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アルバム『結束バンド』感想

◉アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』のアルバム『結束バンド』が発売されました。予想通り売り上げ好調です。作中に登場してきた曲やオープニング曲、エンディング曲もとてもレベルが高かったので、期待していましたが……期待以上です。昨日購入してからずっと、ヘビーローテーションで聴きまくっています。これは、アニメファンのみならず、一般層にも広がるだけのポテンシャルを持った、傑作アルバムに仕上がっていますね。

ヘッダーはAmazonのスクリーンショットより、アルバムカバーです。

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■アルバム『結束バンド』各曲の感想■

ということで、本アルバムに関する感想を。といっても、自分は音楽にまったく造詣は深くないですし、楽器のひとつも演奏できません。そういう意味では、ただの素人の感想ですので。いちファンの戯言として、読み流してくださいませm(_ _)m

アルバムカバー

それではさっそく、以下に各曲の感想を。

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01.青春コンプレックス

オープニング曲で、まさに努力できる天才・後藤ひとりの〝臆病な自尊心〟を歌った歌です。臆病な自尊心というのは中島敦の名作『山月記』で使われた、創作者の心情です。自分は大しては才能ないですが、漫画界で出会った天才たちでさえ皆、この臆病な自尊心を抱えています。何の根拠もなく、自分はプロの表現者になれると思ってて、実際になってしまった人たち。でも、自分は映画『アマデウス』のモーツァルトではなく、サリエリなんだという意識を持っている人たち。

歌詞の「嵐に怯えるふりをして空が割れるのを待っていた」や「猫背のまま虎になりたい」はまさに、創作者の心情。本作は、自己肯定感の低かった後藤ひとりが、伊地知虹夏との出会いで、望んでも得られなかった平凡を手に入れる話です。しかし彼女自身はけして、平凡ではなかったわけで。でも藤子・F・先生の天才も、順調だった新聞社の仕事を辞めて一緒に上京してくれた A 先生がいてこそ。作中で使用されなかったのは、第2期や第3期で使われる可能性があるからでしょうかね。

02.ひとりぼっち東京

これも名曲です。元々、本作が最初に作られ、カップリング曲として『青春コンプレックス』が作られたという意味において、アニメ版『ぼっち・ざ・ろっく!』の背骨とも言える作品ではないでしょうか。青い炎──島本和彦先生の名作『アオイホノオ』のタイトルであり、島本先生の小学校の先輩である石川サブロウ先生の『蒼き炎』から本歌取したタイトルではないかと、自分は思っています。

内容的には、上京した田舎もんが持つ東京への憧れと孤独感みたいなものが、色濃く滲んでいて、いいですね。東京への恨みが強くなると、長渕剛になるのですが。でもこれ、隣県神奈川出身の後藤ひとりの心情だとすると、関東圏以外の田舎者の恨み節とは、ちょっと違います。ここで歌われる東京は、居場所のないひとりの、心の空間みたいな感じで。それが埋まっていく過程を描いたのが本アニメですからね。プロになる野心は、きっちり表現されてるのがいいです。

03.Distortion‼

初代のエンディング曲で、明るくポップな曲。……なんですが、歌詞は重いですね。後藤ひとりの曲にも思えるし、ヴォーカルの喜多ちゃんの歌にも思える、興味深い曲です。Distortionは、ねじれとか歪みの意味で、まさに山田リョウが言う、ひとりひとりのバラバラな個性が集まって結束バンドになるなら、コミュ障のギターの天才と、ギターが下手なヴォーカルの対比が、結束バンドの個性。そして、ひとりがコミュ障を克服していくように、喜多ちゃんもギターを克服していくんですよね。それが、文化祭でひとりをサポートするギターのアドリブに繋がるわけで。

EDアニメも凝った作りなんですよね。最初は、ぎこちない動きのアニメが、「Distortion it’s Motion」のサビの部分になったら、楽曲に合ったなめらかな動きになり、個々のキャラもリズミカルに。犬のジミヘンの動きも良くて。というか、最終回とか見てると、スタッフに犬飼ってる人がいるなと思わせるぐらい、ジミヘンの動きが良いアニメでした。ところでどうでもいい話ですが、実は「Distortion it’s Motion」の部分が「一等賞! 一等賞!」に聞こえていました( ´ ▽ ` )ノ

