上カルビと胃弱のレクイエム
Twitter(現X)の誰かはこう言った。「人の金で焼き肉が食いたい」と。
肉が好きな人は多いだろう。焼き肉、ステーキ、焼き鳥、しゃぶしゃぶ、すき焼き。肉を使った料理は多く、人々は数多の肉料理に惹きつけられ、明日以降の体重や体調と天秤にかけながら肉を喰らう快楽に浸る。
私も肉が好きだった。いや今も好きなのだが、特定の肉が食べられない。いや、食べられなくなった。
私は、牛肉、しかもその中でも美味しいとされるカルビが食べられない。
きっかけは高校2年生、ゴールデンウィーク。
父方の祖父母と共に、みちのく杜の湖畔公園に行ったあの日である。
ゴールデンウィークにお出掛けをしよう。そんな風に思った人々は大勢いたのだろう。同時に、そのお出かけ場所をみちのく杜の湖畔公園に決めた人々もかなりの人数いた。
その証拠に、着く前から大混雑していた。高速道路は渋滞し、ミリも進まない状態が長く続いた。平時であれば自宅から車で1時間もかからないその場所に着いたのは家を出てから3時間も経った頃であり、移動時間が3倍くらいに伸びていた。
というわけで、着いた頃には疲労困憊だ。当然、高校2年生の私は運転していたわけではないが、渋滞疲れというのは運転手じゃなくても感じるのだと初めて思い知ったのがその日である。
まあ、そんな状態でもみちのく杜の湖畔公園の散策は楽しかった。色とりどりの花々で飾られ、飛沫を上げる噴水がよく晴れた5月の日差しにきらめく。当然、公園内も人でごった返し、花を見に行ったのか人を見に行ったのかよくわからない状態とはなっていたのだが。
一通り公園を見て、その日は帰宅となったが、家に帰る前に夕飯を食べて行こうという話になった。まあ当然である。昼食は食べる間もなかったというか、コンビニで適当に買ったおにぎりを車内で食べる程度だったので、「せっかくお出掛けしたんだし、美味しいもの食べたいよね」となるのは理解できない話ではない。
そして、祖父母は言い出した。
「焼き肉が食べたい」と。
最初に言っておこう。祖父母は決して食が太い方ではない。むしろ細い。一人前の定食を頼んでも食べきれないことの方がほとんどだ。
しかし、それにも関わらず結構頼む。そしてそれのツケを払うのは、食が太い私の父か、若い者たち。
そう。この場合は、私であった。
私も当時高校2年生である。食べ盛りと言っても過言ではなく、結構食う方だった。といってもまあ、運動部に属しているわけでもないインドア派文芸部部員だったため、あくまで「それなりに」だが。
しかしまあ、世のおじいちゃんおばあちゃんというのは若い子に食わせたがる生き物である。テーブル上に並ぶ肉を焼いては私の皿に盛り付け、食べろ食べろと言うのだ。もちろん善意であるし、当時から私はそこそこ体格が細い方だったので、おじいちゃんおばあちゃんも食べさせて太らせたがるのもわかる。
そして私も、「意外とイケるっしょ」くらいの気持ちで、食べて、食べて。
まあ、翌日グロッキーな状態になったわけだ。
というか3日ほど寝込んだ。胃を壊して寝込むのは初めてのことだった。ろくに食えず、食ったものは吐き戻し、回復するまで結構かかった。
しかし、内臓というのは繊細なものだ。1度壊れると治るまでに時間を要する。
しかも、だ。私はその道の者ではないので詳しくはないのだが、内臓は物覚えが良いらしい。「これ食ったら調子悪くなったんだが!」という食べ物を記憶し、それを再び食べると体調を崩すことになると聞いたことがある。
私はあの高校2年生の5月以降、脂のたっぷり乗った美味しい牛肉が食えなくなったのである。
というか、しっかり回復するまでに数年を要したので、それまでほとんどの肉類が食べられなかった。
その間私は食べられそうな赤身肉を少しと、ほぼ野菜だけを食べていた。生野菜が単純に苦手なので温野菜が好きになり、野菜がごろごろ入ったスープ類が大好物になった。今でもスープストックトーキョーに行った際はラタトゥイユカレーを選ぶ。美味い。
めっちゃ健康的な生活になったと思うでしょ? 違うんだな、これが。
陥ったのは、深刻なタンパク質不足である。
どれだけストレッチしようが姿勢を正そうが治らない肩こり。徐々にハリを失っていく肌。そして悪化していく体調と精神。
そして最近知ったのだが、消化酵素はタンパク質が無いと作られないというか、良い感じにならないらしい。悪循環である。
その当時ではダイエットの大敵とされ制限されることの多かった肉類だが、不足するとこうも悪影響を及ぼすのかと今では思う。あの頃は本当に白米と野菜で生きてたと思う。よく生きてたな、私。
今ではそこそこ肉も食えるようになったため、豚肉と鶏肉が大好きである。牛肉も食べられないことはないのだが、やっぱり心理的なトラウマのせいで手が出せない。実は1回、「すき焼きならいけるかもしれない」とすき焼きを食べて吐き戻してしまったことがある。それが決定的なトラウマとなったのだろう。
しかし、それ以来本当に食が細くなった。調子が悪いとラーメン1杯ですら食べ切れない時がある。そこに煙草をぶち込んでいるのだから尚更だろう。禁煙する予定はないが。
だからといって、そんなに私も悲観はしていない。
たぶんこの事件がなければ、未だに私は野菜嫌いだっただろう。いや未だに生野菜は苦手なのだが、もっと食えなかったという意味で。
それに、かの有名な女王だか王女だかは言いました。
「肉が食べれないなら魚を食べればいいじゃない」と。(言ってない)
そこから私は大の魚好きになった。お魚大好きである。昨今の漁獲量の減少には心を痛めている。ホッケ……高くなったね……。サンマ……お前もう高級魚じゃん……。
足りないタンパク質はプロテインで補うことにした。運動不足が否めない私ではあるが、「運動しなくてもプロテインは飲んで良いんだよ」と言う友人の言葉に「なるほどそうか!」となったのがきっかけで飲んでいる。リッチココア味がお気に入り。
それ以降そこそこ体調は良いし、体力も戻ってきた。あとは運動不足を解消するだけなのだが……まあ、そこは頑張ろうね燃え滓よ……。
ということで、これを読んだ皆様は、食べ過ぎには注意してほしい。内臓やったらほんとに洒落にならんので……。
何事もほどほどが一番。食事はバランス良く、食べなさすぎも食べ過ぎも良くないよというお話でした。俺みたいになるな。
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