/bksHIgCwcO
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
「聖書考古学」のように、予め「実証したい結論」がある研究がなぜ問題があるかというと、彼らは往々にして「(聖書に出てきた)○○で××(という考古資料)が説明できる」で満足しちゃうから。
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
科学やってると分かるんだけど、実際は「○○じゃないと××が説明できない」まで言えないとダメなんですよ
今回の論文でも「エアバーストで遺跡の一部が説明できる」が受け入れられたとして、「エアバースト以外ではあり得ない」まで言えないとならない。そこができてないと思う。ま、ここら辺は考古学者というより地質学者の領域なので、続報を待ちたいところである。
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
あと、記事で「塩害」について書いてあるけど、「破壊層」とやらの塩分濃度が高かった→塩害!→ソドムの伝承で出てきた塩の柱!ってのはさすがに飛躍し過ぎてて失笑した。中近東における塩害というのは灌漑農業が始まって以来繰り返し人類を悩ませてきたもの。説明を隕石に頼る必要など全くない。
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
元スレに繋げるけど、この論文の著者一覧がかなり謎だという話。 https://t.co/IjIV8YKfBM
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
なんと、実は3年前に、少なくともアブストラクトを読む限りは全く同じような内容の論文が書かれてResearch Gateにアップされてた。こちらの筆頭著者はやはりトリニティ・サウスウェストのシルヴィア氏で、コリンズ氏も名を連ねてる。https://t.co/KWpxehWLKL
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
これがなぜか今回の論文ではシルヴィア氏は末席の著者でコリンズ氏は名前すら登場しない。筆頭著者か2018年論文の第2著者であるバンチ氏だ。
— Dr. RawheaD (@RawheaD) September 22, 2021
これは何らかのタクティクスが絡んでると見て間違いないでしょう
なるほど。やはり聖書には真実が書いてあるとしたい人たちによる、牽強付会っぽいですね。まぁ、こういうのもトンデモ説にハマってしまう可能性はあるのですが。歴いや文化への興味の切っ掛けにもなるので、全否定はしたくないです。より深いところへ、興味関心が広がったり深まったりすることを、願ってやみません。ネット右翼と呼ばれる層って、ネット歴が浅くて胡散臭い情報に飛びつくニワカネット民が多いそうですし。知は力なり。
どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ
いいなと思ったら応援しよう!
