eスポーツリサーチ:eスポーツを4つに分類するeSportsMatrixを解説する
🌟この文章の要約
参考文献
Eleanor E Cranmer, Dai-In Danny Han, Marnix van Gisbergen, T Jung, Esports matrix: Structuring the esports research agenda, Computers in Human Behavior, Volume 117, 2021,106671,ISSN 0747-5632,
https://doi.org/10.1016/j.chb.2020.106671.オリンピックeスポーツシリーズ
https://olympics.com/ja/esports/olympic-esports-series/アンディ・ミア (著), Sport 2.0:進化するeスポーツ、変容するオリンピック
https://bit.ly/3w7PPCp
🤔 背景とか課題とか
eスポーツについての認識の違い
僕がこの文章を書くきっかけにもなったのが,eスポーツに対する認識の違い.eスポーツについて研究室の仲間や友人と話していても,なんか話がかみ合わないなーと思うことが多かった.人によってはオリンピックで定められている競技のことを指す人もいれば,ゲーム全般をeスポーツとくくっている人もいる.僕は,VR研究がしたかったのでVRを使うことを前提にして話を進めていた.これでは議論が進まないと思い,eスポーツの定義について改めてサーベイしてみようと思った.
eスポーツの具体例
まずは,現在競技として取り扱われているモノを見てみる.
eスポーツのオリンピックは,2023年6月に初めて開催された.そこでは10個のゲーム(スポーツ)が実施されていた.(↗)
いくつか見てみると
まず「Tic Tac Bow」
※誰でもスマホから遊べる(🍎↗/🌎↗)
スマートフォンを用いてアーチェリーを行うゲーム.
「WBSC eBASEBALL™パワフルプロ野球 (野球)」(↗)
言わずと知れた大人気野球ゲーム,僕も子供のころずっとやってた.
コントローラーを使って選手を操作し,野球の試合を行うゲーム.
あー,久しぶりにやりたい…ウズウズ
「Just Dance」(↗)
プレイヤーが実際に身体を使って踊り,アバターをコントロールする.
審査員はダンサーの審査点とゲームのスコアを加えて最終的な勝敗を決める.
「Zwift」(↗)
インドアサイクリングとして,トレーニングやフィットネスとしても注目されている.
「フォートナイト」(↗)
みんな大好きフォートナイト
olympic委員会さんスポーツに固執しすぎるあまり,射撃に分類してるwww
ただこれは間違っていなくて,実際のフォートナイトとは異なり,敵を倒すのではなく的を銃で撃つゲームになっている.しかも個人戦
「バーチャルテコンドー」
VR HMDを用いてテコンドーを行う.見たほうがはやい
去年の大会では実施されなかったが,ストリートファイター(↗)やリーグオブレジェンド(↗)なんかもeスポーツに分類される.
問題発生:ぜんっっっぜんMECEじゃない
とまぁ,eスポーツの例をいくつか挙げたのだが,見てわかる通り似て非なるものが多い.eスポーツ=ビデオゲームと捉える人は,ZwiftやJustDanceのことは含んでいないんだろうし,その対象も野球やアーチェリーの様な本来スポーツとしてあったものをゲーム化したものと,もともとゲームとして楽しまれてきたものをスポーツに捉えなおしたものがある.インターフェースについてもタッチパネル,キーボード,コントローラー,モーショントラッキングと実に多様だ.
これらを電子的(electronic)だからと言って一括りにしてしまうのは,なんだか雑な気がする.前提が違うとそもそも議論にならないわけで,eスポーツにも区分けが必要だと感じていた.僕が,議論したいのは没入空間でのeスポーツ,つまりリアルとバーチャルが区別できない世界でのスポーツ体験/文化なので,コントローラーで操作するビデオゲームは少し前提が異なる.
なんかよさそうな論文発見!
そんなことを思って論文をディグ(↗)ってたら,いい論文を見つけたのでまとめておこうと思う.というのがこのnoteの趣旨だ.