04.ひみつ基地

本作も、劇中では使用されませんでしたが。とってもポップな明るい曲なのですが、歌詞の内容をよくよく読むと、後藤ひとりの自宅の押し入れのことですね、たぶん。作中で、山田リョウに後ろ向きな内容をリア充に歌わせたら面白いと言われた、まさにその内容ですね。考えようによっては、かなりヤバイ内容ではあるのですが。ある意味で、次曲の『ギターと孤独と蒼い惑星』とセットになっている曲のようです。

『ギターと孤独と蒼い惑星』がわりと攻撃的というか、コミュ症の後藤ひとりの内側に秘めたエネルギーとか攻撃性とか本音の爆発に対し、本作はネットの世界だけあればいいと自分で殻にこもっていた部分の肯定というか……。でもそれは、決して悪いことだけではなく。そういう部分があったからこそ、1日6時間以上の練習を毎日続け、高校1年生にしてプロレベルの技術を獲得するに至った部分はあるわけで。人生に無駄な部分というのは、そんなにないのかもしれない、と。無駄にしてしまう生き方はありますが。

05.ギターと孤独と蒼い惑星

劇中で、大きなポジションを占める曲です。山田リョウのアドバイスに従った、狭くても誰かに深く刺さる曲。確かに、後藤ひとりの心情を叩きつけた曲で、オープニング曲の『青春コンプレックス』と同じく名曲ですね。これをあえて用意できるスタッフの、余裕というか凄みというか。並みの作品なら、『青春コンプレックス』だけで押したでしょうけれど。劇中に使わない曲も含め、スタッフの気合が半端ないですね。音楽に関しては、妥協がないです。

ぼっちちゃんの歌に思えますが、「バカな私は歌うだけ」で、ギターにエリクサーの弦を張ってる部分からも、喜多ちゃんの曲でもあるような。陽キャで人気者で、歌も上手くて美人と。完璧に見える彼女も、ギターは全然下手ですし、彼女なりのコンプレックスを持っていて。ぼっち家に行った時、腐海の菌糸に巻き込まれて、つい本音を喋っていた喜多ちゃんと虹夏でしたが。彼女にだってこういう、泥臭く暗い感情があるという部分で聞くと、いいですね。

06.ラブソングが歌えない

こちらも作品中では使用されなかった、アルバムオリジナル曲ですが。歌詞に「秘密基地」が登場するように、どんな曲を作っていいか迷っていた頃の後藤ひとりの、心情を歌った曲のように思えますね。作品作りというのは大衆に受けなければしょうがない部分はあるのですが。観客を意識しすぎて八方美人もダメで。山田リョウが作中で言う、狭くても深く刺さる作品が大事です。

もちろん同時に、甘ったるいラブソングを唄っていればそれで OK という風潮に対する、作詞者側の異議申し立てにも思えます。調べてみると作詞はZAQさん。『ギターと孤独と蒼い惑星』や『わすれてやらない』の作詞も担当。Wikipedia を見たら鹿児島県姶良郡出身とのこと。あら、故郷がわりと近いじゃないですか。コミュ障の後藤ひとりにとって、ラブソングが歌えないとは、他の人が当たり前にできている会話ができないということと同じですからね。これも好きな曲。

07.あのバンド

ベーシスト山田りょうの、過去の傷を歌った一曲。結束バンドの中ではある意味で、後藤ひとりに匹敵する能力があるのは、山田リョウだけでしょう。ただそれはプレイヤーという表現者としてではなく作曲、クリエイターの方ですが。コミュ障の後藤ひとりとは違って、孤独が好きなタイプで、ある意味で本当の天才タイプでしょう。後藤ひとりは努力の量も半端ではないですから。それゆえ、山田は孤立しがち。漫画家も、コミュニケーション能力の高さと偏屈さが同居しているタイプは、けっこう多いです。

バンドを抜け、一度は音楽が嫌いになりかけたがゆえに、結束バンドでの活動が充実しているからこそできた曲なのかもしれません。本当に過去を引きずっていたら、嫌いということを口にすることさえ嫌になってしまいますからね。今があって、過去を克服できたからこそ、歌える曲はあるわけで。作中では、台風の中でのライブで、後藤ひとりが一歩踏み出す、ターニングポイント的な曲でもあり、印象深いです。

