『入管の解体と移民庁の創設 出入国在留管理から多文化共生への転換』(加藤丈太郎編著)
一人の著者が書いた本ではなく、「移民・ディアスポラ研究会」のメンバーの論文を編んだ論文集。
執筆者の中には、元入管職員4名も含まれている。/
◯加藤丈太郎「出入国在留管理庁の解体と移民庁の創設」:
【「高度に発電した政治共同体であれ文明であれ、そのさらなる発展のためには、異質性を受け入れながらハイブリッド化することが絶対的に要請されている」】(ハンナ・アーレント)/
法務省は、入管法をあらゆる法の上位に位置付けようとするが、これには、
「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は(略)外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」としたマクリーン訴訟判決が影響している。
法務省は、これを基に、外国人においては入管法を他の法より上位に位置付け、入管法の執行者としての自己をあらゆる権力の上位に置く。
この不合理を解消するためには、移民に関する総合調整を担う新たな省庁が必要である。/
◯指宿昭一「ウィシュマさん死亡事件」:
【2021年3月6日、名古屋出入国在留管理局(以下、入管)でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した。】/
事件の詳細は、ここでは割愛する。
ウィシュマさんの葬儀の際、妹のワヨミさんは名古屋入管局長から説明を受けたが、局長から謝罪の言葉はなかった。
ワヨミさんは、【「姉が貧しい国の人だから、このような扱いをしたのですか?もし、姉がアメリカ人なら同じことをしましたか?」(略)】と問いかけたが、局長から返事はなかった。/
ワヨミさんとポールニマさんは、収容中のウィシュマさんの映像を観た。代理人の同席は許可されなかった。
衰弱した姉の姿や入管職員の対応に衝撃を受けた2人は体調を崩し(ワヨミさんは嘔吐した)、視聴を中断した。
ワヨミさんは、【姉は動物のように扱われ、殺されたようなもの。人道的な対応もまったくない」「(ビデオ映像は)外国人がみな見るべきだ」と語った。】
ワヨミさん、ポールニマさんは、ビデオ視聴後、映像や音声がフラッシュバックしたり、夢に出てきたりする状況が続き、健康を害したワヨミさんは9月に帰国した。/
その後、ウィシュマさん死亡事件国家賠償請求訴訟弁護団が結成され、あらためて5時間分のビデオをポールニマさんと弁護団が視聴した。
【初回の視聴後、ポールニマさんは、泣きながら、(入管が)救急車を呼べば、姉は死ななかった。姉は(入管に)殺されたのと同じだ」】と述べた。/
【脱水と低栄養を含む複合的な要因による多臓器不全が死因である】とする鑑定書があるにもかかわらず、ウィシュマさんの死亡事件に関しては、殺人罪、保護責任者遺棄致死罪、業務上過失致死罪の全てについて、不起訴とされた。/
2007年以降、入管施設内で18名の被収容者が亡くなっているが、入管は一度も責任を認めず、いかなる抜本的改革も行われていない。
現行の入管・難民認定制度は、アジア・アフリカからの難民・移民問題に対する日本式「最終解決」であり、入管の長期収容は日本版「ガス室」なのではないだろうか?/
【内なる差別と闘い、たとえ絶望の中にあってもあきらめず、持続的に闘うこと。これが、私たちに求められている。】/
◯平野雄吾『「無法」地帯と暴力ーー入管収容における暴行、懲罰の実態』:
入管では、被収容者に対する「懲罰」や隔離措置が増加している。
入管難民法は61条で「被収容者の処遇」を、「保安上支障がない範囲内においてできる限りの自由が与えられなければならない」とした上で、当局が必要に応じ所持品検査、通信の禁止・制限ができると規定し、その他は法務省令で定めるとしている。
被収容者の制圧や隔離も、国会で審議されることのない被収容者処遇規則という省令に基づいている。
刑務所にも制圧や隔離は存在するが、それは国会での承認を経た刑事収容施設法に基づいたものである。/
