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海の街ミニコンサート

X(旧Twitter)企画『コランダ地方で輝く君へ』交流作品です。時系列は、パチリス事件の後。

パチリス事件

お借りした方
マリッサさん

ゲンさん


自宅
スコア


海の街ミニコンサート


パチリス事件のその後、心配した叔母が様子を見に来てくれた。
「これ、この間行ったノアトゥンシティのお土産……フォルテちゃん、大丈夫なの?」
差し出された手提げ袋には、ソーダ味のゼリーと地方アイドルのCDが入っていた。
「ありがとう……あれから、少しずつ元気にはなってるよ」
友達だと思っていたパチリスから怯えられてしまった、ゲンガーのフォルテ。最初は落ち込んで、俺の影に入る元気すら失っていた。
「そうなの……良かったわ……フォルテちゃん、またリフィアにもおいでね」
叔母の言葉に、フォルテは小さく頷いた。

お土産を俺たちに渡し、フォルテの様子を確認した叔母は「もうお暇するわ」と言い立ち上がった。
「もう少し、ゆっくりしていけばいいのに」
「ちょっと今から用事があってね……また来るからねぇ」
「げぇん」
そうして叔母は、あっという間に帰ってしまった。ゼリーは冷蔵庫に入れて、CDはフォルテと一緒に聴いてみることにした。
ディスクジャケットには、大きく「マリッサBEST」の文字。それから色違いのヒンバスと人間の女の子。
「全然知らないけど、この人がマリッサ?」
パソコンにディスクをセットして、曲を再生した。

〜♪ 永遠にフォーエバー キミと〜(しろみ〜!!)
私はもちろん〜 キミが好き〜!(キミが好き〜!!)

「頭に残る、不思議な感じの歌だな」
「げん」
フォルテは初めて聴く曲に、目をぱちくりさせていた。それから、CDに付いている歌詞カードを見ていた。
「俺、おやつ作ってくる。フォルテはそれ、聴いて待ってて」

「さっきのゼリーはまだ冷えてないから、フルーツポンチでも作ろう」
キッチンでフルーツポンチを準備しつつ、フォルテの様子をチラリと伺う。
「踊ってる……」
音楽を楽しむ余裕が戻ったフォルテを見て、俺は安堵した。

それから、フォルテはテレビにヒンバスが出ると指をさして教えてくれるようになった。
本屋に出かけた時、魚型のポケモンについて書かれた図鑑を見ていた。そういえば、「マリッサBEST」の歌詞カードに、ヨワシとかコイキングとかいたような気がする。
「もしかして魚型のポケモンに興味が……?」
魚型のポケモンを見て、フォルテが喜ぶなら、実際に泳いでいるところとか見せてやりたいな。
そう思ったので、次の休日を使って、エーギル水族館に行くことにした。

***

「草原も良いけど、海も悪くないよな」
コランダ地方で最も栄えている港街。青い海、キャモメの鳴き声、気持ちの良い風。
この街に来ると、何だか元気をもらえる。
少し街を探索してから、水族館に向かうことにする。

お土産は何を買おうか。お昼は何を食べる?
そんなことを考えながら歩いていると、フォルテが何か見つけた。
「げぇん」
「これは、ストリートピアノっていうやつだ」
ストリートピアノは、街中や街角なんかに設置されている、誰でも自由に演奏出来るピアノ。
駅や空港なんかに設置されていることもしばしば。ノアトゥンシティにもあったんだ。
そばに置かれた、説明の看板を読んでみる。

▼誰でも演奏出来るストリートピアノを、試験的に設置しました。
 仲間との連弾、ピアノと他の楽器のアンサンブル、ピアノ演奏に合わせて誰かに歌ってもらうことも可能です。
 ルールを守って、楽しく演奏してください!