08.カラカラ

ベーシスト山田リョウの、ヴォーカル曲。作中の声よりクリアで甘く、名曲です。これもどちらかといえば、ぼっちこと後藤ひとりの心情を歌った作品に思えます。メロディ自体は明るくポップなのですが、歌詞はかなりハードと言うか。このアルバムは、そういうギャップ曲が多いですね。歌詞の〝キミ〟が結束バンドのメンバーのことなのか、それともラブソングとしてとらえるかで、意味合いがだいぶ違ってきますけれどね。創作者・表現者としての焦りと、平凡な日常への愛おしさと。本作のテーマを表している気がします。

もっとも、『江の島エスカー』の回のせいで、山田リョウの脳ミソの音というイメージが、付いちゃいましたが……。そういうギャグシーンも含めて、本当に楽しいアニメでした。エンディングのアニメーションとの相性もいいですね。楽曲のクオリティと音楽のクオリティが、ここまで高かったのは、2019年からプロジェクトが動いて、曲作りをしていたからのようで。そのじっくり作ろうというスタッフの姿勢にも、頭が下がります。

09.小さな海

アルバムのオリジナル曲で、作中で発表されなかった曲です。歌詞的には〝僕〟と男性人称を使っているのですが。どちらかといえば去っていった彼女を想う心情にも思えるし。後藤ひとりが伊地知虹歌や喜多ちゃんといった、自分を引っ張ってくれるタイプの友達の背中に向けて語っているような内容で。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『転がる岩、君に朝が降る』への、アンサーソングというか、前日譚のような内容になっていますね。

個人の悩みは、しょせん小さなもので、いくら泣いてもその涙は小さなものでしかないですが。本人にとっては、それは海のようなものなんですよね。当事者でなければ、それはチッポケに見えても。でもこれ、井上陽水さんが、都会で自殺する若者が増えているけれど、自分にとっては今日の雨にさしていく傘がないと嘆く部分とも、つながっています。実感もないのに社会正義を語る歌は上滑りしますが、自分の心の底から出た言葉は誰かに刺さりますから。

10.なにが悪い

エンディングの名曲。ボーカルは伊地知虹夏。これも、後藤ひとりの心情を歌っているようですが、過ぎ去った青春を歌っていて。そもそも、青春コンプレックスを感じさせる明るい楽曲が苦手だった彼女が、青春で何が悪いと歌えるのは、そう思える人生を結束バンドの仲間たちがくれたから。江ノ島エスカーはギャグ回ですが、でも友達とのそんな平凡な日々がずっとなかった後藤ひとりにとって、かけがえのない瞬間であり。『青春コンプレックス』を克服し、肯定できるようになった歌の訳で。

それを、後藤ひとり役の青山吉能さんが歌うのではなく、伊地知虹夏が歌うのに意味がありますね。彼女は、孤独な天才を日の当たる場所に連れて行ってくれた恩人。プレイヤーとしてはけして上手くなくても、彼女こそが結束バンドの中心であり、ハブであり、要。虹夏の夢があってこそ、結束バンドは動きだしたんですから。虹夏役の鈴代紗弓さんの声質にも、合っていますしね。こちらも、アニメーションで喜多ちゃんが人差し指や親指を立てるシーンが、中指を立てているとネタになり、そうやって見るとそうとしか見えないという。某クソアニメの楽曲ともシンクロして、奇跡の作品に。

11.忘れてやらない

『青春コンプレックス』は別格にしても、本アルバムで自分がかなり好きな曲ですね。歌詞の内容が、とても前向きというか。曲調もアップテンポでポップ、ライブのセットリストだったら絶対にオープニングに持って行きたくなるような、ノリのいい曲ですね。文化祭もう終わって、自己肯定感を少しだけ獲得して前向きになった後藤ひとりの、そんな気持ちが反映されている曲に思えます。

作中で言えば、ギターヒーローとしての思わぬ広告収入があって、アルバイトを辞めていいと考えてウキウキしている状態に、近いのかもしれませんが。こちらも、青春の肯定ソングで、後藤ひとりの心情の変化を歌うわけで。『ギターと孤独と蒼い惑星』の歌詞の「聞いて→聞けよ」と同じで、忘れたくないではなく、忘れてやらないという、猫背のまま虎になってる歌ですが。獰猛ではなく、雄々しいですね。ほんと、好きな一曲です。

