冷たい指先 #シロクマ文芸部
布団からはみ出している指先が視界に入った。
薬指にはめられた指輪が、窓から入る朝日を受けて光っている。
シンクに寄りかかったままで喉へ流し込んだコーヒーがやけに苦々しい。
指先から手元のコーヒーへと視線を移して、ぼんやりと思う。
昨日までと同じはずだ。こんな味だっただろうか。昨夜、妻と喧嘩してしまったせいだろうか。
昨夜の喧嘩を思い出すと、口内にさらに苦みが広がったような気がする。
それ以上飲む気がなくなり、一口飲んだだけのそれをシンクの中へ置いた。
そうして、再び寝室へと視線を移す。
妻はまだ布団の中にいる。
そっと近づいていき、その傍らに膝をついた。
長いまつげは、薬指の指輪と同じようにキラキラとしている。
どれくらいそうしていただろう。
そろそろ行かなければ。
そう思い立ち上がりかけると、はみ出たままの指先がまた視界に入る。
細いきれいな指に光る指輪。
やけに冷たそうに見えて、布団の中へ戻そうとする。
しかし、戻らない。
ひとつ息を吐いて、立ち上がる。
そして布団に横たわる妻へ声を掛けた。
「警察へ、行ってくるよ」
#シロクマ文芸部 企画に参加しました。
▶ 最近の シロクマ文芸部 企画参加ショートショート:
・新規一転 お題:「新しい」
・最高傑作を求めて お題:「本を書く」
・雪化粧の時代 お題:「雪化粧」
▶ 練習 ショートショート:
・君と何をしようかな
・台風はアイスクリームを食べる
・ペンギンのドライブ
・Take A Step Forward.
▶ マシュマロ投げてくれてもいいんですよ……?!
感想、お題、リクエスト、質問、などなど
読んでいただきありがとうございます。
2024.01.26 もげら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?