共に生活するって大変
「本当に色んな人がいるなあ」
カフェで雨宿りしてるときふと思った。
お店を見渡せば、ヒジャブを被った女性、中華系のグループ、さらにどこか東南アジア系であろう浅黒い肌の人たち。
最近は見慣れた光景だが、改めて感心してしまった。
私の想像通りのマレーシアである。
というのも、マレーシアの人口構成はマレー系67%、中華系25%、インド系7%。
多民族国家でありながら、お互いを認め合い仲良く暮らしている。
なんとなくそんなイメージを持っていた。
わけだったのだが、
最近「ん?おかしいな」と思うことがある。
前提として、マレーシアには「ブミプトラ政策」なるものがある。
すごくざっくり言うと、
マレーシア人の中でもマレー系を優遇します!
という政策のこと。
具体例をいくつかあげてみる。
・大学の入学定員は、マレー系の割合を高く(人口比率を大きく上回る形で)定めている。また、奨学金も得やすい。
・就職に関して、公務員、政府系の仕事に優先的に採用される。
・住居を借りる際、他の民族より一定額安く入ることができる。
・銀行融資に関して、個人でも企業でも優先的に良い条件で融資を受けることができる。
・会社経営に関して、能力に関わらず、株主と一定割合の役員はマレー系を採用する。
え、人生何の心配もいらないじゃん。
というのが素直な感想だ。
(一瞬マレー人と結婚してもいいかなと思った)
ブミプトラ政策のそもそもの目的は、マレー人の経済的地位を上げることにある。
少しだけその背景の話をすると、
マレーシアが独立した当時、農業中心のマレー人と、商業中心の中華系の経済格差は拡大するばかり。
よそ者が自分の国の経済を握っていることに対し、マレー人の不満は募るわけである。
民族対立は激化して、死亡者の出る暴動まで起こった。
民族間の対立を鎮静するため、また、国全体の貧困率を下げるため、マレー人を優遇するブミプトラ政策が制定される。
実は、1971年の開始から現在まで、もう50年近くこの政策は行われている。
結果として、マレーシアの貧困率は下がったし、民族間の経済格差は小さくなった。
しかし、非マレー系からの反発があるのは当然なことで、現在も廃止を求めるデモが行われている。
それでも現状を変えるのが難しいのは、マレー人の特別地位に関する憲法が関わってくるからだという。
うん、またしても何も知らなかった。
いや、でもアンフェアなことだけはわかる!
と非マレー人の私は思うわけである。
こうなったら、実際にマレー人の意見を聞かなきゃ今日は眠れない。
20時半、ケーキを奢るといって友達を連れ出した。(マレー人甘いもの大好き)
みんな国籍はマレーシア人なのに、不平等じゃない?と聞いてみた。
「いや、私はブミプトラ政策はフェアだと思ってるよ」
彼女がそう言うので、なぜなのかさらに聞いてみると、
「マレー人の土地なのに、中華系とインド系の力が大きくなったらおかしいでしょ」
とのこと。
このとき、ブミプトラとはブミ(土地)とプトラ(子)の合成語で、「土地の子」という意味だと教えてもらった。
つまり、もともとのこの地の住人というニュアンスを持つ。
確かに、中華系やインド系は先祖を辿れば移民である。
彼女の言う"フェアである"というのは、マレー人にとって、ということだ。
この政策によって、マレー人の経済格差は小さくなったし、ブミプトラ(土地の子)が持つべきであった権利の保証がされた。
彼女の言ってることも理解できるが、なんだかモヤモヤしてしまう。
結局フェアかアンフェアかというのは、各民族にとっての利害の話になってしまうのか。
多民族国家ではあるが、三つの民族が溶け合って融和しているわけではない、というのがマレーシアの現実だと思う。
確かに、ヨーロッパなどの多民族国家と比べると比較的穏やかなように思える。
しかし、今でもデモは起きるし、何かと小さな民族対立がニュースになったりする。
当初は対立を減らすためのブミプトラ政策だったが、現在はブミプトラ政策のせいで民族間のしこりが生まれているという矛盾がある。
これまで私は、相手を"他の民族"というくくりでなく、"個人"として捉えることができれば「多民族共生」は可能であると考えてきた。
(下(民間)からのアプローチは、上(行政)を変え得るという、すごく個人的な希望だけれども。)
ただマレーシアの場合は、どうしてもブミプトラ政策による各民族の利害が優先してしまうように思う。それではくくりは消えない。
共生は強制であってはならない、とは常日頃思っているけれど、実際問題そう上手くはいかないな、と学んだ夜であった。