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張良雑考④──鴻門の会をめぐる歴史認識 

 歴史雑記120
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ヘッダ画像は岡成志『千万人の支那歴史』(代々木書房)より、鴻門の会跡と伝える石碑。

はじめに

 不定期更新の張良雑考をお届けする。前回予告したものと異なる内容であるが、それはまた別途書くので、ご寛恕いただきたく思う次第である。

 さて、秦末反乱から劉邦の即位までの間には、教科書に載るような著名なエピソードがいくつもある。
 そのなかでも、特に知られているのがいわゆる鴻門の会であろう。
 教科書に引かれるのは、もっとも詳細に語る項羽本紀からであるが、この事件は他にも『史記』のあちこちに、異なる形で記載されている。
 もちろん、「お話」としては項羽本紀のものが出色と言えるほどよくできているのだが、『史記』編者はそれ以外の記述も残しており、異伝を排除していないことは示唆的である。
 今回は、それぞれの記述を比較し、鴻門の会にも多様な認識があったこと、そしてその認識の背後についてもいささかの私見を述べたい。

項羽本紀における鴻門の会

 鴻門の会については項羽本紀がもっとも紙幅を割いて述べている。
 ただ、ここで全文を細かく検討する余裕はないから、要素を抽出して概略を把握しておくことにしよう。

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