バンドマンのエレジー11

■バンドマン、ヨッボヨボ■

CDをリリースして大々的に回るツアーが終わっても、大体月に10本近いライブをこなし、そのうち半分以上は遠征先へ赴き演奏する生活を続けていた当時。
私が最も悩まされたのは金銭的な問題ではなく腰痛と慢性的な不眠による体調不良だった。
通院しなければならない程ではなかったが元々悪かった腰はライブの回数を重ねるごとに確実に悪化した。
だんだんと日々の生活に支障をきたすようになり、その上なぜか毎晩寝つきが悪くただ目を閉じてじっとしながら微睡んでいる状態のまま熟睡出来ず気付けば朝という事もしばしばであった。

同じ頃、昔からの知り合いが接骨院を開業するとの事で連絡をもらい、ぼちぼち病院に行かねばなるまいと思っていたのでお祝いも兼ねて診てもらう事にした。
再会の挨拶もそこそこに本気で辛かった私は早速診てもらったのだが、想像以上に状態は悪かったみたいだ。
骨盤は歪んでるし背骨は曲がってるし、股関節も変な事になってるし足の付け根はズレかけてるし、それらがおかしいせいで真っ直ぐ歩けていないし、おまけに足は臭いし給料は安いしで全体的にガッタガタも良いとこであった。
不眠もおそらくこれらが原因であろうとのこと。足のにおいと薄給は関係ないが。

そして、そもそも日常生活を送るうえで必要な筋肉が無さすぎて体をバランス良くしっかり支えきれていないのだという。
さらには何と言う部位だったかは忘れたのだが、なぜか部分的に鍛えようとしなければつかない筋肉ばかりが発達している。一体どんな生活を送ればこんな風になるのか不思議がっていたので普段の自分がどんな生活サイクルを送っていくのか話してみるとそれもそのはずだと笑われた。

毎日毎日ベッドの上であぐらを書いての作曲やパソコンでの事務作業、
度重なる遠征の往復で乗る夜行バスの狭い座席と固いシートに無理な姿勢、移動中の高速バスと電車内での仮眠や宿にしていたネットカフェでの就寝時の環境。
他が酷くてあまり気にならなかったが、おかげで首も相当おかしな事になっていたらしい。
ちなみに通常つくはずのない筋肉は高速バスでのおかしな寝相を長時間・長期間続けていたせいでついたらしい。夜行バス筋、なんて言葉があったとしたら私はこの時点でムッキムキである。

対策としてその日から日常的に筋トレをして最低限の筋力をつけること、出来る限り変な姿勢で眠らずに体を冷やさないようにすること。
まずはその2つからやってみることにした。餅は餅屋。やはり専門家に聞くのが一番良いのだ。あとは道中と旅先での過ごし方を工夫して実践していると、しばらく経つ頃には症状はかなり改善されていた。

今でも時折顔を出す腰痛との付き合いは、学生時代ベッドから寝ぼけて転げた先にあったスーパーファミコンのACアダプターに腰から落下してしまってからの付き合いだ。あのコンセントを刺す部分だ。
件の接骨院の友人よりも長く連れ添っているわけだが、
根本的な解決方法は病院に行くでも筋トレするでも正しい姿勢を心掛ける事でもなく、移動を新幹線に変えて安くてもビジネスホテルに泊まりちゃんと風呂に入って温まって眠る事である。
なので金銭的に余裕のある方からすればこんな共感も出来ないもん読んで何が面白いのかと思う。
売れっ子じゃあるまいし電車・バスでの移動でも機材車での移動でも常時素晴らしい環境を整えられるバンドマンは少ないのだ。

人気も無ければ金も無い、モテない食えない宿が無いなんてナイナイ尽くしの三重苦に苦しむバンドマンにどうか毛布の一枚でも差し入れてやってもらえないものか。
ついでに足が臭くて堪らない。なんとかしてもらえないものか?

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