雪のない街へ

はじめに

この作品は、Twitter企画「コランダ地方で輝く君へ」の交流作品です。
不都合な部分は、パラレル扱いとしてください。

お借りした方
ミユキくん
アニーニケさん
ゴーシェさん

拙宅
シュクルリ


キラキラな旅になりますように

ふわふわの白い雪で覆われた街。
もうすぐ、あたしはここからいなくなる。
ポケモンセンターは色々な街にあるから、異動は珍しいことじゃない。
でも、あたしは今回が初めての異動だからとてもドキドキしている。

「シュクルリさん」
「まあ、ミユキくん。ポケモンを連れているなんて、珍しいですね?」

雪だるまみたいに、白くてころころして愛らしいミユキくん。ポケモンは所持していないから、ポケモンセンターを利用しない彼。
でも、あたしが雪かきをしてたら挨拶をしてくれて、それから少しずつ仲良くなったんだ。
今日は、どうしてだかパウワウと一緒にいる。ゲットしたのかな。

「おら、タマちゃんと旅に出ることになったんだべ」
「そうですか…!良い旅になることを祈ってますね!行ってらっしゃい!」

そっか、ポケモントレーナーになったんだ。旅人を見送るなんて、もう何回もやってきた事だけど、まさかミユキくんを見送ることになるなんて思ってなかったな。

「それじゃあ、行ってきます」
「あっ、ミユキくん。良ければこれを持って行ってください」
彼のふくふくとした手に、とけないこおりを握らせた。

「あたしからのお餞別です。きっとミユキくんを助けてくれます」
「あんがとなぁ、シュクルリさん。キラキラして綺麗だぁ」
ミユキくんは、とけないこおりを日の光に透かして見ていた。

光に当たったとけないこおりは、キラキラと煌めいて、とても綺麗なんだよね。あたしはミユキくんの旅が、それと同じくらいキラキラ輝くものになれば良いと思った。


あったかグラタン

お仕事終わりに、フィンブルジムのジムトレーナーのアニさんからメッセージが届いた。
あたしがフィンブルにいる間に、少し話をしようと言ってくれた。
アニさんとは、ポケモンの健康診断の時に知り合って、それからずっとお世話になっている。

「シュー、ダグシティに行っても元気でな」
「はい。アニさんもお元気で」
「グラタン出来たよ、食べな」

アニさんと同じ、フィンブルジムのジムトレーナーであるゴーシェさんが、グラタンを作ってくれた。
ここはゴーシェさんが営んでる店。ゴーシェさんはジムトレーナーであると同時に、料理人でもあり、作る料理はどれも美味しい。

「いただきます!ああ~、しばらくゴーシェさんの料理も食べられないのかぁ」
グラタンを口に運ぶと、思った以上に熱かった。
「フィンブルに帰ってきたら、いつでも食べに来な。待ってるからね」
「そうだぜ!休みになったら、また帰ってこいよ!」
フィンブルは、雪に覆われていて寒いけど、人の繋がりが強くて温かい街。
あたしは、そんなフィンブルが大好きだ。

「ありがとうございます!あたし、頑張って来ますね!」
「行ってらっしゃい、シュー!」
アニさんにそう言われた時、そういえばミユキくんに、あたしもフィンブルを出るのだと言い忘れたのを思い出した。

「あっ、あー……ミユキくんびっくりしちゃうかな?まぁ、良いよね?サプライズサプライズ」


ジョーイさんの決心

ジョーイになったばかりの頃、あたしは泣いてばかりだった。
小さな命の炎が消える度に「あの子は空の綺麗な星になったんだ」と夜空を見上げて泣いた。

フィンブルは涙が凍ってしまいそうなくらい寒かったけど、空気が澄んでいて星がよく見えた。
泣いて腫れぼったくなった目を、ビニール袋に入れた雪で冷やした。

ここ最近は少し心が強くなって、命の炎が消えても泣かなくなった。
悲しみが無くなったわけじゃない。
けれどあたしが泣いている間に、今燃えている別の命の炎まで消えてしまってはいけないから。

目を冷やしてくれる雪は、ダグシティにはないけれど、あたしはきっと大丈夫。
だから今回、ダグシティへの異動の話が来たんだ。

ダグシティは、太陽輝く 笑顔の街。
そんな街に行くんだもの、出来る限り笑顔で過ごしたい。


雪のない街へ

いよいよシュクルリが、ダグシティへ旅立つ日がやって来た。
私はシュクルリのパートナー、アローラキュウコンのグラス。
今はモンスターボールの中に入ってるけど、シュクルリに何かあったらすぐにボールから飛び出す準備は出来ているんだ。

『温泉に入れなくなるのは残念だけど、シューちゃんが異動するんじゃ仕方ないわよね』
隣のボールに入ってる、タブンネのフレジエの声が聞こえた。
彼女は温泉が好きだけど、それ以上にシュクルリが好きだから、着いて行かないという選択肢は無いみたい。

『ええやないか、ダグ。フィンブルよりはあったかいんやろ?うち、ダグ着いたらずっとボールから出たるねん。そんでお団子仰山作って、みんなにご馳走したるんや』
アブリボンのプディングが、ボールの中から高らかに宣言した。プディングは寒さに弱く、フィンブルでは暖房の効いた室内でしか活動が出来なかった。
ダグシティに着いたら、思い切り暴れるつもりらしい。

『お団子苦手な人には、無理に食べさせちゃ駄目よ?お団子ハラスメントになっちゃうんだから』
『アホな……お団子苦手なやつなんておるん?饅頭怖いみたいなもんやないの?』

プディングが愕然としていると、シュクルリの声がした。
「お土産のお饅頭は~、ダグのポケセンの人たち用と、シュピールさん用と…あと、ダグジムの人たちの!よし、バッチリだね」

軽い音を立てて、ボールが開く。目を開けると、見慣れたいつもの部屋。
この部屋とも、暫くお別れだと思うと少しだけ寂しいかも。
「みんな、これからダグに出発するよ!この部屋も、フィンブルの雪も暫く見られなくなるけど……準備は良い?」

私達三匹は、それぞれ鳴いて返事をした。
ねぇ、シュクルリ。もしダグシティで悲しいことがあって泣いちゃって、目が腫れてもさ。私が冷やしてあげるから。
フレジエも、プディングだってついてるよ。
一緒に行こうね、雪のない笑顔の街へ。

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