旧メディアの中のラジオ
◉倉本圭造氏のポストが、とても興味深かったのでご紹介。新聞・テレビ・雑誌の旧メディアの、経営状態についての考察です。双方向のメディアであるインターネットの出現とSNSの発達によって、一方通行のオールドメディアはオワコン───というイメージは、ありますが。現実は、そう簡単に一括りできるわけでもないようです。
ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、ラジオのイラストです。
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■新聞業界と出版業界と■
詳しくは、上記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。テレビ業界や出版業界は、まだまだ経営的には慌てるようなレベルにはなく。でも確実に危険水域にあるのが、新聞というメディア。そもそも新聞のピーク自体が1997年で5376万部。昨年は2661万部で、全盛期のの49.5%にまで落ち込んでいます。27年間で此処までダメになったわけで。それは、オワコンと言われても仕方がない部分はありますね。でもこれは、新聞協会と構造的に似ている出版業界と比較してみれば、構造的な問題も明らかになります。
出版業界は1995年をピークに、ずっと右肩下がりだったわけですが……。2020年のコロナ禍と、巣ごもり景気によって、電子書籍の売上が爆発的に伸び。ここ数年は過去最高益を更新し、昨年もそれに近い状況に。新聞業界と出版業界の違いは、どこで生まれてしまったのか? 宅配制度というシステムに支えられて、部数を維持してきた新聞業界と。再販制度によって流通をコントロールしてきた出版業界は、似ています。でも、インターネットという新たな流通経路が生まれたことに対し、新聞業界は柔軟に対応できなかった、というのが大きいです。
正確に言えば、出版業界も柔軟に対応できていなかったのは同じで、業界人の結構な割合が、むしろ電子書籍を敵視し。小学館など、腰の重い大手出版社も普通にありました。でも、AmazonのKindleの普及により、その存在感は認めざるを得ない状況になった……というのが大きいでしょう。一方新聞業界は、インターネットを利用した電子版のマネタイズ が、思ったほどうまくいかず。例えば出版業界が、漫画作品の分冊版や1話売りという形に、早くから進出したのに対して、未だに新聞の電子版は定期購読 スタイルが主流。1本10円とか、興味がある記事だけバラ売りで読めれば、違うのでしょうけれど。
■新メディア敵視の歴史■
このような、新たなメディアに対する敵視は常に起こることで。新興のラジオというメディアが生まれた時、吉本興業は無料で漫才や落語を聞かれては、商売上がったりだと芸人のラジオ出演を禁止しました。ところが、この禁を破って初代桂春團治がラジオに出演。吉本興業は当然ながら激怒し、謹慎処分にするのですが。ラジオで春團治の面白さを知った人々が、逆に寄席にドッと押しかけて、ラジオ という新しいメディアの宣伝効果に、吉本興業は気づくのです。以来、吉本興業はメディア戦略重視。
新聞業界自体は、昔はこの吉本興業のような柔軟性を、
持っていました。1924年12月、東京・名古屋・大阪でラジオ放送事業を許可する方針を打ち出し、聴取世帯数は1932年には100万世帯、1935年には200万世帯、1939年には400万世帯を突破と、短期間に娯楽の王者に。新聞はラジオが人気になればラテ欄を作り、敗戦を挟んだ 1951年には民間放送も始まり。新聞社はラジオに進出。テレビ放送の時代が来れば、読売新聞が日本テレビを設立し、新しい時代のメディアを柔軟に取り込んでいた部分があります。
ところが、インターネットという新しいメディアに対しては、そこが後手に回った感じです。例えばニューヨークタイムズは、アメリカ合衆国内での発行部数は、USAトゥデイの162万部、ウォール・ストリート・ジャーナルの101万部に次ぐ、第3位の48万部でしかなかったのですが──。インターネットの勃興の波に乗り、電子版の読者が1000万人を突破。現在は紙の新聞と合わせて1055万部の部数を誇り、世界最大の発行部数に。かつては1005万部の部数を誇り、ギネスブックにも認定された読売新聞が、今は580万部に激減。
■宅配制度の崩壊が好機■
日本の新聞業界だって、クオリティの高い記事や専門性のある記事を出していれば、ニューヨークタイムズのような躍進もあり得たでしょう。でも、記者クラブ制度による警察の取材力にオンブに抱っこ、宅配制度維持に固執し、新聞社はすっかり柔軟性を失ってしまいました。新聞の電子版会員制度はあっていいですが、それこそ経済に全く興味がない人、スポーツに興味がない人には、関係ない記事は読みたくない。であるならば、記事を10円とか20円の安価でバラ売りする方が、結局は収益の安定化になったのではないでしょうかね。
もっと言えば、目に優しくバッテリーの持ちが良い電子ペーパーの、新聞専用タブレット型を開発し、契約世帯に無料レンタルする。新聞販売店は廃業せざるを得ないでしょうが、新聞社自体は生き残れるはずです。取次会社の業務が、なし崩し的に電子書籍に入れ替わって行った出版業界に対して、新聞業界はそこに踏み切れない。どこかで転換せざるを得ないのでしょうけれど、その時はもう手遅れになっているかもしれませんね。逆に、日本の宅配制度が崩壊した、その状況が来て初めて、日本の新聞業界は大胆な電子版シフトが起きるのかもしれません。
日本経済新聞社の電子版は、頭打ちというか伸び悩み 状態ですが。ここも会員登録なしの記事のバラ売りを始められれば、収益的には十分やっていけるようになる気がするのですけど。はい、素人の適当な推測に過ぎませんけれども。
