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「とある1日を描く物語」のケレン味


摩天楼を夢みて

もともとピュリッツァー賞受賞作の舞台劇が、1990年代の映画化を経て来年、再び米ブロードウェイで舞台化。というニュースが数日前報じられまして。

あまり目立ったニュースでもなければ、日本でも話題になるはずのないトピックなんですが。より深い引き出しへの、ちょうどいいセグエだな、などと思ったので引っ張り出しちゃいます。

なにせ確定している出演陣が、登場するゲスい役柄たちを演じるのにぴったりなキャラクター俳優ばかりですし。合ってる。

キーラン・カルキン(HBOドラマ「メディア王 〜華麗なる一族〜」)
ボブ・オデンンカーク(AMCドラマ「ベター・コール・ソウル」)
ビル・バー(『マンダロリアン』、スタンドアップ番組各種)

少なくとも来年のトニー賞で話題に上がることになるんじゃないかとは勝手に想像してます。そんな舞台劇の映画化作品『摩天楼を夢みて』(1992年)、原題「グレンギャリー・グレンロス」は、この年代に埋もれたカルト的映画のひとつです。

舞台劇ならではの構成

映画『摩天楼を夢みて』は、ピュリッツァー賞受賞者の劇作家デビッド・マメットによるロンドンおよびブロードウェイ初演の舞台劇を原作にした作品。

監督は、のちに「ハウス・オブ・カード〜野望の階段〜」の各話演出や『フィフティ・シェイズ』2・3作目を手掛けることになったジェームズ・フォーリー。

映画でも、目玉はなにより出演陣の名演でした。見事なおじさま勢がスクリーンタイムをたっぷりと占有します。さすがは語りの多い舞台劇が原作。

アル・パチーノ(『ゴッドファーザー』シリーズ)
エド・ハリス(『アポロ13』「ウェストワールド」シリーズ)
ジャック・レモン(『アパートの鍵貸します』)
ケビン・スペイシー(『ハウス・オブ・カード』シリーズ)
アラン・アーキン(『リトル・ミス・サンシャイン』)
アレック・ボールドウィン(『30 ROCK/サーティー・ロック』シリーズ)

ジャック・レモンとアラン・アーキンという両名優の晩年を飾る名作でもあり、いまやそれぞれの理由で業界から完全に干されてしまっているケビン・スペイシーとアレック・ボールドウィンの若い頃の輝きを見るのにも最適。

肝心の物語は、というと。

「ある日突然、売り上げのノルマを嵩上げされたシカゴのセールスマンたちが戦々恐々となり奔走する」という出だし。ノルマ締切まで中1日。売上首位で高級車をゲットするか? それとも最下位でクビになるか? 中年男たちが生活と名誉をかけて悪戦苦闘し、違法な手段を使ってでもお互いを出し抜こうとやり合う。そのスリルが泥臭くて、生々しい。

強烈なのは「たった1日のあいだに起きる物語」であるという時限的な縛りの中で、逆に感じる「濃密さ」です。実際には1日目の夜にはじまり、丸一日経過してから翌朝までの物語なので24時間よりも若干長いのですが。「時間経過を騙しやすい」映画やドラマで、あえて「1日の波乱」を再現することのチャレンジが、肝。

ちなみに、次へ進む前に「摩天楼〜」について、もうちょっとだけ。

圧倒的名言「ABC」(余談)

この映画の名言は、なんといっても「ABC = Always Be Closing(常に「締結」せよ)」。冒頭から「セールスマンは常に!必ず!なりふり構わず売上を上げてこい!」の大演説がはじまります。もうこれはクリップだけでも必見の緊迫感…というか爆笑案件。

とにかく酷なものだから、笑えてきてしまう。正直、これだけでご飯何杯かいける(=営業マンとだって数十分会話を切らせない)気がしてしまう。営業マンになる人の気が知れない、とは思ってしまいますが。

営業マンのみなさま、尊敬であります隊長。敬礼。

では本題の、その1へ。

「とある1日を描く物語」の数々

そんなわけで「摩天楼〜」の物語構成に思いを馳せていたら、同系統の名作がたくさんあるなと思い至りまして。そこで、思いつく範囲で、同じように「ある1日を描く物語」をひとしきり、並べてみようと思ったのでした。

最近のものから1970年代くらいまで、10年刻みで何本かピックアップしてみています。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)
米女優オリヴィア・ワイルドの初監督作品。高校の卒業記念パーティでネクラ真面目女子ぶりを振り切ろうと無理に無理を重ねる女子二人組がトラブルに巻き込まれていくサマを描く青春映画。お酒からドラッグからパーティからパーティへのハシゴまで、ひとまずフルコースをしっかり吸引できる。余韻はしっとりな一本。

『ゼロ・グラビティ』(2013年)
言わずと知れたメキシコ出身のスリー・アミーゴ(=三大映画監督)の一人、アルフォンソ・キュアロン監督作品。正直、いまみるとCGが多少見劣りするのですが、大スクリーンでリバイバル上映があれば確実に足を運びたい一本。宇宙デブリ強襲後から無重力空間を彷徨い、生存をかけて孤軍奮闘する宇宙飛行士(サンドラ・ブロック)の物語は、全編が必見の名作。

