たまごを探して
はじめに
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たまごを探して
「みんなで一緒にたまごを探そ!」
アルヴァの提案を聞いて、ザクロが口を開く。
「たまごかぁ…パパラチア博士が、お祭りの参加者に回収や保護をしてほしいって呼び掛けてるんだっけ」
たまご探しの提案に、セラヴィーは目を輝かせた。
「ポケモンのたまご育てたことない!みんなで育てよう!」
一人では不安もあるけど、アルとザックも一緒なら大丈夫な気がする。
「なら、決まりね!たまごを探しながら、お祭りも楽しみましょ!」
アルヴァの言葉に、ザクロとセラヴィーは「「おー!」」と叫んで拳を空に向かって突き上げた。
「ところで、リリー?お前のパートナーはオレだろ。何でアルにばっかりなつくんだよ」
セラヴィーのパートナーである、色違いのアシマリ、リリー。
今は何故かアルヴァの腕の中である。
セラヴィーは面白くないという表情で、リリーに問いかけた。
「もしかして」
前を歩いていたアルヴァが、セラヴィーの方を向いた。
「研究所で“ゴエモン”ってニックネームにしようとしたこと、まだ許してないんじゃない?」
「えっ、マジ?」
初めて研究所でリリーと出会った時、セラヴィーは彼女のことをオスと勘違いしていた。
「それは悪かったけどさ!だってオスだと思って……メスは珍しいってアリア先生が……ザックゥ……」
セラヴィーは少し潤んだ瞳で、ザクロにすがりついた。
「はいはい、よしよし。男の子だと思ってたんだもんね」
「ぅー……」
その様子を見たアシマリのリリーは、心底愉快そうに笑った。
***
大人になっても
「あっ、見て!つけ耳だって。これみんなでつけて写真撮らない?」
ザクロが指差す先には、ポケモンの耳をモチーフにしたカチューシャや帽子等を売っている屋台があった。
「面白そう!ザック、アル、はやく行こうぜ!」
「あっ、ちょっとセラ!」
面白そうなものを見つけたセラヴィーの移動速度はやたら速い。
走ってはいない、人にぶつからないようにすごく早歩きをしている。
おかげで、ザクロもアルヴァも置いてきぼりだ。
幼馴染の二人が自分について来れていないことに気付いたセラヴィーは、振り向いて「はやく~」と両手を振った。
「ミミロル、ミミロップ、プラスル、マイナン、マリルリ、ホルビー……すごい!色々あるね!」
二人にはどのポケモンの耳が似合うかな?と、ザクロは楽しそうだ。
「見て、ピロピロ笛!」
「つけ耳は?」
セラヴィーは、つけ耳とは全く関係ないものを見ていた。
そんなセラヴィーに呆れて、リリーはため息をついた。
ふと、リリーが顔を上げると、三人の大人たちが、カチューシャタイプのつけ耳を試着しているのが目に入った。
「あしゃま?」
「ん、何だよ……ああ。大人だって、祭りの時ははしゃぐもんだよ。つけ耳だってするって」
不思議そうな顔をするリリーに、セラヴィーは笑って答えた。
「普通なやつが可愛かったりするよなー」
「耳から下がってるの、イヤリングみたいやな」
仲良さげに、色々なカチューシャを試す三人は、多分友達なんだろうなぁとセラヴィーは思った。
黒髪で褐色の肌をした人と、チェーンのネックレスをつけた人の会話が聞こえてくる。
変わった色のゾロアを抱えている人はほとんど喋らない。きっと静かな人なんだ。
セラヴィーは、大人達を見るのを止めて二人の幼馴染達を見た。
大人になっても、またみんなで祭りに来たい。あの人たちみたいに。
「アル、ザック!大人になっても、一緒に祭りに行こうな!」
「急にどうしたの?」
「うん、もちろん!」
首を傾げるアルヴァと、当然という顔をして返事をするザクロ。
大人になって、体が大きくなっても、今と同じように話せるよな。オレたちなら。
***
お月様のオムライス
「そろそろお昼だね」
「どうりで、腹減るわけだ」
「あっ、オムライスなんて良いんじゃない?」
露店に近付くと、バターと卵の良い香り。
「絶対オムライスにする!くださーい」
「いらっしゃい」
黒いエプロンをつけた男性が、ひょいと顔を出す。
「オムライス、三種類あるよ。どれにする?」
メニューを見ると、確かに【満月のトマトオムライス】【半月のクリームオムライス】【三日月のデミグラスオムライス】の三種類がある。
「いつもみたいに、一種類ずつ買って、みんなで分けて食べるか」
「そうだね!アルもそれで良い?」
「しょうがないわね。二人がそうしたいなら、それで良いわ」
「とか言って、アルも絶対全種類のオムライスの味知りたいと思ってたよな」
いたずらっぽく笑いながら、セラヴィーはオムライスを一つずつ注文した、
アルヴァは少し怒っていたが、オムライスが出来上がると、彼女の意識はオムライスに向いた。
ありがとう、オムライス。
「お花見エリアでオムライス食べよう。ポケモンの人形がいっぱい吊るしてあって可愛いね」
テーブルにオムライスを置いて、空を見上げると、満開の桜と可愛い人形が空を彩っている。
「こんな場所でお昼を食べられるの、素敵ね。リルケとフィーラも、お昼にしましょ」
アルヴァが軽やかにボールを投げると、彼女の手持ちのイーブイとラグラージが姿を現した。
「エム、ピー、出ておいで」
ザクロもアルヴァと同じようにボールを投げ、メッソンとポリゴンを外に出す。
「あしゃ」
「…オレはお前しかポケモンいませんよ。ボール投げても空だから」
セラヴィーの手持ちは、まだアシマリのリリーだけ。
ボールを開いて、リリーに空っぽだよと教えてみる。
「でも、ごはん食べたら、絶対たまご見つけっから!そしたら二匹目ゲットってこと、リリーはお姉ちゃんだからな。頼むぜ」
お姉ちゃんという言葉を聞いて、リリーのテンションが上がった。
思わず、ケロマツのエムに抱きついて喜ぶ。
「エム!わたし、お姉ちゃんだって!きゃっ!実は可愛い妹がほしいの!」
「てことは、ボクもお兄ちゃん…?はわわ」
二匹が盛り上がる中、イーブイのリルケはマイペースにポケモンフーズを食べ、ラグラージのフィーラは静かに見守っていた。ポリゴンのピーは、ザクロのそばで花を見ていた。
***
どんなバトルをするの?
