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未知との遭遇

X(旧Twitter)企画「コランダ地方で輝く君へ」交流作品です。

お借りした方
•シグルスさん

自宅
•ドラウズ


ヨルノズクのラヴェンナが、おやつの時間になっても戻ってこない。
何か困ったことになっていないだろうか。心配になったドラウズは、研究所の外へ様子を見に行くことにした。
幸い、ラヴェンナは研究所のすぐ近くで見つかった。ラヴェンナのそばには、背の高い長髪の男性が立っていた。
さらさらのブロンドヘアが、風に靡いている。男の横に、色違いのサーフゴーが控えていた。恐らく、彼の手持ちなのだろう。
 
(ああ、いつものように寝不足のトレーナーを研究所に誘導しようとしているのか)
ドラウズはそう思って、ラヴェンナたちに近付こうとした。しかし、よく見るとラヴェンナの表情が少々険しいことに気付く。
(あの表情は……ラヴェンナ、何か迷っている……?)
研究所に誘導しても良いのか、ラヴェンナが迷っている。とても珍しいことだった。

未知との遭遇


立ち止まったドラウズの耳に、ブロンドヘアの男がラヴェンナに話しかける声が飛び込んでくる。

「貴君が私を呼び止めた理由……わかるとも。国宝が目の前に現れたのだから。美しい私の瞳に、貴君の姿を映してほしいと……そういうわけだね?」
ラヴェンナは首を横に振り否定したが、男は全く見ていない。
 
「貴君をいつまでも、私の瞳に映し続けることが出来たら、どんなに良いだろう。しかし、国宝は旅人の身。いずれこの街を去り、貴君を悲しませてしまう運命……ああ、私が美しいばかりに……美しいとは罪……」
 
ここまでの男の台詞を全て聞いていたドラウズは、ラヴェンナが迷い悩む理由を察した。
ラヴェンナは、この男が睡眠不足故にハイテンションなのか、元々こういう性格なのかがわからないのだ。

(それはそうだよな、通常時に一人称が“国宝”の人間など出会ったことがない。寝不足で変なテンションなのだろうと思うのが普通……しかし、寝不足にしては顔色が良すぎる気が……これは、判断がつかない……)
 
ラヴェンナ、ずっと迷っていたのだな。だが、もう大丈夫だ。
あの男が寝不足かそうでないか、ラヴェンナが判断出来ないなら、俺が判断してやろう。
 
意を決して、ドラウズは男の方へ歩き出した。

***

「ああー、少しいいか?そのヨルノズクは俺のパートナーで……」
「ん?」 
男の蒼く澄んだ瞳が、ドラウズの方を向いた。
その瞬間、ドラウズは男の観察を始める。
目の下にクマは無い、目も充血していなくて綺麗だ。見た目は全く寝不足には見えない。
しかし、相手は一人称“国宝”の男だ。油断は出来ない……。
ドラウズが色々と考えていると、男が口を開いた。
 
「ふむ、さては……私に見惚れているね?」
「違う!そういうんじゃない!……俺は研究者だから、人やポケモンをよく見るのが癖なのだ」
気に障ったならすまん、と、ドラウズは謝罪の言葉を口にした。
ドラウズの謝罪を聞き、男は口元に弧を描く。
「ふふ、見つめられることには慣れているよ。国宝だからね」
「あ……」
 
もしかして、何処かの国の人間国宝が逃げてきたとか……そういうこともあるのだろうか。
人間国宝だったら、何かの能力に優れている人物なのだろうか?
(仮に本当に国宝だったとして、自分で自分のこと“国宝”って言うか?やはり、寝不足故のハイテンション……いや、しかし……)

ああ、何もわからないな。
もっと、情報がほしい。そういえば、この男の名前も知らないのだ。

「俺はドラウズという名前なんだが、国宝……は、何て名前なんだ?」
そう聞かれた彼は、自身の胸に手を当てて、その名を明かした。

「立てば彫刻座れば絵画、歩く国宝シグルスだ。よろしく」

***

シグルスと名乗るその男は、ドラウズと同年齢であると話の流れでわかった。
28歳、国宝。なかなかのインパクトである。

「この地方は美しいね。吹く風も優しく、この国宝の訪れを祝福しているかのようだ」
「そうだな。俺も別の地方から来たんだが、良いところだと思う」
原っぱで、手持ちのポケモンたちが遊んでいるのを見ながら、ドラウズは木のそばに座ってシグルスの話を聞いた。

シグルスはカロス地方から来た旅人だということ。
手持ちは皆色違いだが、特に色違いコレクターだというわけではないこと等を知ることが出来た。
「旅をしていて困ったことはないか?環境が家と違うから、眠れないとか……」
「寝付きは大変良く、健康そのものだとも。国宝だからね」
「そうか……」
つまり、そのハイテンションは元々の性格か。一人称のひとつに“国宝”が入っているのも、いつも通りなのだな。

「ラヴェンナ」
ドラウズは手招きをして、シグルスのポケモンたちと遊んでいるラヴェンナを呼んだ。ラヴェンナはそれに気付くと、翼をはためかせてドラウズのそばに飛んだ。

「今回、ねむりの相談室の出番はなさそうだ」
「ほー……」
寝不足でハイテンションになっているのか、性格なのかの判断が出来なかったと落ち込むラヴェンナを、ドラウズは優しく撫でた。
「落ち込まなくていい。寝不足の人間やポケモンのことを考えることが出来るお前を、俺は誇りに思うぞ」
ラヴェンナを褒めてから、ドラウズはシグルスの方に顔を向けた。
「俺は、人間とポケモンの睡眠について研究している。人間やポケモンが寝不足で辛い思いをするなんて、あってはならないと思っているのだ」
お前がきちんと眠れていて、困っていないなら良かった。
ドラウズはシグルスに穏やかな笑みを見せた。

「もし眠れなくて困ったら、ここに連絡してくれ」
ドラウズはシグルスに、自身の名刺を手渡した。
 
今は大丈夫でも、未来はわからないんだから。国宝だって、寝不足になるかもしれないじゃないか。 

 

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