アオイ・サンゴショウ・カクテル
マンションの8階からに日没を眺めることができた。
都心から離れているせいか、西に障害物となるような高層ビルのない立地にあった。
土曜の夕方近くに、玄関のチャイムが鳴った。
スニーカーを片足だけひっかけ、出てみると宅配だった。
小箱を受け取り、ドアを閉めた。
リビングに戻りながら送り主を確かめた。
海外に赴任していた友人からのものだった。
発送は3ヶ月前
『きっと船便だな』
開けると白い石のような固まりが1つ入っていた。
薄手のパーカーを羽織り外に出た。
少し足を延ばし、ミントを買い込んだ。
好ましいチェリーがなく断念したが、気にしなかった。
帰りがけに本屋に寄って地図を見た。
部屋に戻り、白い固まりを持ち、その重さを楽しみながら、おろし金で摩り下ろした。
それをビニール袋に入れ、ワインの空き瓶を転がし、さらに細かくつぶした。
大皿の中央に広げ、冷凍庫の中からカクテルグラスを取りかけ、シャンパングラスに変えた。
状態を見て
『レモンはいらないな』
大皿に伏せ置き、スノースタイルのグラスを用意し、
冷えたジンとグリーンミントをシェイクした。
『めちゃめちゃ日本だろw』
日没の始まった、狭いベランダの小さなテーブルに、グラスを運びそっと注いだ。
リビングを背に、並べてグラスをおき、椅子もそえた。
そっとシャンパングラスを上げた。
はるか異国のさんご礁を吹き抜けて、風がやってきた。
そっとつぶやいた。
「そこからだと よく見えるだろ」
天を仰いだ。