日本の入管施設では、法律ではなく、省令で全てを決めることで、法は宙吊りとなり、被収容者はイタリアの哲学者アガンベンの「剥き出しの生」へと投げ出され、生殺与奪権を握られている。
こうした中で、入管施設では、1993年以降、26人が死亡している(2023年1月時点、うち8人は自殺)。/
◯木下洋一「入管の恣意的な判断」:
40年以上も前のマクリーン判決によって、入管の広範な裁量権にお墨付きが与えられているかのようだが、これには疑義がある。
泉元最高裁判事は、マクリーン基準に便乗して、裁量権統制の法理を踏まえた個別審査を回避することは許されず、個別審査も、憲法、条約等に従って行わなければならない、とする。
また、水上元東京入管局長も、マクリーン判決以降、国際人権条約等の人権諸条約、難民条約に批准、加入しているのだから、「この判決は改められなければならない」と述べている。/
2021年の毎日新聞のインタビュー記事で、高宅元法務省入国管理局長は、在留特別許可について、要件が不明確で不服申立制度もないので、行政不服審査法、行政手続法を入管の手続にも適用するための法改正が必要だと述べている。/
◯小林真生「レイシズムを根底にもつ入管の課題ーー名古屋入管収容者死亡事件を手掛かりに」:
バウマンは、官僚は指導者が定めた目標に対して、上意下達の構造の下で効率的な実行を追求して、その完遂を目指すとした。ヒトラーは、ユダヤ人の領土内からの排除を目指したものの、具体的な大量虐殺のデザインは官僚組織によって行われた。官僚機構は、いったんある目標へ動き出すと、合理性や規律の順守が求められ、個人の道徳や倫理観では組織の動きを止められなくなる、とバウマンは指摘している。
ホロコーストが行われた当時も、民衆がユダヤ人の殲滅を全面的に支持したわけではなかった。ユダヤ人に対する公職や経済からの追放、「水晶の夜」などの暴力、周囲からユダヤ人が消えていく状況に対して、民衆は個人として殆ど関与せず、見て見ぬふりや政府への追従、不干渉といった姿勢を示したのだ。/
これは、世の中で悪が行われているとき、民衆の無関心や黙認することの罪を指摘しているのではないか?/
◯近藤 敦「諸外国の移民庁の成り立ちーー入管・統合政策担当機関と収容・永住・帰化のあり方」:
欧米諸国の制度は非常に興味深いが、ここでは「収容」について比較してみたい。
日本:①収容期間:期限なし(3年を超える長期あり。)②司法審査:なし/
ドイツ:① 収容期間:原則最長6か月②司法審査:裁判官の命令が必要/
フランス:① 収容期間:原則15日、例外的に最長90日②司法審査:例外の場合は裁判官の命令が必要/
イギリス:① 収容期間:制限規定なし(判例で、合理的期間内に送還できないときは収容すべきでないとされている。)②司法審査:あり/
アメリカ:①収容期間:原則6か月② 司法審査:あり?(6か月を超える収容は必要性を審査。審査機関について、本書では不分明。)/
仮放免者には、就労が禁じられており、生活保護を受けることもできない。
誰もが映画『東京クルド』の青年と同じ疑問を持つだろう。
《どうやって生きていけばいい?》(日向史有監督『東京クルド』より。)
ひょっとすると入管は、食いつめた彼らが何か犯罪を犯すのを待っているのではないだろうか?
ねずみ取りの仕掛けのように、彼らが餌に食いつくのを手ぐすね引いて待っているのではないか?
また、入管施設における長期収容は、真綿で首を絞めるような緩やかな拷問ではないか?
責め具による拷問で身体を痛めつけるかわりに、出口の見えない無期限収容によって被収容者の精神を破壊して、抵抗の意志を打ち砕き、送還という至上目的を果たそうとしているのだ。
見れば見るほど悪魔的な制度だ。/
日本の入管・難民制度は、アジア・アフリカの外国人に対する国家による「ヘイト」だ。
アジア・アフリカからの難民・移民の命も大切だ!/
《国民とは同じ場所に住んでいる人々のことです。》(柳瀬尚紀『ユリシーズ1-12』)/
万世一系の天皇神話に基づき、古来からの単一民族神話によって排除型社会を構築しようとするよりも、ジョイスが『ユリシーズ』で示した国民観によって包摂型社会を築いて行く方が、僕たち自身にとってもより暮らしやすい社会になるのではないだろうか?/