楽しいこと探して


X企画【コランダ地方で輝く君へ】作品。

登場人物
・スコア、フォルテ

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突然、鳴り響く携帯電話。画面には、親戚の名前が表示されている。
「もしもし、おばちゃん?」
電話に出ると、聞き慣れた親戚の声が聞こえた。
そこそこ世間話をした後、『トレーナーを失って、塞ぎ込んでいるゲンガーがいる』と聞かされた。
「それでね……相性が良ければの話だけど……スコア、ゲンガーのトレーナーになってみない?」
「はぁ」
自分も、最近パートナーのポケモンを失った。自分の手持ちのポケモンは、その一体だけだった。つまり、今、俺は手持ちのポケモンはゼロ体だ。それで、トレーナー候補に上げられたらしい。

「そのゲンガーは、音楽とか草原が好きらしいから、スコアと趣味が合うと思って」
確かに自分は、職業ピアニストと作曲家。音楽が好きだ。それに、作曲の合間の気分転換に、草原に出掛けたりもする。

「だけど、虫タイプしか育てたことないしなぁ……仲良くなれるかわからないけど……まぁ、会うだけなら良いかな」
それから数日後、ゲンガーと会うことになった。
リフィアタウンの俺の実家で。

✢✢✢

あっという間に、ゲンガーに会う日がやって来た。名前はフォルテというらしい。
……めちゃくちゃ怖がっている。
どうしよう。フォルテは臆病な性格らしいから、知らない人は怖いのかもしれない。
おばちゃん、やっぱり俺には無理です。助けて……。

「げん」
「あっ……ピアノ?」
ピアノを見つけたフォルテは、目を輝かせてピアノに近づいた。そういえば、音楽が好きなゲンガーなんだった。
「何か弾いてみようか」

ポロン、ポロン……。
広い部屋に、ピアノの音が響く。フォルテは、ニコニコしながら聴いてくれた。良かった……。

俺の演奏が終わった後、ゲンガーは持ってきたポシェットから縦笛を取り出した。
「もしかして、笛吹けるの?」
フォルテは嬉しそうに頷いた。音楽が好きとは聞いていたけど、楽器を演奏出来るとは思わなかった。

「すごい!何か演奏してみてくれないか?」
「げんげん」
フォルテは、すぅっと息を吸い込み、音色を奏でる。そのメロディ、どこかで聞いたことが……。

「ソラシーラソ、ソラシラソラー」
夜鳴きラーメンのチャルメラだ。他にも、豆腐屋のラッパの音も奏でられるらしい。もしかして、ちょっと食いしん坊?

「今夜はラーメン食べに行こうかな」
「げぇん」
「……一緒に行く?」

その夜は、ふたりでラーメンを食べた。久しぶりに美味しかった。

✢✢✢

次の日は、草原にピクニックに出掛けた。シャボン玉で遊ぶフォルテのそばで、新しい曲のアイデアを練った。
昼には、家で作ってきたサンドイッチを一緒に食べた。

「結構上手く出来たよな」
「げん」
心地よい風に吹かれながら弁当を食べて、少し良い気分だ。

昼食の後は、フォルテと遊ぶことにした。
「げぇん」
「あ、カラスノエンドウ……これ、笛になるんだよな」
筋を取ってから開き、中の豆を取り出し、ヘタの部分を少し切る。
「出来た」
一つ出来たので、それをフォルテに渡し、急いで自分用にもう一つ作る。

ふたりでピーピー、鳴らして遊んだ。
子どもの頃に戻ったような気持ちになる。
楽しくて、ずっと遊んでいたかった。

「楽しい?」
「げんげ」
フォルテが頷くので、俺は「良かった」と呟いた。

✢✢✢

就寝前、フォルテに声をかけた。
「俺、明日の朝帰るんだ」
「げぇん」
フォルテは下を向いてしまった。
顔が見えないけど、話を続ける。

「昨日と今日は、すごく楽しかった!もっと、一緒に遊べたら良いのにと思った……それで、相談なんだけど」
下を向いていたフォルテが、顔を上げた。
「これから先も、一緒にいられないか?俺たち」
フォルテは少し考えて、それから、俺に何かを手渡した。
「これ、コランダのガイドブック……?」
よく見たら、結構付箋が貼ってある。
付箋のページを捲ってみると、美味しいラーメンの店や、水族館、温泉のページなどにチェックが入っている。
前のトレーナーと、行った場所なんだろうか。それとも、行く予定だったところ?

胸の奥が、様々な感情でいっぱいになる。

「この付箋貼ってあるとこ……いや、このガイドブックに載ってるところ全部、一緒に行こう!」
俺の提案を聞いて、フォルテが笑った。

楽しいこと、たくさん見つけにいこう。

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