What is 模擬裁判 その1(後編)
(前編からの続きです)
活動を始める前は頭脳ゲームだと考えていた模擬裁判。しかし模擬裁判に触れてみると、必要なのは法学の知識でも相手を言い負かす能力でもありませんでした。模擬裁判の資料は非常によく作りこまれており、検察側にも弁護側にも有利になる証拠や情報がちりばめられています。そのため起訴されればほぼ有罪の実際の裁判とは異なり、被告人は有罪にも無罪にも成り得ます。その中で立場に応じた判決を勝ち取るためには、資料を深く読み込み証拠を残らず拾い集める必要があります。
また事件に登場する人々の心情や行動の理由を捉え、彼らのための正義とは、裁判の意義とは何かを考えることが必要でした。この異なる正義の存在は人間社会の本質や人が人を裁くという裁判の限界を示すことでもあり、高校生の頃の僕にとっては非常に難しく、一年目の活動で理解しきることはできませんでした。しかしこうしたことについて深く考えたことは、法学というよりも人間社会の在り方や人間の存在についての理解を深める非常によい機会でした。
さらに考えたことを好きなだけ考え、議論することができる環境が模擬裁判の場にはそろっていました。誰が発言し、考えをぶつけ合うことも許される仲間と場所の存在は、自分の意見や存在が認められているとても貴重なものでした。
こうした体験は自分の進路を決定する際にも関わってきました。大学に進学してからも模擬裁判に関わり続け、何らかの形で模擬裁判の活動を広めていきたいと思っているのはそのためです。そしてよりたくさんの生徒さんたちに模擬裁判に触れ、人や法について考え、議論をしてほしいと考えています。
もしこれを読んで模擬裁判に興味を持った方がいれば、何らかの形で模擬裁判の活動に触れ、こうした裁判に根差す人間社会の在り方や人について一緒に考えていければうれしい限りです。