海の便り #シロクマ文芸部
手紙には、海の香りが同封されていた。
彼女が受け取った手紙には、宛先は書かれておらず、彼女の名前だけが書かれていた。差出人の名前はない。
通常であれば、そんな手紙は気味が悪いと思うだろう。
しかし、彼女はその手紙に妙に懐かしさを感じ、興味をひかれた。
手紙から漂う海の香りは、彼女の幼い頃の記憶を蘇らせる。
幼かった頃の彼女は、海辺の町に住んでいた。
小さな町だったけれど綺麗な砂浜があり、彼女はそこがとても好きだった。
彼女が手紙の封を開くと、海の香りはいっそう強くなる。
ひとつ深く息を吸い込むと、あの砂浜に居るような、そんな感覚になれるほどだった、
小学生3年生の頃に引っ越しをすることになり、彼女は両親とともにその町を離れることになった。
最後の日にも彼女は砂浜に行き、幼いながらに別れを惜しんだ。
それ以降あの町には戻ってはいない。
町を離れてすぐの頃はどうしようもなく悲しくもなったこともあったけれど、小学生の彼女にとっては新しい日々もとても魅力があって楽しかった。
次第に海辺の町で過ごしたことを思い出すことはなくなっていった。
手紙を読むと、そこには思い出が綴られていた。
砂浜で走り回ったこと。
止むことのない海の音のこと。
可愛い貝殻を集めたこと。
浜辺で水と戯れたこと。
友だちと遊んだこと。
いつも声をかけてくれたおばちゃんやおじちゃんたちのこと。
豪快なおじいちゃんやおばあちゃんたちのこと。
読み進めるうちに、彼女は忘れていたはずの思い出を鮮明に思い出していく。
手紙の最後には「また会える日を楽しみにしているね」と書かれていた。
一体誰が、と不思議に思わなくもないが、差出人不明のその手紙は、なぜだか彼女の胸をひどくときめかせる。
読み終えて、またひとつ海の香りを吸い込む。
すると、足元にコツリと何かが落ちたことに気付いて、見ると小さな貝殻が転がっている。
それは、彼女が町を去る日に砂浜で拾った貝殻だった。
#シロクマ文芸部 企画に参加しました。
お詫びとお礼。
最近投稿するだけして、シロクマ文芸部作品を含め他の方が書かれているnoteをほとんど読めていない状態です。
フォロワーさんのnoteすら読めていなくてすみません……!
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2024.07.06 もげら