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レビュー:「義父母の介護」 とにかく年寄りに免許を返納させるのはたいへん
村井理子さんの「義父母の介護」を読んだ。グイグイ引き込まれた。村井さんの書き言葉やそこから伝わるテンポが関西弁のそれで、私が生粋の関西人であるので読みやすかったというのもある。
でもそれ以上にこのエッセイが「あるある」で、ヒザをバンバン打ちまくる内容だったから、というのが大きい。
*
父、85歳。今年の9月末で86になる。その父が、免許を更新しようとしていた。まだ運転していたのは知っていたので、この春ぐらいからもう運転はやめるように。免許も返納の方向で、と言い続けてきた。父も「わかったわかった」的なことを言い、私も弟妹たちも今年の免許は更新しないものだと思っていた。
ところがどっこい。
免許を更新する気マンマンではないか!つい先日、いっしょにお昼を食べながらこの話をしたばかりなのに!趣味の音楽を続けるためにキーボードを持ち歩かなくてはならないと言うから、コンパクトな折りたたみのできるキーボードを買ってあげる(だから運転はやめてね)という話をしたばかりではないか!
「年寄り」と書いて「ガンコ」と読む。話が1回で終わらない!
これは、私一人で説得はムリだ。ムリよりのムリだ。きょうだいLINEで話を投げた。とにかく父に免許を返納させ、運転を止めさせること。ここはきょうだい一丸となって説得するのみ。
まず、きょうだいの間での認識のすり合わせが必要だということが分かった。きょうだいの中には「事故を起こしてお父さんがケガをするんじゃないかと心配」と言った者がいる。
違うねん。そこちゃうねん。ぶっちゃけ父はもうええねん。86や。人生おまけモードや。好きなことやってその途中で事故って怪我してそのままお看取りになったとしても、もう十分すぎるほど十分に生きた。本望やろ。
問題はそこちゃう。池袋の事故を忘れたんか。もう見た目にもわかるよぼよぼのおじいさんが事故った。そして亡くなったのは若い母親と幼い子どもだった。その事故の後も高齢者による事故が後を絶たない。あの時、私は思った。
なんで家族が車のカギを隠してでも運転をやめさせへんかったんや、と。老い先短いお年寄りに、これから先の何十年かの命を奪われた方に何と言って詫びるつもりだ。いや実際にはどんなに詫びたって亡くなった人は戻ってこない。家族として知らなかったではすまされへん……。
そして私は思った。うちもそろそろ父に運転をやめてもらわなあかんな、と。
ごめん。あやまる。高齢者に運転をやめさせるのがこんなに難しいとは思わへんかった。
とにかく「うん」と言わない。「自分は大丈夫や」の一点張り。
「安全運転してる」
「法定速度ぎりぎりの速度しか出してない」
「自分よりよぼよぼの人がいっぱい免許更新しに来てる」
「そんなん言われたら腹立つわ」
妹は単身乗り込んで父に当たって砕けたらしい。
「もう知らん!」と言って怒っていた。
いやいや、「もう知らん」では済まされへんのや。
何としてでもやめさせなければ。
父が1回運転するたびに、誰かの命が天秤にかけられていると思うとゾッとする。
それからきょうだいで協議を重ね、まずみんなの考えをまとめた。「お父さんが心配やからではないねん。他の人の命のことを考えてやめなあかんねん。これ一本でいくで」ということで、そこ一本で説得に当たることとした。
私と弟と二人で日にちを決め実家へ行った。滾々と説得すること1時間。前日に妹が説得に行ったときは鼻であしらわれ、追い返されたらしいが、それから父も少し考えたらしい。私たちが訊ねたときは落ち着いて話に応じてくれた。
お年寄りの楽しみを奪おうとは思っていないこと、ただしそれは誰かの命を危険にさらしてまでやるべきではないこと、父の晩節を汚したくないと思っていることを言って聞かせる。
父が楽しみにしているお年寄り仲間との音楽の演奏をどうしたら続けられるかを話し合い、代替案となりそうなことを提案する。車がなかったら行きにくい場所にあるところへは雨が降ったらタクシー、お天気がいい時は電動自転車を使う。
電動自転車は私も使っていてかなり遠くまで行っても苦にならないことなどを身振り手振りで説明し、実際に自転車屋さんまで行って乗り心地も試してもらった。近所のなじみの自転車屋さんが親切に相談に乗ってくれ、お年寄りでも扱いやすいミニサイクルの新古車を紹介してくれた。
それを私たちきょうだいからのプレゼントということで購入した。父はさっそく家まで試乗して、ラクチンだと喜んでいる。やれやれ、これでやっと車を手放してくれる……
だがまだ安心できない。自転車があるし、じゃあもう車を処分してもいいよね、というと「イヤまだ置いといてくれ」と言う。ナヌ?免許を返納したらどうしたって乗られへんねんで?というと「わかってる」という。
いーや、絶対わかってない。まだワンチャン乗ったろと思ってるに違いない。その日は弟も私も予定があり時間切れとなったため、それで引き揚げたが、一筆書かせることろまでやった方が良かったかもしれないと思う。
*
村井家では認知症になった義母から最後は車を取り上げていた。矯正撤収である。たぶんそこまでしないと高齢者は運転をやめない。その時は村井家でも義母さんが烈火のごとく怒って鬼電がかかってきたという。
どこの家でも高齢者から車を取り上げるのがほんとに大変よね、と深く共感した。
我が家は義父母はさっさと施設に入ってくれたので心配ないが、問題は自分の両親だ。これからきっと村井家と同じ葛藤や闘いがあるのだろうな、と他人事ではなかった。
タイトルだけ見るとものすごい難しい本かと思うが、高齢者となった親の「あるある」がテンポよく書かれていて読み物としてとても面白い。それだけではなく、親の介護をどんなふうに進めていくのかについても具体的に書かれておりこれからのことをイメージできた。
50代以上の人は必読。
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![森佳乃子(レアリゼ代表)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/85871569/profile_54bdc7a09f9ab1345c1aa97eaf4f93d0.png?width=600&crop=1:1,smart)