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切り裂きジャックの捜査資料が競売に

◉イギリス史上、最も犯人の正体に対する興味が強い 連続殺人事件──切り裂きジャック事件の捜査資料が、オークションにかけられるようで。捜査に関わったジョセフ・ヘンリー・ヘルソン警部の子孫が、保管してきたもので、被害女性の写真なども含まれるようですが。何しろ100年以上前の事件ですから、肖像権であったりプライバシー的な問題は、問えないでしょうね。

【「切り裂きジャック」捜査資料明るみに 警部の子孫が所蔵、競売に】朝日新聞

 19世紀に英国を揺るがした「切り裂きジャック」事件の当時の捜査資料が、約136年ぶりに明るみに出た。英スカイニュースなどが15日に報じた。捜査に関わった刑事の子孫が保管してきたもので、犯人が警察に宛てて送ったはがきのコピーなどが含まれており、近く英国内でオークションにかけられる予定だ。

 これらの資料は、1888年にロンドン東部で、売春をしていた5人の女性の他殺体が連続して見つかる猟奇殺人事件が起きた際、捜査に携わったロンドン警視庁のジョセフ・ヘンリー・ヘルソン警部が保管していたもの。ヘルソン警部は95年に退職し、1920年に亡くなったが、彼の子孫がこの未解決事件の資料を代々受け継いできた。

https://www.asahi.com/articles/ASS3J43ZTS3JUHBI00L.html?ref=tw_asahi

ヘッダーはWikipediaのフォトギャラリーより、切り裂きジャックの当時のイメージイラストです。

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■元祖劇場型犯罪■

詳しくは、上記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。切り裂きジャック───Jack the Ripperは、1888年の9月から10月にかけて出現し、消えた謎の連続猟奇殺人犯。女性だけを殺し、その死体を解体するという、当時としては インパクトの大きな事件で。しかも、犯人からの手紙が警察に届くなど、劇場型犯罪の先駆者でもありました。その猟奇殺人の残酷さと、短期間で消えた不気味さ、犯人ついに捕まらなかった神秘性ゆえ、犯人の推理が未だに、一大ジャンルになっている存在です。

犯人の正体には諸説あり、イギリス王室関係者とする奇想天外なものから、その解体の手法から外科医ではないかとか、まさに百花繚乱です。この手の猟奇殺人犯は、潜伏期間と活動期間が繰り返されるのが常なのですが。切り裂きジャックの場合は、短期間で活動してあっさり姿を消してしまったので、何らかの理由で死んだのではないか……という推測もあります。警察に送ってきた手紙も、いろんな推理の材料になっていますし、後世への影響も大きいです。

 今回公開された資料には、「切り裂きジャック」という自称が初めて登場した、犯行を誇示する警察宛ての手紙のコピーなどが含まれる。遺体安置所で撮影された被害者のひとりの写真や、初期捜査で捜査線上に浮上したものの、アリバイが判明して捜査対象から除外された移民の男の顔写真などもあるという。

切り裂きジャックの事件は、1888年ですが。実は1886年に執筆され、翌1887年に発表された、歴史的な名作があります。アーサー・コナン・ドイル著『緋色の研究(A Study in Scarlet)』。そう、名探偵シャーロック・ホームズが登場する、推理小説のベストセラー。産業革命によって 都市が発展した、ヴィクトリア朝の、時代的な雰囲気を反映しているのが、切り裂きジャック事件と、ホームズの作品世界でもあるのですが。

■ホームズの時代■

ドイル卿はホームズ・シリーズの、ワトソン医師のモデルでもあるように、エジンバラ大学を卒業した開業医でもありました。このため切り裂きジャックの正体は、ドイル卿という珍説もあります。1890年に発表されたホームズ・シリーズ第2作『四つの署名』で、人気に火がつき、1891年からは専業作家になっていますから。自分の小説の人気を高めるために、猟奇殺人事件を起こしたという理路。

都市に人が流れ込み、隣の人が誰かも、わからないような、人間関係が希薄になった時代ゆえ、謎の犯人による殺人事件が成立するようになったという、時代背景がシャーロック・ホームズ作品のリアリティと、人気を生み出した面はあるでしょう。エドガー・アラン・ポーが、近代推理小説の元祖とも言える傑作『モルグ街の殺人』を発表したのが1841年。ホームズの46年前。もともと推理小説は、怪奇小説のジャンルのひとつでした。

切り裂きジャック事件から100年後の1988年から1989年にかけて、宮崎努の事件が起きた時。アホな文化人が、ホラービデオが猟奇殺人を助長するなんて、寝言を言っていましたが。むしろホラー作品というのは、平和な時代じゃないと受容しづらいんですね。身近に戦争というテラーがある地域では、ホラーを楽しむことなどできませんから。ホラー作品や推理小説というのは、知的な娯楽ですからね。

■小説は世に連れ■

日本では推理小説の元祖である、岡本綺堂の『半七捕物帳』のシリーズが、発表されたのが1917年。明治維新から49年、大正六年のことでした。何やら『モルグ街の殺人』と『緋色の研究』の、タイムラグに近いですが。第1次産業革命が終わったのが1840年代、『モルグ街の殺人』の発表時期です。そこからほぼ半世紀で、近代都市の文明の成熟が起きたと考えれば。シャーロック・ホームズの登場は、時代の必然だったと言えるでしょう。

明治維新からほぼ半世紀で、近代化が進む日本で推理小説を楽しむ文化が成熟したということでしょう。もちろんそのためには、従来の勧善懲悪の物語から、夏目漱石や森鷗外による近代文学の確立があって、東大在学中の芥川龍之介・菊池寛・久米正雄らが同人誌『新思潮』を出したのが1914年。小説が一般化して、学生が同人誌を出し、娯楽としての大衆小説が普及した時代背景と一致します。文化の成熟には、それぐらいかかるということなのでしょうね。

切り裂きジャック事件が、136年の時代を経てもなお、人々の関心を引き付けるのは。ヴィクトリア女王がイギリスを統治していた1837年から1901年の、大英帝国の絶頂期に起きた事件だから、という面もあるでしょうね。ヨーロッパ史では、1918年の第一次世界大戦終結を境に、近代と現代を分けるのですが。ホームズ作品は1887年から1927年にかけて、長編4本短編56本の60編が発表されたのですが。イギリスが幸せだった時代の記憶と、血生臭い現代史の前の、間の時代と一致するのでしょうか。


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