未来はきっとキラキラ
「どうせ入れるんなら、入るか? 二日め」
薫の口から出た言葉に、小恋美は目を輝かせた。
「えっ本当?行きたい!」
―――未来はきっとキラキラ
恋文高校文化祭、一般開放当日。
小恋美は薫と正門の前で待ち合わせをした。
「薫君もう来てるかな~」
ぱたぱた走っていると、向こう側から薫がこちらに向かってくるのが見えた。
「ここ」
「薫君~、ちょうど良いタイミングだったね」
薫の顔を見て、小恋美は無意識にニコニコとした顔になってしまう。
好きな人の前だから、仕方がないことだ。
「じゃあ行こっ、文化祭に!」
***
様々な衣装の人、あちらこちらから聞こえる楽しそうな声。
非日常的な雰囲気に、小恋美はわくわくしていた。
入り口でもらったパンフレットのページを、ぱらぱらとめくる。
「んーと、講堂でライブとか演劇とかあって…わあ、メイド喫茶?すごいな~」
「ここ、科学部あるぞ」
「あっ、本当だ!後で行っても良い?」
初めて足を踏み入れた、恋文高校の中を地図を見ながら、進んでゆく。
学生バンドの演奏を聞いたり、演劇のレベルの高さに驚いたり。
クラスの出し物、部活の発表、どの団体も今日の為に、懸命に努力してきたことが伝わってくる。
準備の疲れが残っているはずなのに、楽しそうな生徒たちの様子を見て、小恋美は思う。
『この学校の人たちは、すごくキラキラしているな』
***
「薫君、次はどこに行く?」
薫の方へ顔を向けようとした瞬間、背後に気配を感じた。
「「へいへい、そこのアリス!お茶しな~い?」」
帽子屋の帽子をつけた男子生徒と、チェシャ猫がモチーフと思われるカチューシャとしっぽをつけた男子生徒が立っていた。
二人は驚くほどそっくりな顔をしていた。
「アンタら、双子か?」
「ぴんぽーん」
「正解したアリスはお茶会にご招待しまーす」
「おい、勝手に決めんな」
話が勝手に進んで怒る薫を、小恋美が宥める。
「まあまあ、行ってみようよ。アリスのお茶会なんて、なんだか可愛いし」
小恋美が興味を持ってしまったのを見て、薫は抵抗するのを止めた。
「「ゆっくりしてってね~アリス」」
注文したアフタヌーンティーセットを運んだ後、帽子屋とチェシャ猫の双子は客引きに戻って行った。
「変な双子だったな」
「私は面白かったけど」
小恋美はくつくつと笑って、ティーカップに口付けた。
***
「この学校は、すごく良い学校だね。志望校の一つに考えておこうかな」
「やっぱり、高校行くんだな」
薫の呟きに「うん」と答えて、小恋美は薫の瞳を見つめた。
「将来、科学に関係のある仕事に就きたいんだけど、それには沢山勉強する必要があるんだよね」
だから、高校に行くことは決めている。
しかし、志望校はまだ確定していない。
正直な話、どの高校に入っても勉強は出来るから。
それならば、どうやって志望校を決める?
答えは単純、より楽しそうな高校を選べば良い。
「ここの学校の人はみんなキラキラしてて、私憧れちゃった」
勉強も、それ以外のことも、全部楽しんで、その経験を力にして進む。
そんな未来を、頭に思い浮かべた。
「高校で沢山楽しいことして、勉強もして…夢が叶うかわからないけど頑張ってみる」
未来の貴方は、きっと素敵な花屋になっているのだろうから。
私も隣に立つのに相応しいくらい、キラキラ輝く人になりたいんだ。