小さな恋は美しい
「好きだ。この先お前が満足しても、俺はずっと満足しねえからな。ずっと俺といろ。謝んな。俺も謝んねえ」
『本当に?私が好きなの?』
―――小さな恋は美しい
低く響く声が、抱きしめられて伝わる熱が、全てが夢みたいだ。
夕日によってオレンジに染まる教室で、ふたりぼっちの優しい時間。
「わかったよ、もう謝らないよ。ずっと一緒にいてね…薫君」
「…おう」
薫君の顔が赤く見えるのは、夕日のせいだけではないと思った。
***
「急がないと夜になっちゃう…」
「早く帰るぞ」
いつも通り平常心で下校、とはいかない。
だって好きって言われたの、ついさっき!
「運命なんて信じない」と言っていた昔の自分が、今の自分の姿を見たらきっとびっくりする。
心臓は煩いし、何か顔も熱い。
「ここ、大丈夫か」
「大丈夫…なのかな?」
「俺に聞かれても」
だって、こんなにドキドキすると思わなかったんだよ!
運命は信じていなかったし!
…何か自分が自分じゃないみたいで、少し怖いな。
だけど、不思議だね。
自分が自分らしくなくなっている不安より、これから薫君とずっと一緒に過ごせる、喜びの方が大きいの。
初めての気持ち、不安と喜びが綯交ぜのマーブル模様。
「薫君、大好き」
***
「でねっ、その時紬君がねっ!」
「うんうん」
あの告白から数日後。
教室でよねちゃんの恋の話を聞いていた。
好きな人の話をするよねちゃんは、あまりにも楽しそうで。
『何がそんな楽しいのだろう、友達の私では駄目なのかな』と思っていた時もあった。
けど今ならわかる。
『私も薫君のこと考えている時、楽しいって感じてる…友達のこと考えてる時とは少し違う気持ち』
きっとよねちゃんも、そうなんだ。
私達は小さな恋をしている。
世間を騒がせる有名人の恋に比べたら、誰も注目しない小さな小さな恋を。
それはまるで野に咲く花のよう。
派手さはなくて、ひっそりとしている。
『でも、どんな小さな花だって美しいよ。そうでしょ、薫君』