【カサンドラ】 7.断愛
「お手紙書いたよ」
小さな方眼用紙2枚を四つ折りにして、ニコニコしながら祐介が私の手に握らせた。
今日は別に記念日だとか、どちらかの誕生日だとかいうわけでもなく
会わない日が1日でもあると、次に会う時にいつも想いを綴った手紙を渡される。
たとえどんな悪態をついても、祐介はいつも笑顔で腕を広げてくれるのに、
私はその大きな愛情に耐えられず、徐々にその腕を振り払うようになった。
付き合いはじめの頃は、そのギャップさえも胸をときめかせたけれど
私の足元に縋り付き自分も同じだけ愛されようと乞う姿を見ていると、
意地の悪い姫のように理屈の通らない我儘で支配してしまう。
日に日に横暴になっていく私の態度に、何も言えない彼を
嘲笑うようにして見下ろす私と、
酷い罪悪感を背負う私とが共存する毎日は、静かに心身を衰弱させた。
何かと理由を付けて、会わない日を増やし
ひとりで海に行ったり、友達と飲みに行ったりして過ごしていたが
心配した祐介から何度も電話がかかってくる。
ようやく自分の時間ができても、常に彼の監視下にある感覚が息苦しくて
わざと携帯を置いて家を出たりした。
すると、意図的なのではないか、と、
祐介が私の行動すべてを疑うようになった。
ある夜、いつものように彼が託した私への手紙に
「結婚」の文字を見つけた。
鎖ではどこかに行ってしまいそうだから、紙切れで私を縛ろうというのだろうか。
私が欲しかったのは、そんな二文字じゃない。
ひとりの男性と愛し合い、新しい生命を育み、一つ屋根の下で日常をやり過ごす。
そんな生きた心地がしない未来を夢見たことなんて一度もない。
私はたくさんの男性に愛されていたいだけなんだ。
できるだけたくさんの人の目に映り、認められて、憧れられて
私はそれでようやく立っていられる。
それがたった一人の男性に集約されてしまっては、私の土台がガラガラと崩れてしまう。
生涯結婚なんて、したいと思う日はきっと来ない。
祐介が結婚を望むなら、別れなきゃいけない。
この手紙を読んだ時に、私がうまくリアクションを返せなかったからだろうか
祐介は更に私を束縛するようになった。
仕事が終わると電話をしてきて、夜眠れないからと電話がくる。
会えないと言えばどこに行って誰と何をするのかと聞かれ、
帰ってきたらまた電話をしなくてはいけない。
無条件で私を愛してくれる有難さと
まるで首輪をつけられた犬のように監視下に置かれる窮屈さに挟まれて
私は毎日激しい葛藤の中にいた。
どう、切り出そうか。
近くの海の砂浜を歩きながら、答えの出ない思考に飲まれては、波の音に掻き消される。
ロングダウンのポケットの中で、携帯電話のボタンが窪む感触で息苦しさを紛らわせていると
背後から聞き慣れない声に呼び止められた。
「何してんの?」
フルフェイスのヘルメットを抱えた男性が近づいてきた。
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