ゴマを食べて死にかけた話
1. 人生で唯一、救急車で搬送された話
高校生の時に一度だけ、救急車で運ばれたことがある。
ことの始まりは、夕食の冷やしゃぶを食べた後に発症した蕁麻疹だった。
うろ覚えではあるが、高校3年時の1学期終業日だった気がする。
期末テストに作品課題の提出、部活練習に追われ、それらが一段落した夜のことだった。妹と話していた時、腹部の痒みに気づいた。
最初は直径2センチほどの小さな蕁麻疹だった。しかし5分後には10センチ、30分後には腹部から足の付け根にまで。それに伴い、痒さもひどくなっていった。蕁麻疹が体の5割を覆いはじめた頃、疲れているからだろうと思い、早めに就寝した。しかし猛烈な痒みは増し、肌は熱を持ち始める。まともに呼吸ができず、息苦しさのせいで中々眠ることができなかった。身体的な疲れや眠気で朦朧とする意識の中、気を失うように眠りにつけたのは明け方だったと思う。
朝は肌の痒みと息苦しさで目覚めた。蕁麻疹は、ほぼ全身に広がり、意識が朦朧としていた。母同行の元、ネット評判の良い皮膚科に行った。問診で色々聞かれたが、きっかけになりそうな要因もなく、とりあえず血液検査をすることになった。
少し混濁した意識の中で、血を抜かれる自分の腕と、赤くなっていく注射器を冷静に見つめながら採血が終わるのを待った。思ったよりも長い、と感じ始めた頃、注射針の刺さった箇所がツーンとつるような感覚になり、そこから血の気が一気に引いていくのがわかった。「気分が悪いです」と伝えようとすることは出来ず、視線が天を仰いだ。
直後、母や医者の呼びかける声で、私は一瞬、気を失っていたのだと気づく。
ぼやける視界のまま起き上がると、今度は猛烈な腹痛に襲われた結果、担架で救急車に運び込まれた。サイレンの音を聞きながら、大学病院に搬送され、腹を押されたりしながら問診をされたが、あれだけ派手に広がっていた蕁麻疹も、腹痛も気づいた時には不思議なことになくなっていた。原因はわからないままだったが、肌に蕁麻疹の跡が残っていたことから、症状を抑える薬を処方してもらい、その日は帰宅した。
その後も繰り返し蕁麻疹が発症するため、一時期は薬を手放せない日々が続いたが、次第に症状が落ち着き、少しずつ平常の生活が戻ってきた。それからしばらくは疲れた日など、頻繁に蕁麻疹が出てしまうようになった。25歳をすぎた頃、全身に蕁麻疹が発症することは少なくなり、多少過ごしやすくなった。それでも食後に起きる腹痛や、胃痛で気分が悪く、家から出られないことが多い時期もあった。当時、付き合っていた彼氏(夫)にも体調不良で迷惑をかけたことも少なくなかった。
2.アレルギー疑惑の浮上、そして検査
話は変わるが、20代半ば頃から、花粉症なのではないかと思うことが増えた。花粉症の診断を受けていた元職場の先輩や夫からは、毎春「早く花粉症だと認めた方が楽になる」と言われていたが、中々検査を受ける機会もなく、2年ほどが経っていたと思う。
そんな中、平日仕事をしていたところ昼食後に謎の腹痛、吐き気で体調が悪かった私の様子を見て「その症状、食物アレルギーっぽいかも?」と、当時お世話になっていた上司が心配をしてくれた。というのも、上司自身、食物アレルギーで大変な思いをしていることを知っていた。花粉症のこともあるし、時々聞いていた食物アレルギーの怖さ、度々悩まされている不調の症状からから、自分にもアレルギーが潜んでいるかもしれないことを恐れ、ついにアレルギー検査を受けることにした。
