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グッバイ寝不足

X(旧Twitter)企画『コランダ地方で輝く君へ』交流作品です。

お借りした方
•ルドさん

自宅
•ドラウズ



「ダグシティも、しばらく来ない間に少し変わったな」
ドラウズはそう呟きながら、活気に溢れる街中を歩いていた。腕にはネッコアラのユーカリがくっついている。
そして、パートナーのヨルノズク、ラヴェンナはその上空を浮遊する。

「さっさと買い物を済ませて戻るぞ」
ドラウズがラヴェンナに話しかけた瞬間、ラヴェンナは翼をはためかせ、どこかに目掛けて飛んで行った。
「……まさか、寝不足の奴を見つけたか?」

グッバイ寝不足



ポケモンと人間の睡眠について研究しているドラウズの影響を受け、ラヴェンナはいつからか寝不足のトレーナーを見つけると反応するようになった。今回も、きっと寝不足のトレーナーを見つけて、確認に向かってしまったのだろうとドラウズは推測した。
急いでラヴェンナを追いかける。幸い、すぐに追いついた。
 
「ラヴェ……」
案の定、ラヴェンナは誰か捕まえていた。
ただ、ラヴェンナが捕まえた男は、ドラウズの予想に反して、ちっとも寝不足の顔ではなかった。
何故、寝不足でもない人間を捕まえたのだ。と、口にするより先にドラウズは気付く。自分はこの男を知っている。

垂れた目、下がりがちな眉、左側のみを三つ編みにした髪型。フルリムの赤い眼鏡にも見覚えがあった。
ただ、以前見た時、奴は大変寝不足な顔をしていた。その為、少々気付くのが遅れてしまった。
「ルドベック」
「ド、ドラウズさん?」

***

ルドベック・ツァルトハイト。仕事の関係で、知り合った研究員だ。
常に疲れた顔をして、ろくな睡眠も取らず、カフェインや薬で疲労を誤魔化す始末。
奴に会う度に、何度も注意した。

眠れ、カフェインの過剰摂取は止めろ。そんなことでは体を壊し、最悪命を落としかねない。
お前が死んだら、ポケモンが悲しむぞ。
それでも、ただ眉尻を下げ、俯くだけ。それが、俺が知っているルドベックという男だ。

それが、今はどうだろう。寝不足だったあの顔は、見る影もない。
笑顔で、手持ちのミミッキュやバチュル、モクローたちと歩いている。
「お久しぶりです……ラヴェンナちゃん達も、久しぶりだね」
ラヴェンナは、ルドベックとその手持ちたちに微笑んでいる。ユーカリは寝たまま頷いている。
 
「ルドベック、お前……」
「なっ、何ですか……?」
ドラウズが口を開くと、ルドベックは身構えた。ルドベックはドラウズに会う度ずっと怒られてきたので、仕方ないのかもしれない。

「顔色が良くなっている。目の下の隈も消えているな。……安心した」
穏やかに笑うドラウズを目の当たりにして、ルドベックはマメパトが豆鉄砲を食らったような顔をした。

「え……?えっと……」
「何?」
「ドラウズさんって、そんな顔出来たんですね……」
ルドベックの記憶の中のドラウズは、ひたすら怒って圧をかけてくるような男で。
穏やかに微笑むようなイメージは、これっぽっちも無かった。
 
ルドベックの言葉に、ドラウズは一瞬きょとんとして、その後ため息混じりに答える。
「はぁ……それは、俺が何回言ってもお前がきちんと休まないから……だから、穏やかではいられなかったのだ」
「ご心配おかけして、すみませんでした……」

申し訳なさそうに頭を下げるルドベックに、ドラウズは「ふふん」と笑ってみせる。
「今、お前が十分眠れているなら良い」
ドラウズの腕にひっついているユーカリも「そうだ」と言うように揺れた。

「では、ルドベック。お前のスケジュールが空いている日を教えろ」
「急に何でですか!?」
目を白黒させながら、ルドベックが問うた。
スケジュール管理アプリを開きつつ、ドラウズは機嫌良さそうに言った。
 
「お前がきちんと眠れるようになったことを祝し、一杯奢ってやる」

 
 



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