『トレーニング・デイ』(2001年)
アントワーン・フークワ監督作品。ベテラン刑事のもとへ配属された新米麻薬捜査官が、汚れた上司の悪行と向き合う勤務初日の恐怖の突貫訓練を辿る。大俳優デンゼル・ワシントンが悪に染まり切った法の番人を演じているのが衝撃的。白人が主人公の黒人ギャング映画、というところが、まぁその…ですが。サスペンス満点。

『ビフォア・サンライズ』(1995年)
リチャード・リンクレイター監督作品。もう、こんな旅先での出会い、したい。いや、させて。アメリカ人旅行者の男性(イーサン・ホーク)とフランス人留学生の女性(ジュリー・デルピー)が、翌朝には別れることを知りつつウィーンの街を練り歩きながら語り明かす。「ひと晩」というだけでなく、長回しのワンテイクでひたすら二人を移す空気感も魅力。続編『ビフォア・サンセット』(2004年)『ビフォア・ミッドナイト』(2014年)とセットで。

『バッド・チューニング』(1993年)
同じくリチャード・リンクレイター監督作品。10代の男女が、いわゆる野外パーティで恋愛やら友情やら酒やらクサやら、あらゆる煩悩に突き動かされて過ごすひと晩の狂想曲。オスカー俳優マシュー・マコノヒーのアドリブの名セリフ、いわゆる「オーライ三唱(筆者訳)」を聞くためだけに観てもいい。(どうでもいいんですが、遡るほど日本語版の予告が見つからなくなりますね…残念)

『ザ・ペーパー』(1994年)
ロン・ハワード監督作品。歴史に埋もれがちな佳作ですが、ゴシップ新聞社の編集部の入稿までのひと晩を追う、絶妙に下世話なドラマ。90年代らしい濃い味付けなのはご愛嬌。有色人種に向けた白人救済志向が強いのも魅力を風化させてはいるものの。当時トップのキャスト陣が勢揃いなのは地味に驚く。マリサ・トメイがかわいくて、グレン・クローズの堅物ぶりもかっこいい。

『ブレックファースト・クラブ』(1985年)
80年代青春映画の代名詞、ジョン・ヒューズ監督作品。学校で居残りを言い渡された、性格や社会的背景がまったく異なる高校生たちが青春を語り明かすひと晩の物語。サウンドトラックから「ブラット・パック」と呼ばれるに至った当時の若手俳優たちのスカしぶりがポイント。

『アメリカン・グラフィティ』(1973年)
『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスの出世作。先出の『バッド・チューニング』のテンプレートはほぼこれと言っても過言ではない。ここにも若きハン・ソロことハリソン・フォードが出ているのがオツ。予告編が古すぎるので、そんなハリソンの長ゼリフがフィーチャーしたクリップを下に添付しました。何気に俳優時代のロン・ハワードもいい役で出ているのは要チェック。

ほかにも『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)とか『ダイ・ハード』(1988年)とか『12人の怒れる男』(1957年)とか『真昼の決闘』(1952年)とか、挙げればキリがありませんでした。

考えてみれば初代『スター・ウォーズ 新たなる希望』(1977年)だって、実はほんの数日間にわたる話でしかないわけで…。いや、思ったよりも短い期間で展開する物語は多い。

そして改めて並べてみると、なんとなく共通する魅力も見えてきます。

例外も多々ありますが、目立つのは、粒立ちする俳優陣のアンサンブル。スターが一人で背負いきる一本線だけではなく、短い時間軸の中で展開する群像劇も多くあることが、「ある1日の物語」の一番の見どころです。

そうして最後に、本題その2。

そんな群像劇といえば…。

今年(来年?)公開の新作も

また一作、これらと肩を並べる同系列作品が公開を控えています。

こちらも、要チェックなのは出演俳優陣。

ガブリエル・ラベル(『フェイブルマンズ』)
コーリー・マイケル・スミス(『メイ・ディセンバー ゆれる真実』)
フィン・ウルフハード(『ストレンジャー・シングス 未知の世界』)
ニコラス・ブラウン(『メディア王 〜華麗なる一族〜』)
ウィレム・デフォー(『哀れなる者たち』)
J・K・シモンズ(『セッション』)

米NBCで1970年代に放送開始した生放送コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ(=SNL)』。70年代アメリカを代表する人気生番組となり、いまも50年以上続く国民的テレビ。筆者は2000年代後半からかろうじて親しんだ組ですが、70年代の初期キャストはその後の映画シーンでも名を残したスターばかりで、誰もが知る顔ぶれです。

本作は、そんな番組の記念すべき初回放送を迎えるまでの1日のドタバタのドラマを描く群像劇。ハリウッドでもいまをときめく若手俳優陣が出演しつつ、かつベテランが脇を固めているのは確実にプラス。

『JUNO/ジュノ』(2007年)『マイレージ・マイライフ』(2009年)などの一方で『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2020年)なども手掛けているジェイソン・ライトマン監督という点は…若干の心配もありますが。

アメリカでの公開は2024年10月。

となると日本では…2025年? 題材の知名度が日本では相当に低い分、公開すらされないということがないといいですけど。

個人的に楽しみにしています。

結論

ドラマは一日一日にあり。
なにも年月を跨がずとも、誰もがスリルとサスペンスの連続を生きている。
そして。

時限的な縛りが効果的な群像劇は、物語としての強度が強い

もはや数十メートル先からみなさんにもきっと見えていた結論ですね。
真理なのですから、恥ずかしげもなく晒して締めます。
気分はレッツ群像劇!なのでした。

いつか痺れるような群像劇を、自分でもこしらえてみたいものです。


文責:


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