鈴木江理子 ・児玉晃一 編著『入管問題とは何か』

入管施設における死亡事案に関しては、先日読んだ『入管解体新書』の感想に書いたので、ここでは割愛する。/

《社会世界の端役である女性たちには、最後の行き場として、あらゆる危機の影響が、どうしようもなく収斂するのである。》(ピエール・ブルデュー『世界の悲惨Ⅱ』)/

この国において、あらゆる矛盾が収斂していくのは、非正規滞在の外国人・難民の下ではないだろうか?
逆に言えば、入管問題にはこの国の諸制度の根底にある非人間性が端的に現れているのではないだろうか?/

ここで、五十年前の言葉を引用したい。/

【入管問題は決して在日「外国人」の問題でなく、抽象的な人権・人道一般の問題でもない。それはアジアにおける常なる抑圧者たる日本人=我々自身と、被抑圧者たる朝鮮人、中国人との関係ーーわれらの内なる差別(略)ーーを問題とすることであり、さらにはそれを規定する要因、すなわち明治維新以来の近代化に名を借りたアジア諸民族に対する抑圧と、六〇年代後半から明らかにその姿を見せはじめた日本帝国主義の自立化=アジア侵略を問題とすることなのである。】/

五十年たって入管施設に収容されている人々の国籍こそ大きく変化はしたが、問題の本質はなんら変わっていないのではないか?
ひょっとしたら、入管問題には、潰え去った日本帝国主義の夢の残滓がいまだに燻り続けているのかも知れない。/

コロナ禍において、アメリカではアジア人に対する激しい暴力が噴出した。
日本では外国人に対して、そこまでの暴力は見られない。
だが、異様に低い難民認定率(※1)や無期限収容などの難民鎖国とも言うべき政策は、アジア・アフリカの人々に対するヘイトの日本的な表現形式なのではないだろうか?/

【問題点 
(略)
収容の必要性を検討せずに収容することができること
事前の司法審査がなく、入管当局のみの判断で収容の諾否が判断され、事後的にも効果的な司法による救済が保障されていないこと(略)
退去強制令書による収容には期限がなく、無期限の長期収容が可能であること】

【これら、条約違反(※2)の指摘を受け、条約に適合するように制度を改正するためには、次のことが必要である。
収容の要件を「逃亡すると疑うに足りる相当の理由」に限定すること
収容に事前の司法審査を導入すること
収容の上限を定めること】/

◯国連特別報告者らによる共同書簡:
二〇二一年入管法改正案については、国連の移住者の人権に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会等による共同書簡が日本政府に送付された。
同書簡は、「出入国管理関連の理由による拘禁を含む全ての拘禁は、裁判官その他の司法当局によって指示・承認されなければならない」こと、裁判所に拘禁の適法性を問う権利は独立した人権であり、その欠如は人権侵害にあたるとされており、この権利は、自由を奪われている移住者、庇護希望者、難民、無国籍者を含む、すべての人々にも適用されるものであることを指摘した上で、改正案が規定する「収容に代わる監理措置」が過度に制約的であること、司法審査及び収容の上限が欠如していることに懸念を表明している。/

(※1)日本の難民認定数と難民認定率の国際比較:
日本:認定数74、認定率0.7%/
ドイツ:38,91825.9%/
カナダ:33,80162.1%
フランス:32,57117.5%
米国:20,59032.2%/
英国:13,70363.4%/
(「難民認定数の各国比較(2021年)」難民支援協会)/

(※2)条約違反:
自由権規約第九条一項及び同四項、拷問等禁止条約第三条。/

◯仮放免中の就労について:

《青年 親父と俺だけ 仕事しちゃいけないの? (略)
 青年 なんで? 
 職員 仮放免のルールだよ 
 青年 なにそれ 法律だから正しいの? (略)
    どうやって生きていけばいい? 》
(映画「東京クルド」(監督:日向史有)より。)/

【そもそも、仮放免許可に付することのできる条件は、逃亡防止のためのものに限定され、就労禁止を条件とするのは違法である。(略)
在留資格のない者については、生活保護の受給資格も否定されており、(略)就労を禁じることは生存権そのものを奪うことに繋がる。
名城大学の近藤敦氏は、この点、「退去強制できない仮放免者が生活する上では、労働か社会保障の受給が認められなければならない。退去強制できない無国籍者を仮放免しながら、労働も社会保障の受給もともに認めないことは、ホームレスとしての困窮生活を強いる『品位を傷つける取扱い』といえ、日本国憲法一三条に反する」としている。(略)】/

《正直なところ日本の難民政策は日本にとって国家的な恥だと思う》(ハーバード大学フェイザー博士。BSTBS:報道1930517日の放送より。)/

この国の水はとても冷たい。特にアジア・アフリカ出身者には。

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