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Simpless V2の苦悩、そして想い

こんにちは、MogumaProductsです。
昨年末に書いた記事にも書いたとおり、Simpless V2をリリースすることができました🎉

2022年末に書いた記事内でも少し触れていますが、Simpless V2のリリースはV1から思った以上に月日が経ってしまいました。
その中で自分なりに感じた、ものづくりの難しさや向き合い方について振り返りつつV2にどのような想いを込めたのかを書き留めておこうと思った次第です。

V1をリリース、その後

Simpless V1についてはこちらの記事にまとめています。

当時考えていたコンセプトはよかったのですが、リリースして少ししてから気になるところが出てきました。それは上下をプレートで挟み込む構造でした。
プレートのカラーバリエーションを増やすために使用するプレート数を増やすというのはよかったのですが、プレートのバリエーションを優先した構造がキースイッチテスターの構造としてみたときにそこまでよくないのではないか、と感じるようになりました。

いいところとしては

  • 上下対称のデザイン

  • プレートを交換すればバリエーションを増やせるボディの汎用性

があるものの、その反面としてイマイチなところは

  • キースイッチが宙ぶらりんになってしまう

  • 底側のプレートやネジが接地している

という機能面において改善すべきというのがみえてきました。
さっそく、機能を改善するぞ!とV2をどうするかのアイディアを練り始めたのですが、そこから全く進まなくなってしまいました。

V1の壁

Simplessのコンセプトが自分の中でしっかりと構築されていたのですが、それが足枷になってアイディアが出せなくなってしまいました。
正確には出したアイディアが元々のコンセプトから離れてしまうということで思考の邪魔をしていました。

特に難しかったのが派生版の開発です。
V1のボディはいわば外枠だけなのでプレートを変えれば製品としてのバリエーションが増やしやすいという開発コンセプトの意図もありましたが、スタビライザーを装着できるモデルを試作したときに一番頭を抱えました。

左がトッププレート、右がミドルプレート

V1の思想をそのまま採用するとプレートを二枚用意してミドルプレートにスタビライザーを装着、それをトッププレートにネジとスペーサーで固定するという構造になります。
実際に組み立ててみると思ったより複雑になってしまい、スタビライザーの取り外しが大変にめんどくさい構造になってしまいました。

作者がめんどくさいと思うくらいなので製品として出しても使いづらいものになるのが容易に想像でき、そこでV1のコンセプトに限界を感じました。
そこからは落胆してしまってSimplessに対してのアイディアが出なくなり、開発への意欲が減っていきました。
(その間にキーキャップを作ったりはしていました)

V1からの脱却

何も進まない日々を過ごしながらもコンセプトについては粘り強く考え続けていました。Simplessのコンセプトというよりはコンセプトとは何か、というのを自分の中で掘り下げていました。
すると、思考が整理されてきたのかコンセプトを崩さずにアイディアを広げようとしすぎて思考が羽交い締めにされているのでは…?ということにたどり着きました。
「そのアイディアはSimplessらしくない」ではなく、「何をするとSimplessじゃなくなるか」という積み上げたアイデンティティの捉え方が自分の中でズレているのではないか、という気づきから思考が整理されていきました。

このブレイクスルーにより、そこからはV2に向けてのアイディアを整頓していきました。

  • V1と互換性のあるサイズ → Simplessっぽい

  • 上下をプレートで挟む → Simplessらしいとは言えない

  • 共通のボディとなる形状 → Simplessらしいとは言えない

のように、ひとつひとつの要素を整頓しつつ、どのように機能をブラッシュアップしていくかということを考えるようにしました。
こうすることにより、自分の中で出てくるアイディアの合否が判断しやすくなったので迷いなくV2の開発が進むようになりました。

V2の誕生

これらの過程を経て、Simpless V2はリリースを迎えることができました🎉

コンセプトを崩すことなくSimplessらしい進化ができたように思います。製品紹介にも改良点として書いてはあるのですが、ここではもう少し詳細にブラッシュアップしたそれぞれのトピックを掘っていきます。

V1との互換性

V1との互換性をもたせるかどうか。

Simplessはサイズ感を大切にしているというのは大きなコンセプトのひとつです。
このサイズ感は意図したものであるというのと、すでにV1を使っていただいている方がV2も同じように使えるとうれしいのではないかと考え、同じサイズにして互換性をもたせることにしました。最初のバージョンアップでいきなり互換性がなくなるというのも酷である、というところも互換性を保った理由ではあります。