🗒️ 論文の骨子
要約すると,
eスポーツに関する論文をいっぱい集めて,そこに乗ってるeスポーツを4つに分類したよ!
ということ.4つの分類結果をeスポーツマトリックス(eSports Matrix)として紹介している
eスポーツマトリックスとは
ドン!
とりあえず全体像を話すと,2軸の4象限で分類されている.(Matrix)
横軸は身体運動量の多さで
左が静的:身体活動が少ない ↔ 右が動的:身体活動が多い
縦軸はベースがリアルなスポーツかデジタルかで,
上がデジタル駆動:デジタルが土台 ↔ 下がデジタル拡張:古典的スポーツが土台
になっている.
元の論文には対角線上にもvirtual ↔ physicalの分類があったのだが,今回は不要だと考えたので削除した.
以下にそれぞれの詳細と具体的な例を示す.
➀ デジタル化型スポーツ (Sport Digitali sation)
このジャンルのeスポーツは,伝統的なスポーツをデジタルゲームにしたモノが該当する.例えば,先の例ではWBSC eBASEBALL™パワフルプロ野球やTic Tac Bowが該当する.ほかにも論文内ではNBA 2K League(↗)やFIFA eWorld Cup(↗)といった,実際のプロスポーツチームやアスリートとフランチャイズ契約を結んだゲームも取り上げられていた.
このジャンルのeスポーツは,従来スポーツマネジメントの分野で研究・実践が行われてきた商品化、スポンサーシップ、チケット、メディア報道などと絡めやすい.つまり,カネになりやすい.
既存のスポーツクラブにとっても,新しい収益源として活用されやすい.
主に2Dのビデオゲームの形式が主流で,没入感や身体活動量は少ない.
使われるテクノロジーもコンピュータがメイン
② マルチプレイヤー対戦ゲーム型 スポーツ (Competitive Multiplayer (Computer) Games)
いわゆるビデオゲーム.
特にインターネットにつながっている状態で,プレイヤー同士で競い合うようなゲームが主流.例えば,FortnightやLiage of Legends(↗)などが該当する.このような,大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム(MMOG)は、プレイヤーに共有された体験を提供し,、ゲーム内での名声を得たり,オンラインコミュニティ内での社会的なつながりを築くことができるとされる.
個人的に面白いと思ったのはDefence of the Ancients (DOTA)の人間1人と人工知能4人が同じチームで協力して競技を行った事例(Salicki, G, W. ,2018 ※現在リンク切れ)
少なくともゲームの世界では,共闘する仲間が人間ではなくとも同じようにゲームを楽しむ事ができる.
このジャンルのeスポーツも身体活動は少なく,コントローラーの操作が主流.
③ デジタル拡張型スポーツ (Digitally enhanced Sports)
伝統的なスポーツをデジタル技術を用いて強化した新しい形のスポーツ
論文内で具体的なゲームタイトルや製品は紹介されていなかったが,
目的は,新たな体験の創造、新たな観客の獲得、マルチプレイの選択肢の増加、新たなスキルへの挑戦、そしてもちろん楽しさなど多岐にわたる。
フィジカルスポーツを強化するためのデジタル技術や没入型技術の利用
のようなことが書かれていた.
例えば,Altimiraら(2016)が行った報告は興味深い.
この実験ではユーザーは,デジタルディスプレイを通してテニスを行うのだが,ユーザーの心拍数に応じてゲームの強度を調整する.
このようなデジタル技術を用いたゲームバランスの調整は,スポーツの本質的な価値を変える可能性がある.これは後程,改めて記述しようと思う.
他には,ARゴーグルをつけて仮想のランナーと競争・ランニングのペースメーカーをしてもらうGostpacer(↗)や,先ほど挙げたインドアサイクリングのZwiftなどもこのジャンルに属すると考えられる
このジャンルは古典的なスポーツ同様,身体動作が伴う.
デジタルテクノロジーは身体や空間の拡張として機能し,まったく新しい競争体験を生み出す.
