【カサンドラ】 ~第2章~ 12.1996-夢薬
頻りに後ろを振り返りながら、なんとか自宅の玄関の前に辿り着いた。
震える手で真鍮の丸いドアノブを掴み視線を左に動かすと、
姿形のはっきりとしない黒い影が被さるように私の頭上を覆った。
急いでドアを開け玄関の中に入ったが、何度鍵を閉めてもドアが開いてしまう。
壁に足を掛けながらドアを引っ張り、中央にある四角い小窓から外を覗くと
先ほどの大きな影が次第にはっきりとした人の形となり姿を映した。
不意に外側から強い力でドアを引かれ、私の体はフワッと浮き
もうダメだと諦めた瞬間警報のような電子音が鳴り響いた。
短く浅い呼吸と共に目を覚ますと、首にねっとりと長い髪が巻き付いている。
部屋が蒸し風呂のように暑い。
私は重病人のようにのっそりと体を起こすと、扇風機のスイッチを入れ
大人しくなった携帯を開いた。
先ほどの警報は、高校時代からの親友、沙織からの電話で
”出なかったから”という書き出しでメールが届いていた。
ここ数ヶ月の沙織からの連絡は、いつもやることが決まっている。
あの、白い結晶だ。
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