決心をした何日か後に、日々お世話になっているクリニックで、アレルギー検査を受けたいと申し出た。アレルギー検査の種類について説明があった。基本的には保険適用にならないが、そこのクリニックで受けられるアレルギー検査の種類は、当時3種。高いものでも5,000円程度と費用を聞いて安心した記憶がある。
①基本的なアレルギーがわかる基本コース(3,000円程度)
②一般的なアレルギーが全般わかるコース(5,000円程度)
③基本を抑えつつ(2)よりも数点検査項目が少ないが、
犬猫など動物アレルギーがわかるコース(5,000円程度)
私は動物好き、実家で犬を飼っていることもあり、③の検査を受けることにした。検査に必要な採血を行い、診療費&検査費用を支払い、その日はクリニックを後にした。
3.診断結果と食物アレルギーの恐怖
結果を聞きに再びクリニックに足を運んだ2020年5月3日、
私は「ゴマアレルギー」と診断された。
(スギ花粉症のおまけ付き、辛い。)
「死ぬ可能性があるから…これからの人生、可能な限り『ゴマ』は食べない方がいいよ〜」といつもは愉快なクリニックの先生が真剣な顔で、念を押してきたのが何よりも印象的だった。
これまで普通にゴマを食べていたのに、アレルギーだなんて、ましてや死ぬなんて大袈裟だと思った。しかし思い返してみると先日、会社で起きた腹痛の他、スリゴマやゴマドレッシングの香りを嗅ぐだけで、くしゃみが止まらなくなったり、小さな頃から食事の後、原因不明の腹痛や胃の気持ち悪さで辛い思いをすることが多々あった。「あんたはよく、体調悪くなるねえ」と母親から言われていたのだが、そういう体質で、単なる寝不足とか、ちょっとした胃もたれとか、食べ過ぎぐらいにしか思っていなかったが、全てアレルギーだったと思えば納得がいく。
そんなこんなで多少の不便はあるものの、私はこの出来事をきっかけに「ゴマ」を避けるようになり、約2年が経った。20年以上、悩まされ続けていた突然の体調不良が極端に減少したことから、これらの症状は大半が食物アレルギーだったのだと実感している。
…と思っていた矢先、久々に間違えてゴマを口にしてしまった。
つい先日、自宅近くのインドカレー屋で、よく食べていたセットのサラダにゴマドレッシングがかかっていたのだ。それまでは違うドレッシングだったので、なんの疑いもせずに食べてしまったが、ゴマの味がすることに気づき、速攻で食べるのをやめた。帰宅後、目の下に違和感を感じ鏡を見てみると大きな蕁麻疹ができていた。なんだかお腹も痛いし、皮膚も少しだけ熱を持っていて痒くて、少し息苦しい。かかりつけ医から処方されていたアレルギーを抑える薬を飲んで安静にしていたのもあってか、翌日には症状は落ち着き、ありがたいことに大事には至らなかった。
その時、体感した症状と感覚をきっかけに、とある昔の出来事を思い出した。
過去に一度だけ救急車で搬送された原因が、ゴマによる食物アレルギーだったのではないかと。腹痛、猛烈な肌の痒みと熱、呼吸困難の症状、蕁麻疹。そして夕食で食べた冷やしゃぶの日には必ず、母の好みだったゴマドレッシングが添えられていた食卓の光景が蘇る。
今回、症状は軽かったものの全てが一致する。
血の気が引いた。アナフィラキシーショックだった。
私は既に一度、ゴマアレルギーで死にかけていたのだ。
4.最後に
私は医療従事者ではなく、専門的なことはわからない。
ただ一つ言えることは、アレルギー検査を受けたことで、食事に制限はあるものの、アナフィラキシーショックで死ぬ可能性や、日々悩んでいた体調不良から解放され、以前よりも快適に過ごすことができているということだ。
是非、アレルギー検査を受けたことがない人にもオススメしたいと思う。そして1人でも多くの人に食物アレルギーについての認知が広がることを祈っている。