マジでどうでも良い事つらつら3

■バンドマン、椎茸が敵■

前回の続きである。

私が小学校一年生の時の母校の給食は、洒落にならんほど半端じゃなく不味かった。カレーが楽しみでない給食など信じられない話なのだが、
火が通ってなくて野菜が固いとか味付けが雑だとか、あんかけがダマになっているどころかダマしか入っていないなど、詳細は省くがとにかくハチャメチャに不味かった。
給食センターではなく給食室でおばちゃん達が作っていたのだが先生達も同じ物を食べるのでおそらくさすがに苦情が入ったのだろう。次学年時にはなんとか改善されたのだが、私達は一年それを経験するだけで済んだが私の二人の姉含む先輩方はどれほどの期間あのクソ不味い給食に悩まされたのだろうか。不憫である。好き嫌いはいけませんなんてレベルではない、嫌いな食べ物量産期間であった。

そんなある日事件は起こった。
嫌いな食べ物は牛乳で流し込む事で難を逃れていた私だがその日のメニューの「きのこスープ」に油断してしまったのが全ての元凶だった。
きのこスープというより椎茸スープだというぐらい大量の椎茸が入っていたのだが、スープなのだからそのまま呑み込んでしまえば良いと思ったのがそもそもの間違いだった。
大きく口に含んでスープを呑み込んだのだが、奥歯の方に引っ掛かって残った椎茸を噛み潰した瞬間に、今まで味わった事のない許容し難い風味が口一杯に広がった。噛んだ瞬間の食感も舌触りも味も香りも何もかもダメだ。
激しく口に合わない椎茸。今にも吐きそうな私だったが、粗相をしでかすと竹センに怒鳴られると思って何とか堪えようとした。
しかしどうしてもダメだ、だけど吐いたら怒られる。込み上げてくる物を吐き出さないよう上を向いて耐えるのが精一杯だ。口の中に溜まった嘔吐物がゴボゴボと音を立てていた。汚い話ですまない。
そこで満を持して登場した竹センが私に向かって「呑めぇ!呑み込めぇ!」と怒鳴り付けてきた。
怒られるのが怖くて必死で呑み込もうとするがもう限界だ。
私は自分の机の上に盛大に吐き散らかし、ブツブツ文句を言う竹センと共に吐瀉物を片付けた。
その日の帰り道、臭いが取れない自分の手の平を見つめながら大きな溜め息をついて家路についた。あれ以来、私は椎茸が一切食べられなくなった。

給食当番は毎週変わるのだが、1から10までの番号を割り振られ、
記憶は朧気だがご飯(パン)、大きいおかず、小さいおかず、牛乳(デザート)、食器、以上5種を2人ずつペアになってそれぞれ給食室から運んでくる役割があった。
その週の10人の当番の生徒達の運ぶ物は1日ごとに順番に変わるため、それを分かりやすくするために番号だけがクルクルと回せる細工を施してある円グラフのような物が教室に貼ってあった。
1・2番の生徒は月曜日はご飯、火曜日は大きいおかず、水曜日は小さいおかず、という具合に、今日の係が終わると番号を一つずらして、今日は何番の人がどれを運ぶか確認出来るようになっていた。
しかし、説明があったのかなかったのかは覚えていないが、私はこのグラフの読み方が全くわかっていなかった。何で皆これを見てどれを運べば良いかわかるのかが不思議でたまらなかった。
元々臆病で怒鳴られるのがとても苦手だった当時の私は、竹センにまた怒られるのではないかと思いそのグラフの見方をどうしても聞く事が出来なかった。
そこでいつもペアを組んでいたカワムラ君という男の子を頼りにいつも給食を運んでいた。
このカワムラ君、すごく馬が合う子で放課後も彼の家でも自分の家でもよく遊んでいたのだが、夏休みに入るよりも前のかなり早い段階で彼の転校が決まった。
彼の最後の登校日の夜、幼い私は母親にもう会えない彼の事を話しながらワンワンと声をあげて泣いた。
母は、初めての親友との別れに悲しみを隠せないのであろうと私を優しく抱き締めて慰めてくれた。
私の頭の中は「明日からどうやって給食当番を勤めれば良いのか」ということで一杯だった。別れが悲しくないわけではないがそんな事よりもどうすれば竹センに怒られずに済むのかという事の方が重要だった。

それからしばらくして私は腹が痛いと仮病を使うようになり登校拒否になりかけた。しかし母が学校に連絡すると律儀に迎えに来る竹セン。
さすがに親の前で怒鳴ったりはしなかったが、恐怖の竹センを目の前にしてそれでも登校拒否を貫ける程に度胸のある私ではない。
私の登校拒否は見事に未遂に終わり、また不味い給食の汁と辛酸を舐める日々が始まったのだった。登校拒否の理由が給食が嫌だからなんてなんともマヌケな話だが、当時の私からすればまるで毎日が世界の終わりのように感じていたのだから、少しぐらい同情してくれても良いのではないか?

余談だが小学4年生の時にひょんな事から件のカワムラ君と再会したのだが、それ以来、彼とは全く会っていない。
元気にしているのだろうか?
彼にもしも会う事が出来たなら、あの竹センの恐ろしさを存分に語り合いたいモノだ。
肉まんに入っている椎茸ぐらいなら食べられるようになった事も付け加えて、話に花を咲かせたいものだ。

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