僕は愛されたい症候群

また失敗した。
いや、これは失敗じゃないな。始めから分かってたことだ。こんな僕が好かれるわけがないんだ。ほらね、やっぱり気がなかった。
あぁ、寂しい。どうしてたった二文字が言えないんだ。

夜「また告白できなかった?面白いくらい待つねー」
背後から聞きなれた声がする。
朝「…あぁ、夜か。でも分かってたことだ。だって僕は」
朝・夜「「魅力がない」」
朝「そういうことだよ。負け戦が出来ないんだ。1度死の恐怖を味わった人間が、2度、3度と味わおうとはしない。それを恐怖だと思ってるうちは絶対にない。あの大敗、奇襲って言ってもいい。あれを味わったら、僕はもう負け戦はできないんだ。夜、君ならわかるだろ?」
僕は夜の返事も待たずに、家に急いだ。
そして、朝が見えなくなって、夜は1人。朝のいた方向へ呟いた。
夜「1つの勝ち戦にも気づけてないくせに」

一人の時間がやってきた。家には常に1人で、その時間はもの思いに耽けてしまう。僕はプライドと恐怖に負けてこの孤独から逃れられない。
僕は理解している。自分が異常なことくらい。わかってる。私は愛されたいんだ。人より強く、そう思っている。愛されないことが苦痛で、愛されることこそが幸せなのだ。
でも、素直になれなくて、嫉妬深くて独占欲も強い。自己肯定感は皆無で、それでいて…
「トゥルルル…トゥルルル…」
スマホが鳴った。夜からだ。
朝「はい、もしもし、どうした?」
夜「…近くの公園」
そういうと電話は切れた。今は夜の1時、夜中で季節柄寒いというのに、何の用なのだろうか
などと思案しつつ、コートを着て目的地と思しき公園へ向かった。

すると、公園の遊具に座る夜がいた。部屋着みたいな格好で薄くて寒そうだ。
朝「夜?寒いだろ、こんな格好でどうした?」
僕はコートを脱いで羽織らせた。
夜は何も言わず俯いてる。
朝「夜?何かあった?相談なら乗るよ、僕なんかでよければね」
そう言って夜を見ると泣いていた。
朝「ちょ、大丈夫?なにかした?僕のせい?」
夜は泣きながら、途切れ途切れに声を出し始めた。
夜「…き」
朝「き?」
夜「…きなの」
朝「きなの?ゆっくりでいいから、言ってみて」
夜「好きなの!」
夜中に大声を出すので僕は二つの意味で慌てた。
朝「ま、まって!大声はやめよ!警察呼ばれるから…ってか、え?好き?僕なんかを?」
夜「なんかじゃない。好きなの…朝のことを」
朝「え、でも、僕はさ」
夜「あのね、聞いて?私は幼なじみだよ?裏も表も理解してるつもりだし、寂しがり屋なのも、プライドが高くて失敗も恐れてさ。結果、たった二文字の愛すら言えないことも、昔浮気されて未だに負け戦が出来ないことも知ってるよ。君は最弱の男だ。でもね、何よりも」
するとまた涙が溢れてきて少し言葉が詰まって俯く。
朝「夜…」
夜は涙を拭い、抱きついてきた。
夜「どうであれ、君が好きなの…」
朝「僕は…捨てられるのが怖くて常に奥手だよ…?」
夜「知ってる。だいたい捨てるつもりないし…」
朝「嫉妬深いし、独占欲が…」
夜「前に聞いた。些細なことじゃん…」
朝「自己肯定感は低いし、僕を愛してくれる人なんていないと思ってるよ?」
夜「関係ない。私は好きだし、信じてくれるまで言い続けてやる」
朝「でも…僕は…」
夜「あー!うっさい!私は好きなの!朝は?!」
その勢いに負けて、私は言葉につまることなく、流れるように発した。
朝「好き…です…」

やっと、たった二文字の愛を言えた。十数年は言えなかった言葉だった。心のどこかでは夜の恋心に気づいていた。そんな気がしていた。
二人は結ばれた。それでも、たくさんの苦難が待っているだろう。僕はこんな性格だし、ただ愛されている限り、愛することも出来る。せめて、それだけはやっていこう。
僕は、愛されたい症候群。人から愛されたくて苦しんでる。でも、心の中では愛したくてたまらない。僕は今日も愛されて生きていく。

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