「げん?」
「アンサンブル可能って、例えば俺がピアノを弾いて、フォルテが笛を吹いても良いってことだけど……」
俺がそう言いかけると、フォルテは自身の体の半分くらいを俺の影に沈めた。
「うん、それはやめておこうか」
臆病なフォルテには、少しハードルが高い。
「一曲、俺が何か弾こうか?」
フォルテが安心した表情で影から出てきた。ポシェットの中から「マリッサBEST」を取り出し見せて来る。
「あっ、マリッサBEST持ってきたのか……それで、これを演奏しろって、そういうこと?」
曲名を指差しているので、恐らくその曲を聴きたいということのだろう。

その時、今までその辺を歩いていた高齢の人々が集まってきた。
「あんた、マリちゃんの曲弾くんかい?」
「ワシら、マリちゃんの後援会なんよ」
ノアトゥンシティで、マリッサファンクラブ(正確には後援会)に出会った。フォルテは、突然知らない人々に囲まれて固まっていた。
「ほいじゃけど、お兄ちゃん。コンサートでは見かけん顔よね」
後援会の奥様に首を傾げられてしまった。すみません、知ったのが数日前なので……。

「知ったのが最近で……CDは数日前に親戚にもらったもので……コンサートには行ったことがないんです。なんですが、この子がマリちゃんさんの曲を気に入ったものですから」
「ありゃ!ええセンスしとるね!むらさきちゃん、飴ちゃん食べてな」
むらさきちゃんと呼ばれて、フォルテが戸惑っている。
「お蜜柑もお食べよ」
フォルテの手に、蜜柑と飴が乗せられていく。
蜜柑と飴をもらったフォルテは、奥様たちにお辞儀をした。そういうことは知っていて、きちんと出来るんだな。えらいな。
なんて感心している場合じゃない。モタモタしていると、水族館を回る時間が減る。

「コンサートを普段から聴いている皆さんだと、ピアノだけでは物足りないかもわかりませんが……」
「お兄ちゃん、歌わんのかい?」
「俺がアイドルソングを???」
そんな、熱心なファンに怒られそうなことを……。あ、後ろで腕組みしているヌオーのエプロンのおじ様にすごい見られてる。
「俺は、マリの歌声が良い」「もう、ゲンさん……」
エプロンのおじ様はゲンさんという名前らしい。ごめん、ゲンさん。歌わないからそんな目で俺を見ないで。
もう、とにかく演奏を始めよう。そう思った時、俺のそばに一匹のヨワシが近づいてきた。

「みんな、何してるの?」
ヨワシのトレーナーらしい女性が、こちらにかけて来る。髪型はCDジャケットと違うが、声でわかる。
(マリッサBESTのマリッサか)
「マリちゃん。このお兄ちゃんがねぇ、今からマリちゃんの曲ピアノで弾くって言うんで、みんなで聴こう思って」
後援会の奥様の言葉を聞いて、マリッサがこちらに顔を向ける。
「そうなの?初めまして。マリッサ、24歳です。マリリンって呼んでね♡」
みんな「マリちゃん」って呼んでたけど、浸透してないのかなぁ、マリリン……。
「どうも、スコアといいます。24歳です。呼び方は何でも……」
お互い自己紹介していると、後援会の奥様が「せっかくマリちゃんがいるんだから、マリちゃんに歌ってもらおう」と言い出した。
でも、マリリンにはマリリンの予定があるかもしれないし……。
「良いわよ」
「良いんだ」
あっさり了承を得たので、ミニコンサートのようなものが出来ると、後援会メンバーは喜んでいた。

「着信ロト!着信ロト!」
ミニコンサート前に、ゲンさんのロトッチが着信を知らせた。
「着信ロト!ちゃ…………」
「ふぅ」
ゲンさんが着信音を切って、ロトッチを黙らせた。良かったのかな、あれ。

「ねぇ、準備良いかしら」
「……いつでも大丈夫です」
ここからは演奏に集中する。あなたが歌いやすいように、全員に楽しんでもらえるように。
曲が始まれば、聴いている人やポケモンがみんな笑顔で、幸せそう。
まるで昼間のノアトゥンの海のように、キラキラとした時間。
この時間が永遠だったらなんて、らしくないことを思った。

「永遠にフォーエバー キミと〜」
「しろみ〜!!」
永遠に、永遠……ね。そういうのも、悪くないのかもしれないな。
こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

ミニコンサート終了後。ゲンさんのロトッチに、奥さんからの着信履歴が大量に残っていた。
やっぱり、切っちゃ駄目だったんじゃん。

おまけ

 

 




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