思い出フォトグラフ
「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃい」
元気よく我が家にやって来たはる香ちゃんを出迎える。
―――思い出フォトグラフ
お客さんの彼女を、客間ではなく自分の部屋に通した。
「友達が泊まりに来た時はいつも、私の部屋で寝てもらってるんだ」
「そうなんだ!小恋美ちゃんのお部屋可愛いね!」
持っていた鞄を置いて、はる香ちゃんはにこりと笑った。
***
冷たいレモンティーを飲みながら、二人でアルバムを捲る。
「小恋美ちゃん、白衣着てる」
「科学部だからね」
部活中の写真、クラスのみんなで撮った写真、遊びに行った時の写真。
沢山の思い出の写真が、そこに収まっている。
ぱらり、ぱらりとページを捲る度に、その時の記憶がよみがえって。
「あっ、このお手紙持ってる写真、小恋美ちゃんすごく楽しそうだねっ」
「それは…」
薫君と私に、お互いの手紙が届いた日に撮った「記録」だ。
「隣にいる男の子は友達かな?」
この写真を撮った時、私は運命というものを信じておらず、彼もよくわかっていなかった。
『でも今は、違うよね』
「…いつか、はる香ちゃんにも会ってほしいな」
私の大切な人なんだよ。
***
「ところでこのアルバムに、はる香ちゃんとの写真も入れたいんだ」
「わたしとの?」
デジタルカメラを取り出して、1枚写真を撮った。
はる香ちゃんとのツーショット。
「カメラ持ってるんだね!」
「記録に使えると思って買ったけど、最近は人とか風景撮ることが多いかな?」
ボタンを押して、過去に撮った写真を液晶に表示させる。
友達の顔や、風景の画像が沢山出てきた。
そろそろこれも現像しないと。
「夜に花火して、それも写真に撮りたいなぁって」
***
夕飯のカレーライスを食べ終えて、二人で庭に出る。
蝋燭と水の入ったバケツ、それから花火のセットを持ちながら。
手持ち花火に火をつける、はる香ちゃんの写真を撮った。
派手な手持ち花火は、短い時間で様々な色を見せてくれる。
花火に照らされる彼女の笑顔を見て、『今日は誘って良かった』と心から思った。
「残りは線香花火だけか」
火をつけると、控えめにぱちぱちと音を立てて燃えはじめる。
「…はる香ちゃん」
「なあに、小恋美ちゃん」
線香花火が大きく輝く。バチバチと音をさせて。
「今日は来てくれてありがとう」
思い出をあげるって張り切っていたけど、逆に思い出をもらってしまった。
この夏を、大人になっても私は忘れないと思う。
線香花火の火の玉が、地面にぽとりと落ちた。
***
お風呂を済ませて部屋に戻る。
本当は規則正しく眠るべきだけど、何だか勿体なくて、二人でおしゃべりをした。
「はる香ちゃん帰っても、メッセージ送るし、手紙も書くね」
「わたしも、お手紙書くから!」
『もし同じ学校だったら、ずっと一緒にいられるのに』
一瞬そう思ったけれど、はる香ちゃんにははる香ちゃんの生活があるんだから、と自分を納得させた。
「はる香ちゃんの住む町に、今度は私が遊びに行くよ」
素敵なあなたが住む町は、きっと素敵な町だろう。
夏が終われば、私たちはお別れ。
「さようなら」を言わなきゃいけない。
だけど、私たちのさようならは、きっとまた会えるさようならだから、寂しがらずに笑っていようと決めた。