12.星座になれたら

文化祭で歌われた曲。ポップス寄りですが、リードヴォーカルの喜多ちゃんらしい、名曲ですね。歌詞としてはラブソングにも思えるし、結束バンドがひとつになって、星座=スターになれたら、という意味合いも読み取れる内容です。実力的には、後藤ひとりの技術はメンバーの中で突出しており、結束バンド自体は将来的に解散する可能性も十分にあります。平凡な喜多ちゃんと虹歌は特に、脱落の可能性が。

なので、この歌も一人称が〝僕〟なので後藤ひとりの歌に思えるのですが、やがて自分たちを追い抜いてプロのミュージシャンになり、先に行く可能性が高い後藤ひとりに、結束バンドが遅れずについていこうという、決意の曲にも思えますね。喜多ちゃんの作詞にも思える名曲。爽やかな青春ソングに思えるけれど、内容は割と重いというか。たぶん、次曲の『フラッシュバッカー』とセットになる歌なんでしょうね。個人的な推測ですが。

13.フラッシュバッカー

本アルバム唯一の、バラード曲です。リンクしたこの本PVがもう、最高です。小池一夫先生が言う、作品の余韻というか。本編は、日常を手に入れた後藤ひとりの、平凡だけどほんわかした、清涼感のある終わり方でしたが。この切なさは、またいいですね。作中では、フラッシュバックは後藤ひとりの黒歴史の記憶のコメディシーンとして登場するのに、本作では青春の思い出を反芻する曲になっていて。吉田聡先生の傑作『湘南爆走族』の、最終回を思い出しました。

この曲も、『転がる岩、君に朝が降る』を意識した曲で、朝がテーマに。でも、この中の〝僕〟は、プロのミュージシャンになった後の、後藤ひとりに思えます。ひょっとしたら結束バンドは解散して、山田リョウは作曲家に、伊地知虹歌はライブハウスのマネージャーに、喜多郁代は結婚して家庭を持っていて、それぞれの状況を思い出しながら歌ったような、そんな歌にも思えてしまいますが。邪推はともかく、ホント名曲ですね。

14.転がる岩、君に朝が降る

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの名曲。そして、本作のテーマでもあります。リンクは本家本元の動画を。というか、アニプレックスの公式には、ないんですよね。これを、青山吉能さんが歌ってるんですが。本来は、声優として歌も上手いのに、あえてギターは天才的でも歌は普通の女子高生の感じの、たどたどしい下手さが漂う表現力が、素晴らしいですね。それでも一生懸命歌ってる感じが、たまらないですね。最終回の、たった1回のエンディングってのがまた、スペシャルな感じで。歌の持つ力の強さですね。

『ギターと孤独と蒼い惑星』でも、ライブで喜多郁代が緊張からテンポが早くなってオドオドした感じの歌い方を、あえて別テイクで録ってるんですが。そういう妥協なき姿勢が、本作を傑作に引き上げましたし。本当に、各話のタイトルからこの曲につなげる、壮大な構成力。物書きの端くれとして、この完成度には驚愕でした。エンターテイメントと成長譚をここまで高いレベルで描いたのは、個人的には『けものフレンズ』と『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』以来ですね。

ということで、本アルバム『結束バンド』は超オススメですm(_ _)m 興味が湧いた方は、こちらの雑感もどうぞ。

作品的には、漫画の方を読んでると喜多ちゃんが脱落しそうな雰囲気がありますが。でも喜多郁代役の長谷川育美さんの歌唱力が半端でなきので、アナ雪の『レット・イット・ゴー』が脚本を変えてしまったように、喜多ちゃんの役割も変わるかもです。この人気で、第2期の期待は高まっていますが、慌てて作るよりは、楽曲もまた3年かけて傑作を作るつもりで、取り組んでほしいですね。まぁ、来年には第2期が来そうな気がしますが。

自分のハートを撃ち抜いた『けものフレンズ』も『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も、その後に悲しい事件が起きましたが……。本作は、じっくり育って2期3期と、楽しませていただきたいです。それこそ、きくり姐さんのスピンオフとか、伊地知星歌の人気バンドのスピンオフとか、、ジミヘンのスピンオフとか。イロイロと作れそうですし。期待したいですね。結束バンドのライブ配信にも。

気がついたら7000文字オーバーの大作に。これは好きで書いたnoteですので、有料化とかしませんし、投げ銭も不要です。いちファンとして『ぼっち・ざ・ろっく!』という作品を愛した方と、共有できれば満足です。どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

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喜多野土竜
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