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一瞬を探して #シロクマ文芸部

 秋と本音は一瞬だ。
 油断していると、気づくことなく通り過ぎていってしまう。
 そうして僕はどれだけの一瞬を素通りしてきたんだろう。


「言ってくれなきゃわかんないよ」
「言ってたのに、聞き流したのはソッチでしょ?」
 彼女が別れを切り出したのは秋の頃だった。
『女心と秋の空』なんて言うけれど、それは理由じゃない。気の迷いで振られたんじゃあ納得もいかないけれど。そうじゃない。
 僕は聞いているようで、見ているようで、彼女の一瞬をずっと素通りしていたんだ。


 だから、今度は自分から見つけようとした。
 一瞬の秋を探すように。一瞬の本音を探すように。




 うん、彼女の本音はきっとアレだ。
 新しい彼女ができたら、僕はもう同じことを繰り返さない。

「僕と付き合ってくれない?」
「え、……っと、ごめん。そんな気は全然なかったんだけど……」

 どうやら僕は掴む瞬間を間違えたらしい。
 新しい彼女ができるよりも、同じことを繰り返さないよりも、——それよりもまずは、本音と建前を見極めるべきだったかもしれない。 




#シロクマ文芸部 企画に参加しました。

締切が昨日だったらアウトでした、滑り込みセーフ……!



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金色に光るのは 10/10「金色に」
秋の山道からの足跡 10/17「木の実と葉」
移ろい 10/24「爽やかな」

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2024.11.04 もげら

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