「「みんな、楽しんでる?」」
オムライスを堪能している三人に声をかけたのは、ヴァニルシティジムの双子のジムリーダー、エプリとエパルだ。
ヴァニルシティは三人の故郷なので、ヴァニルシティジムにはよく見学に行ったりしていた。
「エプリさん、エパルさん、こんにちは」
「お二人も、お祭りにいらしてたんですね」
「オムライス美味しいよ!」
元気に挨拶をする子供たちを見て、双子のジムリーダーはクスリと笑う。
「オムライス美味しい?セラヴィーくん。それ作ったの、エリューズジムのジムトレーナーさんだよ」
エリューズシティのジムトレーナー。
いつか挑戦することになる人。
セラヴィーは目を丸くして、パチパチとまばたきをした。
「あの黒いエプロンの人?」
「クーさんっていうのよ」
美味しいオムライスを作れるだけでなく、バトルも上手いクーさん。
(一体どんなバトルをするんだ……?)
いつかエリューズジムに挑戦する時が楽しみだと思いながら、セラヴィーはオムライスの最後の一口を口に運んだ。
***
夢のたまご
腹ごしらえを済ませ、再び街を散策していると、たまごを抱えている人たちと沢山すれ違った。
すれ違う人の中には、自分でたまごを育ててみようと思うと話している人もいた。
「やっぱり、たまご育てるって人も沢山いるんだな。あっ、リリーそのたまご何処から持ってきたんだよ」
リリーはいつの間にか、たまごを抱えていた。
「あしゃ」
「このたまごを育てるって言ってるんじゃない?」
「ええっ、リリーそうなの?」
リリーはこくりと頷いて、ぎゅっとたまごを抱きしめて離さない。
「どんなポケモンが生まれてくるんだろう」
セラヴィーがたまごに触れると、少しだけたまごが動いた。
「リリーが選ぶたまごなら、きっと素敵な子が生まれてくるよ」
「そうね、きっとそうだわ」
たまごについて話していると、誰かがたまごを抱えて、こちらに歩いてくる。
綺麗な水色の髪を揺らして、たまごを大事そうに抱えているのは、三人がよく知っている人。
ヴァニルシティにあるスクールの教師、アリアだ。
「アリアせんせー!たまご、博士のところに持っていくの?」
「まぁ、セラヴィーくん、ザクロくん、アルヴァちゃん。元気そうね!…いいえ、このたまごは、先生自分で育ててみようと思っているの」
アリアの意外な答えに、生徒三人は顔を見合わせた。
「先生、たまごを育てるんですか?」
「わぁ!どんなポケモンが生まれるんだろう」
アルヴァとザクロがそう言う中、セラヴィーは黙ったまま、じっとアリアの腕の中のたまごを見つめた。
「…くん、セラヴィーくん?」
「あっ、はい!アリア先生」
たまごを見ることに集中して、アリアに呼ばれていることに、セラヴィーはしばらく気付けなかった。
「お手紙に書いてくれていたけど、セラヴィーくんは初めてのポケモンにアシマリを選んだの?」
「だって、アシマリってアシレーヌになるんでしょ?アリアせんせーのアシレーヌ格好良かったし」
セラヴィーはリリーを抱き上げて、アリアに近付けた。
「まだ技も少ししか覚えてないし、チームワークとか全然だけど……いつか、アリアせんせーみたいに良いトレーナーになるんだ。その為に、ジム戦とか頑張るから!」
セラヴィーの言葉を聞いて、アリアの目に薄い涙の膜が張った。
「セラが先生を泣かせた!」
「オレ、何か悪いこと言った!?せんせぇ」
アリアは違う違うと言うように、首を横に振った。
「先生、嬉しくなっちゃっただけだから……どうか、みんなの旅が素敵なものになりますように」
生徒はみんな、可能性の塊。夢の詰まったトレーナーのたまご。
素敵な旅をして、色んな人やポケモンに出会って殻を破って。
でも、もし困ったら先生を頼ってね。
絶対に力になるから。
アリアは、温かな眼差しで子供たちとポケモンたちを見た。
その温もりはまるで、春の柔らかな日差しのようであった。