霧の朝は憂鬱 #シロクマ文芸部
霧の朝、彼女は深くため息を吐いた。
二階の窓から外を眺めて「やーだなぁ」と呟きながら身支度を整えると、部屋を出て階段を降りていく。
おはよ、とすでに食卓についている両親に挨拶をして、彼女も席につく。
「学校行きたくないなぁ」
「なに言ってるの」
でもわかる、その気持ち、と母は同意する。
「僕も、こんな日はきっと嫌だろうなぁ」
父も眉を下げて笑った。
「だけど、今日みたいな日は、チャンスでもあるんだからねぇ」
母はしみじみと言う。
「それは、まあ、わかるんだけどね」
トーストをかじりながら、視線は窓の外に向く。
まだまだ霧ははれそうにない。
父が先に席を立った。
「行ってきます。二人とも、気をつけて」
「はぁい、行ってらっしゃーい」
声を揃えて父を見送った。
朝食を食べ終わっても、彼女はまだ少しの間外を眺めていた。
「大丈夫かなあー」
もう一度深く息を吐いて、やっと彼女は席を立った。
外に出て辺りを見回すと、彼女は少し意を決したように、うん、とうなづいた。
「ほんと、久しぶりに濃い霧だねぇ」
母がのんびりとした口調で改めて言う。
「いい練習になるだろうけど。気をつけてね」
「はぁい」
「ライトは持った?」
「もちろん」
彼女はカチカチと明滅させて確認した。
「歌いながら行ったらどう? 誰かが近くに居たら、相手も歌ってくれて存在に気づくかも」
「……いい考えな気もするけど、恥ずかしいから却下」
「残念」
母は残念、と言いながら少し楽しげだ。
彼女はほうきにまたがった。
ゆっくりと深呼吸をして、集中する。
ほうきが少しずつ、宙に浮き始める。
彼女は、見習い魔女。
#シロクマ文芸部 企画に参加しました。
霧の中をほうきで飛んでたら周りが見えづらいよね、っていう、
まだ慣れてないからやだなぁ、っていう、
歌ってたら、近くを飛んでる誰かも気づくかもね、っていう、
(説明が要るやぁつ)
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・移ろい 10/24「爽やかな」
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2024.11.16 もげら