光バイオ触媒で常温常圧アンモニア合成
◉少し前の情報ですが、見過ごしていました。九州大学が、興味深い研究を発表しています。微生物が持つ大気中の窒素からアンモニアを合成する能力を、光触媒のエネルギーを利用して代行させ、常温・常圧下で窒素と水からアンモニアと水素を合成することを可能にした、とのこと。なんだか情報量が多いですね。アンモニアは農業の肥料として重要な存在ですが、分子式がNH3で、1個の窒素原子(N)と3個の水素原子(H)からなるので、コレ自体が燃えるのですが。水素を安全な形で運搬したりする水素キャリアーとしても、期待されているんですよね。
ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、大豆畑の写真です。
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■根粒菌とアンモニア■
マメ科の植物──ダイスやレンゲソウなど──の根に共生する根粒菌の中の、リゾビウム属などの一部の細菌は、ニトロゲナーゼという酵素を触媒に用いて、大気中に豊富にある窒素をアンモニアに変換することができます。おかげで、日本の火山が多く痩せた土地でも、マメ科の植物はよく育ちます。鹿児島では、落花生の栽培が盛んで、ウチの実家の畑や従兄弟も育てていて。根粒菌のツブツブは、子供の頃よく見かけました。これを工業的に生産できれば、かなりの効率化が期待できます。
根粒菌が窒素を固定する反応は、高校の生物でおなじみのアデノシン三リン酸(ATP)をエネルギー源に用いて起こるのですが。これを植物側から供給され、根粒菌はアンモニアを生成します。植物はアンモニアのお陰ですくすく成長できるという、共生関係にあります。このエネルギー源を、光触媒に代わってもらうというのが、今回の研究のキモ。光触媒なら、農作物と違って手入れの手間とか管理が、ぐっと減りますし。それこそ、耕作地以外でもエネルギーが作れますからね。
■今後の課題は量と質?■
興味深いのは、アンモニアだけではなく、アンモニアと水素を合成することを可能にしたという点でしょうか。これなら、水素生成の手法としても、興味深いです。しかも、常温・常圧下でってのは大きいです。まぁ、元が根粒菌の仲間ですから、深海とか特殊な条件下でないと生きられない生物ではないので、当然ですが。でも、記事にあるように、化学肥料革命を起こしたハーバー・ボッシュ法は、400度ほどの高温と200気圧以上の高圧が必要という、割と特殊な生成条件が必要ですから。この面でも、効率はいいでしょう。
問題は、生産量と費用対効果ですが。まぁ、現在はまだ研究室レベルの研究ですからね。今後の課題は多いのでしょうけれども。でも、九州は多くが農業県です。あの面積に、東京都ぐらいの人口しかいませんから、今後は農業の後継者も減るでしょう。でも、休耕田でレンゲを野放図に生やすよりも、光触媒のエネルギー生成に使えたら、面白いですし。個人的には、光触媒で場所を選ばないなら、洋上プラントのほうが、効率は良いかも知れませんね。そういう研究も、養殖が盛んな土地柄で、応用が効きやすいかもです。
■海上アンモニア生成■
個人的には、太陽光発電には否定的です。夜間に発電できず、そもそも日本は世界的な平均からすれば日照量が低い、八雲立つ国です。雨が多くて北部は豪雪地帯で、温帯域では台風銀座、太陽光発電にそもそも向かないんですよね。これは風力発電にしてもそうで、日本に向かない発電です。でも、こういう形ならば、太陽エネルギーを水素とアンモニアという形で、貯蔵できるので。電気を貯める技術が、まだ画期的な技術も物質もない現状、ここには大きく期待です。
そもそも、日本は伝統的に化学とかの素材研究と、品種改良のバイオテクノロジー系が、強いんですよね。ロボット工学とか、医学もそうですが、日本心の粘り強い気質が、配合を何千種類も試してみたりとか、そういう部分に生きるので。光触媒という化学系素材研究と根粒菌利用というバイオ系研究が、こうやって融合する。個人的には、ワクワクします。これをAIで動く自動ロボットで管理とか、そういう学際的な研究がもっと広がると、夢が広がるんですよね。TOYOTAの子会社の人工光合成の研究とかと併せて、続報に期待です。
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