トップ/ボトムプレートによる挟み込み構造をやめる

プレートで挟み込む構造はトップ/ボトムプレートという構成にして底板としても使えるが、いくつかある色やエンボスを選択し、好みに合わせて使っていただくというのがコンセプトとしてありました。
製品を楽しむ、という点においてはパッケージのイラストからも伺い知れるくらいには強いコンセプトのひとつにしていました。
しかし、裏を返すとバリエーションを減らすことで機能性を上げられるのであればそこは割り切ってもいいんじゃないかということで挟み込む構造をやめ、トッププレート+ボディという構造に設計をシフトしました。
また、プレートの種類を減らすことでコストのコントロールがしやすいというのとプレートのバリエーションの要望はたくさん売れてから考える、という方針に切り替えたのもあります。

ボディにミドルプレートを設ける

V1のボディはプレートを固定するためのいわばフレームしかなかったため、キースイッチを取り付けると宙ぶらりんのままでした。
改良するにあたり、最初は隙間にウレタンフォームを詰めようかと思ったのですが、隙間を埋めるために内部形状に合わせた形にウレタンフォームを加工するのがあまり合理的ではなかったため断念しました。
また、V1との互換性は持たせることは決めたものの、ボディの内部構造はガラッと変えてもいいかもしれない、ということで最初はボディに底を設けました。出来上がりはよかったのですが、「底に蓋をする」という機能しかなく、それ本当にいるのか…?となったので、もう少し機能性を持たせるためにどうするかという流れで出てきたアイディアが一体化ミドルプレートでした。

一体型ミドルプレートのプロトタイプの裏面

ミドルプレートの役割としては底蓋(の代わり)にプラスしてキースイッチを固定して安定性を向上させることができるようになりました。
これにより、トッププレートのキースイッチホールの位置によってボディを作り分ける必要はありますが、そのトレードオフとしてキースイッチをミドルプレートに接地することで安定し、機能性を向上することができました。

プロトタイプが完成した時点でFixしようと思っていましたが、はみ出たピンにキースイッチソケットを装着して遊んでいたらよさげにみえてきたのでピンホールを整えて今のプレート形状になりました。
懸念としてはセンターポール付近の強度に不安がありましたが、試作品の強度チェックはクリアしたので無事採用となりました。
キースイッチソケットが装着できるというのは機能としてあまり意味はないのですが、こういった遊び心も忘れずに開発を続けたいですね。

プレートのキースイッチホールの改良

FR4の板に14mm四方のキースイッチホールを開ける。これ自体は機能として満たされているのですが、発注したプレートの交差によってキースイッチをはめる際にきつい/ゆるいというのが度々ありました。
これは製造工程上、仕方のないことなのでどのように許容するかということを考えていました。
ゆるいキースイッチホールはどうしようもないですが、きついキースイッチホールはキースイッチの爪を痛めてしまうためどうにかしたかったのです。
加工するにしても四角形のホールをやすりできれいに削るのは難しい。そこで爪がひっかかる箇所だけ出っ張った形状のキースイッチホールにしました。
こうすることで加工しやすくもあり、またキースイッチホールの形状自体にもデザイン性を持たせることでSimplessを引き立たせてくれるものになりました。
また、デザイン性の高いPCBやキースイッチプレートで度々見かけるMaskしてCuをみせるというデザインも今回のタイミングで採用しました。キースイッチホールがグッと引き締まったように見えるのでプレート単体でも眺めて楽しめるものになったのではないかと思います。

想い、そしてこれから

Simplessのアイディアのきっかけはアクリルの端材でたまたま作ったキースイッチテスターでした。それがここまで昇華するとは当時は思ってもみませんでしたし、続けてこれたのは皆様に応援していただけているからとも言えます。
そういった流れの中でSimpless V2は納得のいくものに仕上がり、満足してしまったところはあります。
もしかすると派生のエディションは出るかもしれませんが、今回のような大きなバージョンアップは当分ないと思います(たぶん)。

Simplessをやりきったということで次の目標であるMogma Productsブランドのキーボードを手掛けるためのステップが踏めそうですが、キー配列を試行錯誤する治具をつくり始めてしまってどうなることやら…

長文となってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
内容はポエムでしたが、ものづくりをしている方々への刺激になれば幸いです。

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