④ 没入型リアリティスポーツ(Immersive Reality Sports)
最後のジャンルは,没入空間で行われる全く新しいスポーツである.
主にVRやARの様な,複合現実技術と共に行われる.
プレイヤーはアバターとして没入空間の中でスポーツを行う.
論文内では,Echo Combat(すでにサービス終了)やSpace Junkeis(↗)などの具体例が紹介されていたが,あまり目立ったサービスやタイトルがない印象.もう少しディグる必要がありそう…
先に紹介した,バーチャルテコンドーも広義にはここに含まれるかもしれないが,テクノロジードリブンなのかテクノロジー拡張(enhanced)なのかはビミョーなところ.ARを用いたスポーツのHADO(↗)はここに近いかもしれない.
いずれにしても今後コンテンツの急増が見込まれる領域なのは間違いない.
Apple Vision proのリリースによりMR・VR技術の注目度は高まる.
このジャンルのeスポーツは,従来のeスポーツとはまた少し毛色が異なる.
古典的なスポーツの制約から脱却し,まったく新しい身体と空間,それに伴う体験を提供する.
💭議論とか感想とか
まとめ(自分用)
モヤモヤしてたことがすっきりした感がある.とりあえず改めてまとめてみる.
まず,左右の軸は,身体活動の大小を表している.
コントローラーやスマートフォンのようなインターフェースで行う左側のものは,手先と神経系の競争になるので身体活動量が少ない.参入障壁の低さ,やりなれたゲームという印象が強いため大きなマーケットになっている.現在eスポーツと呼ばれるもののメインビジュアルはこちらだと思う.一方で,僕が面白いと思うものはデジタルによる空間や身体の拡張,身体動作を伴うeスポーツだ.これはゲームの延長というよりも,スポーツの延長ととらえるべきだ.伝統的なスポーツが持っていた制約をデジタルの力でいかに解決していくかということに焦点があてられる.
次に縦の軸は,世界観や軸足がフィクション/ノンフィクション(リアル)という分け方ができる.
(改めて見ると翻訳があまりうまくいっていない気がするけど,置いておいて…)
軸の上側は,軸足がフィクションだ.人間がそうできるあらゆるものが対象になる.目的もルールもすべてフィクション.宇宙が舞台なものや空が飛べることが前提といった人間の妄想をデジタル上で解消している.一方で軸の下側は,現実の人間や質量が前提になる.デジタル化型スポーツは,実在するアスリートを起用するし,デジタル強化型スポーツも目標はリアルスポーツの問題解決だ.
(そもそもスポーツは社会とは離れたフィクションの中に存在するので,この分け方はあまり良いものではないけど,言いたいことはわかる.)
感想
eスポーツについて議論するときにいい材料になりそう.
これまでモヤモヤしてたeスポーツのジャンル分けをうまくしてくれてるなと思った.
ただ,多くの人が抱えている「単なるゲームをスポーツに無理やり近づけてる感」はより助長してしまう気がした.身体活動の有無がスポーツらしさなのか?伝統的なスポーツでも野球とサッカーでは身体活動量は全く違う.ましてやアーチェリーとかゴルフとか,そこまで身体活動量としては多くないものもスポーツなら,なぜeスポーツはスポーツと呼べないのか?みたいな反論はあるけど,結局身体活動を指標にしちゃってるじゃんみたいな自己矛盾を感じた.eスポーツはスポーツなのか,スポーツはリアルなのか.そんなことをもう少し考えてみようと思った.
🙇♀️ 次回予告とお願い
最後までご覧頂きありがとうございました!
次回は,「eスポーツリサーチ:eスポーツ研究の簡易的なレビュー」を予定しています!ぜひ,ご覧ください
また,筆者はしがない無職の大学院生です.
自身の研究を通して,世の中に何か貢献できないかと考えこのnoteを投稿しております.noteの投稿はすべて無料で行う予定です.(※おそらくは…)
研究活動,そして僕自身の生命を継続していくためにもご支援いただけると幸いです.
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