■ラジオに学ぶ生き残り■
個人的には、新聞・テレビ・出版の分析に加えて、ラジオの分析も欲しかったです。1920年代に放送始まり、50年代末にピークを迎え、ある意味で新聞やテレビより先に黄昏の時代を迎えたメディアだからこそ、新聞やテレビの生き残り戦略で、参考になる部分もあるだろうから。前述したように、旧メディアの新聞・テレビ・雑誌・ラジオに関しては、新聞の宅配制度が本の再販制度に近い部分があり。ここが崩壊すると、出版社のように電子で置き換えとは、単純に行かないのでしょう。でも、テレビはネットとの親和性が高く、雑誌のようにシフトしやすく。生き残り戦略も建てられるでしょう。
昭和9年に解散したエンタツアチャコが、一世を風靡したのがラジオですから。ピークは、ちょうど1958年頃のようですね。ここからはもうずっと右肩下がりで、そういう意味ではあまり 存在感がないのがラジオです。でも自分は、中学・高校・浪人時代と勉強の最中にながらで聞けるラジオ好きで。社会人時代は忙しさにかまけて聴けなくなってたんですが、サラリーマン辞めたら仕事しながら情報が得られる(その前にテレビも壊れた)ので、かなりラジオに依存しています。なので、かつての栄光は取り戻せなくても、生き残り戦略としてラジオは参考になる部分があるのではないかと考えます。
ラジオが生き抜いてこれたのは、制作経費が安かったから……という面はあります。タレントのギャラも、かなり安いようで。自分らがガキの頃は、オールナイトニッポンとか、若手タレントの登竜門でしたからね。まぁ、やがて松任谷由実さんなど大物タレントを起用するようになって、すっかり新人登用の場としての魅力が、なくなってしまいましたが……。伊集院光さんと揉めた某氏が、幅をきかせるようになった頃と、一致しますが。ラジオがテレビ化しても、一時的には利益が出るでしょうけれども。長い目で見ると、ラジオの良さを殺してしまうのではないでしょうか?
■新たなマネタイズ模索■
テレビでは、かつては制作費がかかると敬遠されていたドラマやアニメが、配信によって二次的な利益が出て、さらに海外にも販売しても利益も出る、再評価されているように。製作費が安くお手軽に作れるバラエティ などは、コンテンツとしてロングテールになりづらい面がありますから。もちろん バラエティ番組も、ドリフ大爆笑のように時間と手間暇とお金をかければ、何十年経っても、笑えるように。ラジオも同様に、ニュースの深堀りと解説や、ラジオドラマ(オーディオドラマ)や朗読劇などの部分で、有料コンテンツの収益化ができそうな。
文化放送などは、声優を起用した番組が多数ありますから。その中のコーナーとして、掌編小説の朗読やラジオドラマを5分から10分ぐらいで放送し、オーディオブックとして販売するのも、手ではないでしょうかね。もちろん 販売する時にはオマケをつけて、付加価値を高めることも忘れずに。自分は〝聞く読書〟の可能性を、かなり感じています。忙しい現代人にとって、通勤通学の合間に小説を聞く、というライフスタイルは、今後ますます増えると思いますし。資金がかかるアニメに 比較して、オーディオドラマは試金石も兼ねた実験場にできますし。
あと、ナチスの宣伝相ゲッペルスが、ラジオをホットメディアと重視したように。映像がない方が、かえって想像力を刺激し、大衆を扇動する力が強かったんですよね。オーソン・ウェルズの『火星人来襲』のドラマが、本当だと思われてパニックを引き起こしたように。リスナーとの距離が近いんですよね。中学生だった自分が、笑福亭鶴光師匠のピンク話芸に興奮したのも、想像を刺激するホットメディアゆえ。ラジオは狭いですが、濃い面もありますし。伊集院光さんがよく語っていますが、チケット プレゼントなどでは、テレビよりもラジオの方が応募者が多いという傾向があるとか。
■小規模高収入の時代へ■
前述したように出版業界自体は、版元と取次と書店の、再販制度がかなり崩壊しつつあるけれど、電子書籍と海外展開とPODなどで、伸びしろもあるかなと。テレビはインターネットでの配信と、ドラマやアニメなど しっかりと手間暇予算をかけたコンテンツが、海外配信で儲けを出すように。インターネットの時代にはインターネットの時代に合わせた、マネタイズの方法論があるはずです。でも、インターネットの時代は個人が小規模に、でもかつてよりもマネタイズ できる時代になるのではないかと考えています。
明治の頃には、東京に400軒以上あった寄席が、今では4軒に。でもその頃よりも落語家の数は増え、収入も格差はあっても、全体としては確実に上がっています。そうやって、時代に合わせた生き残り戦術を考えることが、実は重要なのではないでしょうか? 出版業界に関して言えば、個人出版がかなり増えてきつつあります。漫画家が自分でアカウントを持ち、自分で AmazonやDMM、DLsiteなどで販売する。100万部の大ヒットは出づらくなっても、作家は10万部のヒットで倍ぐらいの印税収入を得られる事例も、出ているのですから。
タレントも、テレビに依存せず YouTuber として収益を出してる人間がどんどん増えています。ダウンタウンが独自のサーバーで配信する番組の結果次第によっては、芸能事務所が自前でネット演芸場を持つ形式が増えるかもしれません。ラジオは安く作れるという部分で、コミュニティFMなど、小規模な形での運営が可能です。かつて大企業が莫大な資本を投入しなければ難しかった、出版や放送が個人である程度は作れる時代に。インターネット時代が、クリエイターや表現者にとって利益をもたらす時代に、なってほしいなと思います。
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