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サメの時間

 頭に浮かんだのは、ニシオンデンザメの遊泳だった。一生とも言える。そこでは、私たち人間とは全く別の時間が流れている。緩やかで穏やかでとても雄大な流れが身を覆っている。
 その世界に景色は存在しない。目に潜む寄生虫が視界を奪い、その主を永遠の暗闇の内に閉じ込めている。しかし、寄生虫は光を発する。その光にサメの獲物は寄ってくる。サメは深海で珍しい獲物にあり付く。賢しさと愚かさを兼ね備えた小さな魚、長い生涯を終えて沈殿したクジラの死骸、微かな気配を察知して、それらに近付く。
 尤も、食べられなくてもすぐに死ぬことはない。内臓を動かさずにいれば、体力を消耗することもない。穏やかな時間に任せ、じっと獲物が来るのを待つこともできる。大人になるまではまだ時間がある。
 おそらく今も、サメはゆっくりと泳いでいる。長い時間を、長い距離を、旅している。微弱な電気と音だけが響く暗闇で。

参考映像:シャーク 海洋の覇者(吹替版) BBC EARTH

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