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まだ見ぬ恋に恐怖して

X(旧Twitter)企画「コランダ地方で輝く君へ」の拙宅キャラクターのみの作品です。よそのお子さんのお名前のみ、お借りしています。

お借りした流れ

お借りした方
ルドさん(お名前のみ)

自宅
ドラウズ

ルネスタ、所長さん



ここはヴァニルシティ、ねむりの研究所。今日も少し早めに、研究員たちが出勤してきた。

「何か、良いことでもあったのですか?」
職場の同僚であるルネスタに聞かれ、ドラウズは首を傾げる。
「そんなに顔に出ていたか」
「いつもより、ご機嫌だなぁと思って」
良いことなら、確かにあった。かつての知り合いに、再び会えたのだ。

まだ見ぬ恋に恐怖して


 
「先日、ルドベックと再会してな。一緒に食事に行った」
「ルドベック……ああ、ルドさんですか?いつも顔色があまりよろしくなかった方と記憶しています」
「そうだ」
パソコンを立ち上げつつ、ドラウズはルネスタの言葉に頷いた。
「ドラウズさんが怒ってない、ということは、少しは睡眠の質が改善されていたのでしょうか?」
「それはもう、大改善されていた」
ルネスタは「良かったですねぇ」と、ふんわりした笑顔を浮かべた。

眠れ、カフェインの過剰摂取はやめろ。そんなことでは体を壊し、最悪命を落としかねない。
……お前が死んだら、ポケモンが悲しむ。
 
かつてドラウズは、ルドベックにそう言った。
ろくに休まず寝不足で、薬で疲労を誤魔化すルドベックに。
「口うるさく言っていた言葉も、まあ、少しは届いていたようだ……」
ああ、本当に良かった。届かない言葉ほど、虚しいものは無いから。

パソコンの起動音が部屋に響く。起動音を聞いて、研究所のポケモンたちが目を開く。
「ルドさんの近況を、私にも教えてもらえませんか」
実はルドベックのことは、ルネスタも心配していた。
「ん……?ああ、現在はモデルのマネージャーをしているそうだ」
「えっ、全然職種が違うじゃないですか」
ルドベックは以前、ブラック企業の研究員として働いていたので、転職するならホワイト企業の研究員かなと、ルネスタは想像していた。
 
「研究員が何故、モデルのマネージャーに?マネージャーも結構お忙しいと思いますが、本当に眠れているのでしょうか」
頭の中をハテナマークでいっぱいにしながら、考えるルネスタ。
「奴も色々あったのだ……睡眠時間は、以前より確保出来ていると言っていたぞ」
「ふうん……芸能界ってストレスも多そうですし、私はちょっとまだ心配ですが」
棚から、資料がまとまっているファイルを取り出しながら、ルネスタが呟く。
 
「俺は、ルドベックはもう以前のようにはならんだろうと思っている」
「それは、何故です」
そう言える、根拠は何なのですか。
柔らかい髪を揺らしながら、ルネスタがドラウズの方へ顔を向けた。
「ルドベックには現在恋人がいて、一緒に暮らしているのだそうだ。……もしもまた、眠れない夜に奴が襲われても、ふたりなら……あっ」
ふたりなら、乗り越えられるのでは?と、言いかけたところで、ドラウズは自身が言葉選びを失敗したことに気付いた。
ルネスタに恋の話をすると、少々面倒なことになるのをすっかり失念していた。
口を押さえても、言ったことは取り消せない。しまった、という表情をしたドラウズとは対照的に、ルネスタは「恋人」というワードに目を輝かせた。

「ルドさんの恋人さんについて、詳しくお願いします」
「いや、俺もあんまり詳しくは聞いていないが……」
食事の時にドラウズが聞いたのは「ルドベックが恋人と同居している」ということくらいで、その恋人がどのような人物であるとか、そういったことはほぼ話していなかった。
「えー!?何故もっと聞いてこなかったのですか!?!?」
ルネスタは頬を軽く膨らませながら、ドラウズに抗議した。
「ほんの少し恋人の話題に触れただけで、とんでもなく照れていたんだぞ。あまり深く聞くのは、酷というものだろう」
酒に酔っていれば、そんな羞恥心も捨てられたのかもしれないが、生憎ルドベックはノンアルコールしか口にしていなかった。

「……でも!ルドさんのお相手がどんな方だとか、ドラウズさんは気にならないのですか?」
「ルドベックがどのような奴と恋人だろうと、全く気にならん。俺にとって重要なのは、奴が健康に過ごせているということだけだからな」
「うぅ……」
ルネスタは、恋バナが大好きなので、もうこれ以上恋バナが出来ないと知り、その場にうずくまった。

「そんな落ち込まんでも」
「馬鹿バカばーか、バカウズさん……ルドさんは、ドラウズさんに恋人さんの話を聞いてもらいたかったでしょうに……」
「そうは見えんかったが」
なぁ?と、ドラウズがラヴェンナに声をかけると、ラヴェンナは首をくるくる動かした。よくわからなかったらしい。
「目に見えるものだけが真実とは限らないんですよ」
ルネスタの目が少し怒りに揺れていたので、ドラウズは思わず息をのんだ。

***
 
「乙女というのは、恥ずかしく思いながらも、誰かに恋人の話を聞いてほしいものなのです」
ルネスタは両手を胸の前で組み、目を閉じる。こうなると、いよいよわけがわからなくなる。
「ルドベックは乙女ではないので、当てはまらないと思うぞ」
ドラウズは、渋い顔をしながらルネスタに伝えた。
しかし、暴走するルネスタには意味が無かった。
 
「いいですか、男性でも女性でも、恋のお相手に乙女にされることは誰だってあるのです。ルドさんが乙女にされた可能性は十分あります。というか、多分されてます。ルドさんは、乙女にされそうな雰囲気を持っていますので」
「あー……今のルネスタの言葉の意味がわかる者は?」
ドラウズがポケモン達に問うてみると、ラヴェンナは首を斜めに傾け、ユーカリはまくら木を抱きしめながら眠り、ナゾノクサは頭の草をしおれさせ「わからない」を表現した。
 
そうだな、わからないよな。俺もわからん。
ルドベックが乙女にされた可能性がある?朝からなんてパワーワードを……。

「ドラウズさんも、他人事ではありませんよ。いつか、恋をしたら乙女にされるかもしれません」
「何だそれ怖い……俺が乙女にされてしまうのか……」
頭が痛くなってきた。乙女にされた自分を想像して、ポッポ肌が止まらない。
これから仕事なのに、どうしてくれるんだ。

その時、ドラウズの腕の中にナゾノクサが飛び込んできた。
「ナゾノクサ……」
ドラウズと目が合うと、ナゾノクサはにっこりと可愛らしい笑顔を見せた。次の瞬間、ナゾノクサはルネスタに向かってねむりごなをぶっ放した。
「うっ!やってくれましたね……」
「ルネスタ!?」
ねむりごなを浴びたルネスタは、机に突っ伏して眠ってしまった。研究所に、静寂が訪れた瞬間であった。
 
こうしてドラウズは、まだ見ぬ恋に恐怖することとなり、ルネスタはナゾノクサのねむりごなで眠らされ、何も知らない所長はその様子を見て困惑したという。

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